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宇宙(そら)の果てまでかっ飛ばせ! 私立サイハテ高校の規格外ナイン〜普通の高校野球がしたいのに、対戦相手が全員人外です〜  作者: 明石竜


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3/3

第3球 暗殺者、入部します! 魔グラブ対アンカー・シンカー

 幽霊チームを強制的に成仏させてから数日後。我がサイハテ高校野球部は、今日も元気に常識を置き去りにした練習に励んでいた。

「Type-99! もっと鋭いスライダーを投げんかい! 獅子王、テメェはマタタビの匂いに釣られてんじゃねえ! 右中間に走れ!」

 グラウンドに冴子監督の怒号が響く。彼女は一升瓶(中身は緑茶)を片手に、

ノックバットを狂ったように振り回していた。

「あー……。今日も平和(?)だなぁ……」

 俺は愛用の錨型バット『アイアン・アンカー』を肩に担ぎ、

ベンチの前で炭酸飲料を飲んでいた。

「どこが平和よ! 毎日胃薬の消費量がギネス記録を更新しそうなのよ!」

 隣でほのかが、スコアブックを丸めて俺の頭をポカポカと叩く。

「大河、のんきに炭酸を飲んでいる場合じゃないわ」

 ノートPCのキーボードをマッハの速度で叩きながら、暦が冷徹な声をあげた。

「さっきから、グラウンドのバックネット裏、百二十メートルの位置から、

異常なまでの『殺気エネルギー』が感知されているわ。対象の戦闘力(野球力)、推定五十三万」

「それ、ただのスカウトとか偵察のレベルを超えてない!?」

 俺が驚いてバックネット裏に目を向けると、そこには、いつの間にか一人の

女子生徒が立っていた。小柄で細身、白い肌に、腰まで伸びた銀髪を高い

ツインテールに結んでいる。髪留めは黒い星形で、吸い込まれそうな紅い瞳と、

不機嫌そうに寄せられた細い眉が印象的だった。上半身はサイハテ高校の紺色の

セーラー服なのに、下は野球部の白いズボンと黒いスパイク。

その右腕だけが、肩から先を覆う紫色の巨大な機械グラブに飲み込まれていた。

表面には無数の棘と発光する回路が走り、掌の中央には砲口のような黒い穴が開いている。

 明らかに雰囲気が違った。

「……見つけたわ。地球の、狂った野球星人ベースボール・エイリアン

 少女はそう呟くと、フェンスを軽々と跳び越え、音もなくグラウンドにシノビ足で

着地した。

「おいおい、お嬢ちゃん。ここは男子禁制……じゃなくて、部外者立ち入り禁止だぞ?」

 俺がアンカーバットを地面に置いて話しかけると、少女は紅い瞳を妖しく光らせ、

俺のバットを指さした。

「私は宇宙の暗殺ギルド『デス・スター』から派遣されたエージェント、

星狩ルナ(ほしかり るな)。錨ヶ崎大河……あんたが持つその超質量兵器

『アイアン・アンカー』を回収、および、あんたの戦闘力をここで完全に

抹殺アウト』しに来たわ」

「やっぱり暗殺者じゃねえか!!」

 俺とほのかの絶叫がハモる。

「ルナちゃん、宇宙の暗殺者なの? でも、なんで野球部のユニフォーム(下だけ)穿いてるの?」

 ほのかがルナの服装の矛盾を突く。確かに、上はセーラー服なのに、下はサイハテ高校野球部の白ズボンをきっちり穿いて、スパイクまで履いている。

「……暗殺ギルドの規則よ。対象を抹殺する際は、その星のローカルルール(野球)に則って、カモフラージュしなければならないの」

 ルナは少し顔を赤くしながら、フンスと鼻を鳴らした。

「律儀かよ!!」

 俺は思わずツッコんだ。

「問答無用! 覚悟しなさい!」

 ルナが右腕の巨大グラブを突き出すと、グラブの中心から凄まじい吸引力が発生した。

「我が魔グラブ『ギャラクシー・ボイド』は、あらゆる質量を吸い込むブラックホールを内蔵しているわ! あんたのその錨ごと、魂を吸い尽くしてあげる!」

「うわああ、バットが持っていかれる!」

 地面に置いていた三十キロのアイアン・アンカーが、凄まじい風切り音を

立ててルナのグラブへと吸い寄せられていく。

 だが、その瞬間。

『ピピッ……。警告。その魔グラブは、高校野球用具の使用制限・第十項に適合しません』

 バックネット裏から、キャッチャーのType-99が物凄いスピードで

スライディングしてきた。

「やっぱりブラックホール兵器なんか反則――」

『主な違反箇所は、本体カラーの紫です』

「ブラックホールより色が先なの!?」

『なお、アイアン・アンカーもバット規格違反です』

「俺まで巻き込むな!」


 Type-99はルナの魔グラブの銃口(?)に、ガムテープをペタペタと高速で貼り付けた。

「ガ、ガムテープ!?」

 ルナが驚愕する。

「なんでロボットがガムテープを常備してるのよ!」

 ほのかも別の意味で驚いていた。

『自己修理用です』

「自分の体もガムテープで直してるの!?」

『右脇腹は三重貼りです』

「急に耐久性が心配になってきた!」


『エネルギー放射口の閉塞を完了。バックファイア(逆流)の危険性、98%』

「しまっ……!?」

 ボカン!!!

 魔グラブの内部で吸引エネルギーが逆流し、小さな爆発が起きた。

 ルナは「ひゃうん!?」と可愛い悲鳴を上げて、その場に尻もちをついた。

銀髪のツインテールが、爆発の煙で少しアフロっぽくなっている。

「ぷっ……あははは! 暗殺者なのにガムテープで無力化されてる!」

 ほのかがお腹を抱えて笑い出す。

「う、うるさいわね! ギルドの最新兵器が地球の粘着テープに負けるなんて計算外よ!」

 ルナは顔を真っ赤にして立ち上がると、今度はグラブの側面から、鋭いレーザー

ブレード(光の刃)を起動させた。

「こうなったら物理的にあんたの首を――」

「おいおい、そこの銀髪ちゃん」

 ドスン、とルナの背後に巨大な影が立ちはだかった。一升瓶を肩に担いだ冴子監督だ。

その目は、獲物を見つけた猛獣のように爛々と輝いていた。

「テメェ、さっきの身のこなし……フェンスを跳び越えた時の足首のスナップ、

重心の移動。ただの暗殺者じゃねえな。相当な『俊足』と『強肩』の持ち主だろ」

「な、何よ……。私は暗殺の英才教育を――」

「よし、合格だ! 我が野球部の『セカンド(二塁手)』として採用する!」

「聞いてないんだけど!?」

 ルナの目が点になる。

「監督! 何を言ってるんですか! 彼女は暗殺者ですよ!? それに、

女子選手は甲子園に出られませんからね!」

 ほのかが慌てて止める。

「暗殺者なのは別にいいとして、そっちは確かに問題だな」

「問題の優先順位がおかしいんですよ!」

 冴子監督は腕を組み、ほんの三秒だけ真剣な顔をした。

「よし。甲子園に行くまでに、ルールを変えさせる!」

「野球の特訓より難しいことを簡単に決めないでください!」

「いいじゃねえか。宇宙人もロボットもライオンもいるんだ。今さら暗殺者が一人増えた程度で、うちの野球部は止まらねえよ。なぁ、暦?」

 冴子監督は不敵に笑った。

「ええ。彼女の身体能力データを見る限り、二塁手としての守備範囲は地球人換算で

『半径五十メートル』。彼女がセカンドに入れば、我がチームの防御率は0・12まで下がるわ。大歓迎よ」

 暦がタブレットを叩きながら、冷酷にルナの戦力を計算する。

『高野連への規則改正申請書を作成します』

「九十九、真に受けなくていいから!」

 ほのかが呆れ気味に突っ込む。

『申請理由。“宇宙の暗殺者を二塁手として運用するため”』

「その書き方じゃ絶対に通らないわよ!」


「ちょっと待ちなさいよ! 誰が野球部なんて入るもんですか! 私はあんたたちを殺しに――」

「じゃあ、テストをしようじゃねえか」

 冴子監督がニヤリと笑い、俺のアイアン・アンカーをルナの前に放り投げた。

「大河、一打席勝負だ。この銀髪ちゃんが、テメェのアンカーバットから放たれる

打球を、その魔グラブで完全に捕球キャッチできたら、大河の命でも

何でも好きにしろ。だが、もし捕れなかったら……テメェは今日からうちのセカンドだ!」

「ちょっと待て! 俺の命を勝手に賞品にするな!」

「キャプテンならチームのために命くらい張れ!」

 冴子監督は悪びれもせず言い放った。

「入部テストで命を張らせる野球部がどこにある!」

『バルカン星では一般的』

「宇宙基準を持ち込むな!」


「面白い! 乗ってやるわ!」

 ルナが激しく燃える紅い瞳で俺を睨みつけた。

「宇宙の暗殺者が、地球の球ごときに遅れをとるわけがないわ。あんたの打球ごと、

その傲慢な鼻をへし折ってあげる!」

「言ってくれるじゃねえか、宇宙の暗殺者セカンドさんよぉ!」

 俺は地面からアイアン・アンカーを引き抜き、両手でしっかりと構えた。

マウンドには、なぜかノリノリの宇宙人・ゼットが立っていた。

『ワタシの、球を、大河が打つ。それを、ルナが捕る。銀河系デスマッチ、開始……』

 ルナはセカンドのポジションに入り、腰を低く落として身構えた。

その巨大な魔グラブ(ガムテープは剥がした)からは、いつでも打球を

吸い込むようなプレッシャーが放たれている。

『イクゾ、大河……!』

 ゼットが振りかぶり、自慢の『重力崩壊球グラビティ・フォール』を投げ込んだ。凄まじい重力の渦を巻いて、白球が俺の胸元へ迫る。

「うおおおおお!!」

 俺は三十キロのアンカーバットを、自身の肉体がちぎれんばかりの

フルスイングで迎撃した。

 ギイィィィィン!!!

 爆音と共に、打球は重力を弾き飛ばし、一直線にセカンドのルナの方向へ、

光の弾丸となって突き進んだ。

 猛烈な風圧で、グラウンドの砂が綺麗に割れる。

「もらったわ!!」

 ルナが叫び、魔グラブを打球の軌道上に突き出した。

「『ギャラクシー・ボイド』、最大出力ゥゥ!!」

 打球がルナのグラブに収まる――その直前、俺の打球は、アンカーバットの形状(錨型)が持つ特殊な空気抵抗のせいで、信じられない角度で『急激に下へ沈み込んだ』。

 そう、それは錨が海底へ向かって一直線に沈むかのような、超重量級の

魔球・『アンカー・シンカー』へと変化したのだ!

「えっ!? 球が沈んだ……!?」

 ルナの紅い瞳が驚愕に見開かれる。

 ドガアアアアアン!!!

 光の弾丸は、ルナのグラブのわずか数センチ下、彼女のスパイクのすぐ横の

地面を直撃した。凄まじい衝撃波がルナを襲う。彼女の制服のスカートが風圧で

激しくめくれ上がり、恥ずかしい黒のオーバーパンツ(見せパン)が完全に

露出した。

「ひゃ、ひゃうううううううう!?!?!?」

 ルナは顔を耳まで真っ赤にして、スカートを両手で押さえながら、

その場にへたり込んでしまった。打球はそのまま外野フェンスを突き破り、

はるか彼方へ飛んでいった。

「ゲームセット! 勝者、錨ヶ崎大河!」

 冴子監督がホイッスルを鳴らした。

「……打球速度、時速二百五十キロ。かつ、インパクトの瞬間に錨の

爪が作った気流による、縦への異常変化。捕球の確率は0%だったわね」

 暦が満足げに言った。

「う、うう……。暗殺者の私が、こんなハレンチな負け方をするなんて……」

 ルナは涙目で地面を叩き、悔しがった。

「よし、約束通り、今日からテメェはサイハテ高校野球部のセカンドだ! 

ほら、背番号『4』のユニフォームだ、着替えてこい!」

 冴子監督が、どこからともなく用意したユニフォームをルナの頭に投げつけた。

「うぅ……おのれ地球人、おのれ錨ヶ崎大河……! 覚えてなさい、

野球のルール(甲子園優勝)で、いつか必ずあんたの命を奪って

あげるんだから!」

 ルナはユニフォームを抱きしめながら、捨て台詞を残して部室へと

走っていった。

「監督、なんで最初から女子用のユニフォームを用意してたんですか?」

「勘だ」

「暗殺者が入部する未来を勘で当てないでください!」

 俺は突っ込んだ。


「……ねえ大河」

 ほのかが呆れた顔で俺の横に立った。

「これでまた一人、まともじゃない部員が増えたわね」

「まあ、守備力は上がったからいいんじゃないか?」

 俺は苦笑いしながら、アイアン・アンカーを肩に担ぎ直した。

「よし! 新メンバーも増えたことだし、明日からの猛特訓、死ぬ気で

ついてきやがれえええ!」

 監督の一声で、サイハテ高校野球部の、さらにハチャメチャになった日常が

再び動き出す。

 宇宙人、ライオン、ロボット、そして宇宙の暗殺者。俺たちの甲子園への道は、もはや誰も止められない(というか、誰もついてこれない)次元へと突入していくのだった。

(第3球・了)


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