16 決着
エクスガブバーの元ネタは、世界的にも有名なイギリスのアレだ。
それは良い。問題はネーミングセンスにある。
僕も初見の時は唖然としたものだった。王道展開な入手シーンからのクソダサセンス。プレイヤーは皆、感動を台無しにされたと思われる。
そのくせにデザインがメチャカッコ良いのだ。それがガッカリ感に拍車をかけている。
そして極め付けは説明書の標記ミスだ。
本来「ガヴリール」とかけて「エクスガヴバー」になるところを、誤植で「エクスガブバー」にされたのがトドメとなった。
以降「エクスガブバー」はチート性能を誇る隠しネタ武器として、ファンやメーカーにイジられ続ける事になった。
「なんだかヘンな名前だねぇ」
(だよね!)
辛辣かつ直球な意見だけど、そこは激しく同意する。
ともかくこれで形成逆転。
クラストが戦い、グスタフが不意打ちして、マリアンヌの援護の末に、オバちゃんが耐え忍んだ奇跡の10ターンだ。
もう負けるワケにはいかない。
魔人の騎士も腹に一撃喰らって頭を冷やしたらしい。むやみに武器を振らず、一度距離を取った。
やはり魔王の右腕、ただの脳筋では無い。
「悪いけどアンタの剣筋はもう見切ったよ。今日は諦めて帰ったらどうだい?」
騎士の大剣を握る手に力が入るのが分かる。せっかく冷やした頭にまた怒りの炎が灯されたようだ。
「調子乗るなよ。如何に聖剣の力が目覚めたとはいえ、いつまでも躱せると思うな!」
ゴグゥ!
騎士は力にまかせて、大剣を地面に叩きつけた。剣を中心に放射線状に亀裂が広がり、オバちゃんの足元にまで伸びてくる。
だが、狙ってなのか天然なのかオバちゃんの挑発は止まらない。
「もう躱す必要も無いよ。全力で打ち込んできな、返り討ちにしてあげるよ」
(え?ちょっとオバちゃん?)
騎士に同意するわけじゃないが、いきなり大きく出すぎではないか?
確かにエクスガブバーはこの世界最強の剣だ。だけどみんなも消耗してるし、ここは追い返すだけでも十分だと思うの。
「この剣が怖いなら、こうしといてあげるよ」
オバちゃんの暴走は止まらない。あろうことか聖剣を雑に上へと放り投げた。
オイオイオイオイイイイイィ!!?
ちょっと何やってんの、離したらステ補正も無くなるんだよ、なんでドヤ顏したまんまなの。
宙を舞いながら混乱していた僕であったが、覚醒しても自力で動く事は出来ない。悲しいかな、そのままヒビの入った地面にぶつかる。
カランと乾いた音がした。それがそのまま合図になった。
「このババアァア!!!」
魔人の騎士による全力の振り下ろし攻撃。当たったらとかの話ではない。近くに居るだけで吹き飛ばされるレベルの衝撃だ。
対するオバちゃんは素早く僕のもとまで駆け寄ると、剣身を蹴り上げて右手で柄を掴んだ。
しかしもう間に合わない。ロクに構えないまま騎士の直撃を受けてしまう。
今度こそお終いだ。その刹那、僕はデジャブを感じた。以前コレと同じ様なことがあった、そして僕はこの構えを知っている。
右手で剣を握り、全身の力を抜いての棒立ち。オバちゃんは相変わらずドヤ顏をしていた。
振り下ろされる大剣の刃に合わせて、聖剣の剣先から手元へと剣身を滑らせていく。同時に身体に捻りを加えてオバちゃんは飛び上がった。
大剣の威力を聖剣に乗せて、まるで駒の様に回転する。余りの速度で口元の頭巾もスルリと飛ばされた。ゴオォとまるで嵐の中にいる様な轟音。
そして、エクスガブバーの斬撃は寸分の狂い無く騎士の首後ろを打ち込んだ。
並みの重装鎧なら首が消し飛んでもおかしくない会心の一撃。
それだけに魔人の騎士の兜にヒビが入っただけで終わったのには驚かされた。今更だがとんでもない防御力だ。
それでも致命傷には変わりないはずだ。そのまま膝をついて前のめりに倒れると、魔人の騎士はそれきり動かなくなった。
(やった。勝ったんだ)
最後のオバちゃんの一撃……間違いない、最初の戦闘でゴーレムを倒した技だ。あの時は怖くて視界を閉じていたから分からなかった。
そして改めてオバちゃんの強さに驚かされた。あんな超強力なカウンター技、僅かでもタイミングを外せばこちらが死んでいた。しかも聖剣の補正無しでやってみせたのだ。
この宿屋のオバちゃん一体何者だろうか。これだけ強いのに歴代のシリーズにも設定資料にも登場してないのが不思議でならない。
マジマジと見つめる僕の視線を感じたのか、満面の笑みで得意げに語った。
「ねぇ、躱すまでも無かっただろ?」
いや、アレは厳密には躱したのに入るのではないか。
そう思ったが、口には出さなかった。




