第59話 最後の獲物②
まさか、彩葉が?
完全に盲点だった。
学校では、彩葉は俺と殆ど絡んでいない。
だから、少なくとも客観的には、俺を釣る人質としては価値は低いと思って安心していた。
……彩葉はSNSで「初キス」の投稿をしていた。それでターゲットにされたのか?
いや、でも。
俺が、彩葉を見捨てる可能性だってあるのだ。
すると、見計らったように、颯からメッセージがきた。
「よぉ。蒼空。久しぶり。最近はお友達が増えて楽しそうだな。ところで、彩葉がいないことには気づいたか? 会いたければ、◯◯時に○○まで来いよ。あまり遅いと、彩葉の初体験は、そこらの顔も知らないようなオッサンになっちゃうかもな。あ、彩葉って男は嫌いなんだっけ? それは辛いよなぁ? 辛くて死んじゃうかもな?」
添付ファイルがついている。
開くと泣き叫ぶ彩葉の声だった。
時計をみると、すぐに家を出てもギリギリ着くか分からない場所だった。
どうする?
何も対策が出来ていない。
ブラフか?
いや、これは脅しじゃないだろう。
颯にとって、彩葉には大した価値はない。
俺が行かなければ、見せしめとして犯すくらいのことは、本当にやりかねない。
俺は彩葉に、颯から守ると約束した。
……行くしかない。
俺は準備をしながら、珠凛に電話をかけた。
「……指定された場所は◯◯だ。俺は直行するから、念のため、樹兄に事の次第を伝えてくれないか?」
「……行くの?」
そう言った珠凛の声は、震えているようだった。
「まぁな。放っておけないだろ」
「そんなのワナに決まってるじゃん。蒼空クンが行く必要ない。警察とかに連絡して対応してもらった方がいいよ!!」
顔が見えなくても、すごく心配してくれているのが伝わってくる。
「いや、そういう訳にもいかないよ」
「蒼空クン。彩葉のこと好きなの? そうじゃないなら行かないで……。ウチら、あの子にも酷い目に遭わされたじゃん。助ける義理ないじゃん。ウチのこと好きなら、行かないで」
そうだよ。
俺は彩葉のことも恨んでいたじゃないか。
珠凛が誘拐されたのも、陽葵がトラウマに苦しんでいるのも、元を辿れば、彩葉のせいじゃないか。
たとえ見捨てたとしても、俺の周りのやつらは俺を責めないだろう。
だけれど。
あの時の……「わたしに何かしたんでしょ? でも、いいの。……わたし、君のことが好きな自分を、けっこう気に入っているんだ」
彩葉の言葉が、俺の中に残っている。あの時の彩葉が嘘だったとは思えない。
そして、俺は彩葉に、颯から守ってやると約束をした。
あの時は彩葉に考えを読まれたんだっけ。アイツ、本当に人の本音が分かるのかな。だったら、彩葉には、あの時の俺はどう見えていたのだろう。
……だから。
「ごめん、珠凛」
俺は電話を切ると、彩葉のところへ向かった。




