1.プロローグ
波の音は静寂を掻き消す。海岸は穏やかで、自分達を除けば人っ子一人いない。
辛いとか悲しいとか死にたいとか。そんな想いをここに捨てて行く人って、やっぱり弱いんだよな。自分一人じゃ整理出来ないからここに捨てて行くんだよ。この海、陸、空はその全てを受け入れられる。寛大で大らかで、とにかくすげぇでかくて…おれも甘えたくなるような場所だよ。
この世界に日を運んでいる遠い遠い光と熱の塊が、海の向こうから最期の夕日を視界一面に放っている。
「またあの太陽が昇る頃には、おれたち死んでるんだろ?」
隣にいる男からの答えはなかった。その沈黙こそ答えだから。
「こんな綺麗なもの、最期に見れるなんて。幸せな方だと思うぜ。」
一日は当然のように過ぎていく。それに伴って、明日は必ずやってくる。
誰かが言ってたっけ。あの遠い熱の塊である球体には寿命があるんだって。五十億年もすれば、あの球体は熱と光を失ってしまうんだって。だからこんな綺麗な夕焼けなんて、見られるのはあと五十億年だけらしいんだ。気が遠くなるような話だけど、でもその中の一回一回って凄く大事なんだなって、今は思うんだ。だってこれが最期だから。あの球体はまだ熱も光も失わないけど、これが最期なんだ。
「まだいるのか?」
「もう少しだけ。」
隣の男はそれだけ聞くと、静かな足音を残し、去っていった。
「目に焼き付けておきたいんだ。最期のオレンジ色の夕日を。」