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オレンジ  作者: 赤井慎一
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2.運命。逆らうべからず

本編の主人公、ライファのような人、最近減ってきてるような…。だからこそこういう設定にしてみたわけです。これを読んで増えて欲しいですね。こういう熱い人。

 満員電車の中、ある男と出会ったんだ。本当に小さな出来事だったから、気にも止めてなかった。運命って言うのかなぁ。あの場で出会わなくてもいずれどこかで出会った気がするんだ。

 そう、朝起きて、学校に行こうとして、あの電車に乗ったんだよ。そしたら…


「てめぇ!もう一回言ってみやがれ!」


 満員の電車で運よく座席を確保して、うとうとしていた時、その怒声は聞こえてきた。はっと目を覚まし、辺りを見渡す。だが座っているため、視界には前で立って新聞を読んでいるサラリーマンを中心に、怒声が気になって振り返る女学生、キョロキョロと辺りを探し回っている乗客しか映らない。


「もう一度言おう。君らがもっと詰めればその座席シートにあと二、三人は座れるのだ。そんなでかい態度で公共の場を占拠するなと言っている。」


 どうやら怒声を浴びた張本人の発言のようだ。

 一体どこで争っているのか全くわからなかったが、その人が発言してくれたおかげで居場所がはっきりと割れた。なんと自分が座っている座席の向かい側ではないか。周りの乗客も後ろを振り返っている。


「ここはな、俺らが先に座ってたんだから俺らに座る権利があるんだよ。てめぇが座りてぇからってガタガタ文句ぬかすんじゃねぇよ!」


 ドカッという鈍い音と共に、辺りから悲鳴にも似た歓声が上がった。


 これは大事だな。


 自分の中にある正義感が燃えたぎってきた。重い腰を上げ、出来事に夢中になっている乗客の間を無理やり通り抜けて行く。

 前にもこんなことがあった。こういう他人事のトラブルの時、迷わず助けに行けるお前って凄いよ、って友達に言われたことがある。その言葉は今でも胸に深く刻まれており、こんな場面でこそ自分が輝ける時だと実感していた。

 最前列に出てみると、いかにもって感じのチンピラが三人、目に飛び込んできた。横を振り向くと、勇気ある被害者らしき人が周りの乗客に支えられながらこちらを見ていた。殴られた反動で後退してしまったのだろう。


「なんだ、てめぇ?」


 チンピラの一人がこちらに睨みを効かせながら言った。全員ピアスに全員ダボダボファッション。改めて見ると本当にいかにもって感じだ。


「おれはライファ・エルジオン。以後よろしく。」


 ライファは躊躇することなく名乗った。チンピラ三人はぽかんとしている。


「てめぇの名前なんかどうだっていいんだよ!」


 一人が殴りかかってきた。

ライファはその拳をさらりと交わし、伸びきった腕を右手で掴むと、そのまま関節とは逆に捻ってやった。

ぐああっとチンピラは叫び、その場に伏した。

すると残りの二人もわけのわからない文句を叫びながら殴りかかってきた。

ライファは慌てることなくその二つの拳の軌道を見破り、しゃがみ込むように交わした。

後は左手で右側のチンピラの首を手刀で突いた。

完璧に気絶するポイントを押さえているのであと小一時間は起きないだろう。さらに、また左手で左側のチンピラの胸ぐらを掴み、頭突きをお見舞いしてやった。チンピラは、ああっと叫び声を上げながら額を抑えて倒れた。伏しているチンピラも、もう勝機はないことがわかったようで、抵抗する様子さえ見せていない。一瞬の静寂の後、一気に周りから歓声と拍手が湧き上がった。


 これだ、これだよ。今がおれの一番輝ける時なんだ!


 ライファは照れながらも嬉しさを隠しきれず、笑顔で周りに頭を下げている。

 するとそこへ、殴られた被害者のおじさんが近寄ってきた。


「いやあ助かったよ。ありがとう。」


 そう言ってきたこのおじさんは三十代後半から四十代前半のスーツを身に纏ったサラリーマン風の男性。とてもさっきチンピラに言っていた台詞とは結びつかないくらいのいい人そうな人相だ。


「いえ。こういうの見て見ぬふりできない性格っスから。」


 ライファの言葉ににこりと満面の笑顔を浮かべたその男性は振り返って消えて行ってしまった。

 未だ鳴り続く歓声の中、ライファはこれが全ての始まりだとは思ってもいなかった。

 朝の満員電車は賑やかになり、到着地点まで静けさを取り戻すことはなかった。嵐の前の静けさの、その前にある幸福のように。

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