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21 勇者の戦い

 息を吸い込む間は無防備になる。それは敵も理解しているようだ。

 別のヘルハウンドがクラストに飛びかかる。


(危ないっ)


 喉を狙う牙を左の短剣で防ぐ。

 短剣にしては大きな鍔に、歯を剥き出しにして食らいつく。ヘルハウンドはなおも押し倒す勢いで重心を掛ける。

 しかし短剣の柄で、逆に頭を殴りつけられてしまった。

 柄の握りは全体が鉄製の板で覆われている。短剣は手甲とナイフが合体したような独特な形状をしていた。


 キャウン……グウゥ。


 フラついて倒れた所を、すかさず右手の長剣で刺される。コチラの武器も刃が波打った、特殊な形をしている。


「まずは1匹」


(スゲェ。しかもマン・ゴーシュにフランベルジュか)


 僕はゲームも好きだが、実際の刀剣も同じくらい好きだったりする。レプリカとは言え10万以上の剣を買ったのだ。

 ゲームから興味を持ったとは言え、それなりに詳しい方だと思う。


 左の短剣がマン・ゴーシュ。短い剣身に比べて鍔が長くて太い。柄も握る部分がガードされてる守りに適した武器だ。

 右の長剣がフランベルジュ。特徴は炎のように揺らめく波状の刃。切り傷を効率よく開く為、殺傷力が高いらしい。


 どちらも相当使い込んであるらしく、全体的に黒ずんでいる。

 しかし、それ以上に普段の手入れが行き届いていた。

 繰り返し血を浴びて、研がれ続けてきた刃。鈍色の剣身は、今も魔物の帰り血で怪しく輝いている。


 危険を嗅ぎ取ったのか、残りの6匹はすぐにクラストから離れた。ブレスを吐くのも諦めたらしい。


 残りの2人を囲む動きを見せる。狙いは恐らく1番体力が低いマリアンヌだろう。


 案の定、4匹が四方から彼女に襲いかかる。


 マリアンヌがその場にしゃがむのと同時に、グスタフが庇いに入る。


「うりゃあああっ!」


 力任せに振り回した聖剣は、見事1匹に命中した。剣の重さで吹き飛ばされると後方の幹に激突する。そして泡を吹きながら動かなくなった。


雷弓の疾矢(サンダーアロー)


 マリアンヌもただしゃがんだのではない。放ったマリアンヌの魔法が奥の敵を射抜いた。ソイツもブレスの準備をしてたらしい。あらぬ方向に火を放ちながら息絶える。


 後はもう消化試合だった。


「1匹逃しましたわ」


「取り敢えずみんなケガはないようだな」


「うーむ、コイツは流石に喰うのは怖いな」


 ホントに蹴散らしてしまった。

 実を言うと、僕はヘルハウンドには苦い思い出しかない。

 ゲームの中の話だが、丁度ガヴリールを失ってすぐに登場する。強敵という印象が刷り込まれていた。


 マリアンヌはともかく、クラストとグスタフの事を僕は心配していた。死にかけの姿しか見た事が無かったからだ。

 だがそんな心配も、今の戦いを見た後では信頼に変わった。


 魔人の騎士が規格外なだけで、彼らもまた十分な経験を積んだ勇者なのだ。


(認識を改めねば)


 だが勇者の名に恥じぬ強さの彼らであったがその後、戦闘は殆ど無かった。


(まぁ分かってましたけどね)


 いつ襲われるかも分からない危険な世界。無駄な戦闘を避けるのは旅における鉄則だ。

 僕がオバちゃんとの生活で散々学んだ事だった。その上、この先は立ち寄る村もない。


 しかも今度の目的は魔王の討伐。勇者に剣を届けるよりも遥かに危険なのだ。

 魔物の気配に関しては、オバちゃんよりも神経を使っていた。


 マリアンヌの魔法、聖なる薄套(ホーリーヴェール)。一定の歩数の間姿を消して魔物と戦闘しなくなる、フィールドでしか使用出来ない魔法だ。

 この世界では姿までは消せないようだが、魔物にかなり近づいても滅多な事では気づかれなくなる。


 この魔法の使用頻度が高い、とにかく高い。それこそ低レベルクリアを目指してるのか疑いたくレベル。だが、旅を続ける上でこれ以上の手段は無い。


 基本こちらからは魔物に仕掛けない。やむ終えず戦闘を行う場合は、すぐにマリアンヌはグスタフの後ろに隠れる。魔法やクラストの切り込みで敵を分断し、なるべく3対1の状況を作るようにした。


 邪魔が入らないよう攻撃魔法で牽制しつつ、グスタフが引き付けた敵に背後からクラストが斬りかかる。MPを使う剣技や全体攻撃魔法はもってのほか。

 1匹づつ確実に仕留める。これを敵が全滅するか、逃げるかするまで繰り返す。


 何というか地味だった。


 ゲームやアニメや漫画によくある「強敵が出た!」とか「呪文の詠唱が終わるまで時間を稼いでくれ」とか、そういうのを期待していただけに余計に地味に感じる。


 僕だってそれなりに修羅場をくぐって来たつもりだ。いちいち敵に驚いたりピンチになったら、立ちいかなくなる。それはくらい理解

 している。


 会話も無く、表情も変わらないままクラストは魔物の背中を刺し続ける。そんな彼を見続けるうちに、背筋が凍るのを感じた。


 姿は世界を救う旅をする王道ファンタジー主人公。やってる事は無防備な背中にトドメを刺すだけ。武器もキラキラ輝く聖剣ではない。血みどろのギザギザ刃だ。


 絵面のギャップが色々と酷い。他の2人も大体同じような感じだ。淡々と敵を()()している。

 お肉屋さんも裏ではこんな仕事もしてるのかな。


 それでも、声をかけるまでも無い3人の連携は見事の一言だ。上手く魔物との「命のやり取り」を「作業」に落とし込んでいる。

 今までの戦いの経験と洗練された技術があってこそだ。勇者というよりも職人に近いが、それはそれだ。


 なんて言うか、泥臭い。これはこれで渋くてカッコイイのだが、宿屋のオバちゃんの方が戦い方派手だった気がするのは如何なものだろうか。


 うーん。


(認識を改めねば)

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