エピローグ
僅かに開いた窓からはそよ風が入り込んでくる。カーテンを音もなく揺らして、影を踊らせていた。
差し込む陽射しが心地良くて、穏やかな気持ちになれる。そんな午後のひと時。
それがどうしたっ! 苛立ちのあまり僕は叫んだ。
「あーーー!ヒマッ」
起こした体を思い切りベッドにぶつける。ボフッと言う音と共に白い枕少し浮いた。
僕は寝っ転がったまま、壁際に置かれた聖剣を眺める。バイト代をはたいて買った聖剣ガヴリール、のレプリカ。
石の台座にはヒビが入り、塗装も所々剥げてしまっている。
聖剣と一緒に川へ転落した僕は、度重なる偶然が重なって一命を取り留めた。
川の深さは、正に深すぎず浅すぎずと言った深度だった。
もう少し浅ければ川底に頭を打っていただろう。かと言って、もう少し深ければ川底で剣を抱いて溺死していたに違いない。
橋は狭いながらも、人通りが多かったのが幸いした。気づいた人がすぐに救急車を呼んでくれたので、迅速に引き上げられて病院へ搬送された。
数日間は意識が無かったらしいが、目が覚めてからは順調に回復していった。
命に別状はなく、今のところは後遺症の心配も無いとのことだ。ホントに奇跡だったらしい。
しかし入院生活にも慣れてきて病院内も自由に動ける許可を貰った今、僕は「暇を持て余す」という新たな問題に直面している。
「やっぱり夢だったのかなぁ」
僕は入院中に幾度となく発した言葉を口にする。
川に落ちてから病院のベッドの上で目覚めるまで、僕は確かに「ファイナル オブ クエスト」の世界にいた。
実際にはよく似ているだけで全然別物だったのかもしれない。クラストをはじめゲームのメインキャラクターはイメージ通りだった。
しかし、宿屋のオバちゃんの濃いキャラ付けは結局なんだったんだろうか。
夢にしては妙にリアリティーがあって、見聞きした事や記憶はしっかり残っている。マリアンヌのオッパイとか。
それも余計にもどかしかった。
結局いくら考えた所で答えは出ない。聖剣が見せた夢だと割り切っては、ヒマなので思い返すを繰り返して過ごしていた。
「おぅい、健太」
名前を呼ばれて入り口を見ると同じクラスの友人が立っていた。手には学校の鞄とコンビニのビニール袋が握られている。
「コレがガヴリールかぁ。なんかボロボロだな。ご愁傷様だぜ」
僕と同じでゲームが趣味なだけあって、ガヴリールには興味深々なようだ。だがボロボロとか言うなよ、傷つくから。
「何だよ、喧嘩売りにきたのなら帰れよ」
「まぁそう言うなよ、せっかく学校帰りに見舞いに来てやったんだぜ」
そう言って僕にコンビニの袋を手渡した。中にはお茶とお菓子と、たまに買うゲーム雑誌が入っていた。
「おっ気がきくじゃん。サンキュ」
僕は早速雑誌に手を伸ばす。コレでヒマな時間を少しは潰せる。
表紙には武器を持った見慣れない女の子のイラスト。今度出る新作のキャラだろうか。
「そういや今度フォッキューの新作出るじゃん?」
「そうだね」
「シリーズ初の女主人公なんだってさ」
友人の何気ない言葉に僕は呆れた。なんという事だ。
「シリーズ続いてマンネリなのは分かるけど、そういうのは求めてないんだよなぁ。もっと王道というか、斬新だけどどこか懐かしいというか。そういうさぁ……」
「お前も大概めんどくさいファンだな。
でも気持ちは分かるよ、最近の続編は名前だけ同じでなんか違うもんな。今度出るのも初代の前の話とかで懐古厨煽ってさ」
マジかよ。
確かに雑誌の表紙には「ファイナル オブ クエスト ーzeroー」の文字がある。
僕は諦めと憤りの混じった気持ちでページをめくる。そして、目に飛び込んできた文句とイラストを見て手を止めた。
イラストは表紙の黒髪の女の子。同じ絵だが見開きで拡大されている。そして文句はその娘のキャラ紹介だ。
「シリーズ初の女主人公はなんと凄腕の美少女傭兵!?
血濡れの不死鳥 キャロライン=フェニックス!」
あぁ、この娘、この名前はもしや。
僕は衝撃で手が震え出した。
喉も渇いてきたけど、側にあるお茶には目もくれず顔を近づけてページを凝視する。
長い黒髪を後ろで2つに縛り、短剣をコチラに向けながらドヤ顏でポーズを決めている。
まだ幼い感じは残るが、眉毛の形なんかはどことなく面影を感じる。
「アレッ、お前って金髪巨乳キャラ以外でも反応するんだな」
固まった僕の後ろから、友人が顔を覗き込む。おそらく今の僕は凄くニヤついた顔をしている事だろう。
またいつの日か。
そんな言葉がふと思い出される。
僕は発売日を確認しようとページをめくり始めた。そして、訳知り顔のまま友人に話しかける。
「なぁ、知ってるか。今度出る新主人公って実は……」
完
最後までお読みくださりありがとうございました。
聖剣とオバちゃんのお話は、ひとまずこれでお終いです。思った以上に多くの方の目に触れて頂けて、この一ヶ月大変貴重な経験をさせてもらいました。
また次回作にも目を通して頂けたら幸いです。




