最終話 そしてまた明日から。
肉が焼ける音。
食欲を刺激する匂い。
んー、焼肉最高っ!!
ワイワイガヤガヤ、クラスのみんなで焼肉屋にいる。今日で高校も終わり、今は卒業式後の打ち上げ中だ。
斉藤たちはもちろんだが、珠凛や彩葉、他のクラスのヤツらも参加している。陽葵も駆けつけてくれた。
自由参加で声をかけたところ、まさかこんなに集まるとは。俺が幹事をしているのだが、参加費を個別にキャッシュレスで送ってくるヤツとかいて困る。
(まぁ、みんなの制服姿を見るのも、これで最後だしな)
颯との試合の後、色々なことがあった。
颯の悪事が明らかになったことで、俺に対する誤解もとけ、クラスの他のヤツらともそれなりにうまくやれた。
当初、俺はクラスメイト達を許せなかったのだが、「いがみ合うのは、蒼空クンに損」と珠凛に正論を言われて、俺も態度を改めることにした。
俺の高校生活は実質1年半になってしまったが、文化祭、学園祭、体育祭などの行事も楽しめ、それなりに楽しいことも多い高校生活だったと思う。
颯はというと、行方知れずだ。
結局、実刑は免れ、保護観察になったらしいが、今、どこで何をしているのかは知らない。だが、例の一件で、颯の実家と反社との繋がりが明るみに出たため、家の事業は傾いているらしい。
「蒼空クン。せっかくのお疲れ会なのにスマホ見てたらメッ!!」
珠凛に怒られてしまった。
「いや、ニュースアプリの通知がきてさ……」
「ほらっ。スマホはしまうっ。って、なんか蒼空クンのスマホ、お話してるよ?」
(あ、読み上げになってた……)
スマホ音声:「……左鎖骨に骨折痕、腹部に刺創があり、警視庁は……自殺と事故の両面で……」
打ち上げもそろそろ終わりの時間だ。俺が幹事なので、会計して外にでると、皆、思い思いのグループに別れて、店の前にたむろしていた。
学校行事などではすぐに帰ってしまう面々も残っていて、少し驚いた。
海外に行く訳でもないし、もう二度と会えない訳ではないのだが、なんだか名残惜しい。大して仲が良くなかったヤツについても、寂しく思うから、卒業とは不思議なものらしい。
桜散る卒業には、惜別という言葉がよく似合うと思った。
元櫻狼ファイブのメンバーについては、山口は国立大学への進学が決まっている。ま、山口なら何の問題もないだろう。
斉藤は、プロ野球チームの入団テストを受けるらしい。家の事情は別としても、結局は野球が好きなのだろう。
彩葉はリハビリもうまくいき、すっかり元気になった。激しい運動はまだ厳しいが、モデル業に支障がないようだ。卒業後は大学へは行かずに、プロのモデルになるとのことだった。いやぁ、ほんとに美人だ。
小春は、櫻狼高校の1年だ。不祥事があったので他の高校を勧めたのだが、うちらと同じ所が良いとのことだった。大学は俺と同じところを受けるとか言ってたが、本気だろうか。小春には、もっともっと上を目指してほしい。
俺は春から石川県の国立大に進学予定だ。しばらくは、じーちゃんの家から通い、政治について一から鍛えられるらしい。
イヤすぎる。
……胃が痛くなる程に憂鬱だ。
珠凛は、俺と同じ大学に行くことになっている。「一緒に行きたいから勉強頑張る」とは言っていたが、正直、本当に受かるとは思わなかった。実はこの子、俺が思っているより、ずっと賢いのかも知れない。
陽葵は俺と同じ大学に合格したらしい。春からは、3人で仲良く同じ大学……。あの2人、会うと喧嘩をしてるけれど、何気に連絡を取り合っているらしい。もしかしたら、俺の悪口とかで情報共有してるのか? ふぅ、今から頭が痛いぜ。
どんなに名残惜しくても、永遠に店前に留まる訳にもいかない。10分ほど話して、皆と手を振って別れた。きっと、何年かすれば、また会うこともあるのだろうが、ひとまずはお別れだ。
あ、今日は実家に来いって言われてたんだっけ。
(やべっ、もう約束の時間過ぎてるし……)
樹兄を待たせたら、どんな恐ろしいことになるやら。
俺はタクシーに飛び乗った。
すると、俺が制服だったからだろうか。運転手に話しかけられた。
「お客さん、高校生?」
「あ、はい。今日、卒業で」
「それはめでたい。いやね。さっきニュースでやってたんだけど、都内で高校生の男の子の変死体が見つかったらしくてね」
「へぇ、そうなんですか。夜道とか危ないですしね。俺はタクシー乗せてもらえて助かりました」
「…… なんていったかな。進学校で最近よく謝罪会見してる高校の……まぁ、そこの生徒さんで。お腹に刺し傷と鎖骨に骨折痕があったとか……。怖い世の中だよねぇ。夜はタクシーが正解だねっ!!」
(鎖骨に? 颯か? いや、まさか……。でも、利用してた女の子に恨まれて刺されたりとか。普通にありそうだ)
「ホントですね。僕も気をつけます……」
(まぁ、そうだったとしても、……もう俺には関係のないことだ)
実家に帰ると、道場の明かりがついていた。中を覗くと、樹兄が道着をきて正座していた。
「こんなところで1人で何してるの?」
俺が質問すると、樹兄は目を開けた。
「蒼空。卒業おめでとう。高校生活はどうだった?」
「あぁ。ま、嫌なことも多かったけど、まあまあだったな」
樹兄は、ちゃかすこともなく、まっすぐこっちを見ている。
「お前が、俺と咲に、助けてくれって頭を下げたとき、俺がお前に……『人生ってゲームに勝つ方法を教えてやる』って言ったの覚えてるか? どうだ? 自分なりの方法は見つかったか?」
「ん、分かんないけど。勝ちたい理由は見つかったかもな」
「……そうか」
樹兄は笑った。子供の頃に見せてくれた、優しい兄の笑顔だった。
樹兄は、立ち上がると両手を前に出し構えた。
「樹兄、なにしてんの?」
「は? やっぱお前、バカだな。訓練の卒業試験に決まってるだろ」
「いや……、は……」
もう颯もいないし必要ない、と言おうと思ったが、俺は言葉を飲み込んだ。
道着に着替えて、樹兄と組手をした。
「どうした? 蒼空。追い詰められないと本気が出せないか?」
「いや、たらふく焼肉食った後だし。吐きそうなんだが」
「チッ。やる気がでないなら、何か賭けるか。俺が勝ったら、珠凛……いや、陽葵は俺が貰うわ。そだな、俺が負けたら、咲はやる。文句はナシだ。さぁ、本気でかかってこい!!」
おいおい。
勝っても負けても、イヤな事しかないんだが。
その勝利報酬、本気でいらねーぞ。
相変わらず、理不尽な兄貴だよ。
でも、そう思いつつも、俺は自分の口角が上がっているのを感じていた。
樹兄には、本当に感謝している。
だけれど、その気持ちは……、言葉よりも結果で示すべきだろう。
「分かった。兄貴、弟に負けたからって、泣くなよ?」
(おわり)
ご愛読ありがとうございました。
みなさまのおかげで、無事に完結させることができました。
面白いと思っていただけたら、★★★★★のところから評価をいただけますと嬉しいです。(*´꒳`*)
※新連載をはじめましたので、そちらも宜しくお願いします。
『回復職に転生したが、呪文が無駄に長くてヒールがどうにも間に合わない』
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