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第52話 4人目の獲物①


 今、俺は、自宅でコーヒーを飲んでいる。目の前にはコーヒーカップがもう一つ。


 ふふっ。

 今さっきまで、陽葵の件で珠凛に詰められていた。


 心配させてしまったし、結局は、陽葵の個人的な話以外は、全部を正直に話した。


 あの日は、次の日にご両親が戻るまで、陽葵に付き添っていたのだが、話を聞いた珠凛は涙目になって「男の子はそこまで行ったら我慢できるわけないし……きっと最後までしちゃうし。浮気されたぁぁ」と騒ぎ出した。だから仕方なく、俺の秘技(勃起コントロール)を披露してやったら、納得したらしく、黙った。


 黙ったどころか、なぜか爆笑された。

 「かわいいから、またやって♡」


 ということらしい。

 ま、機嫌が直ったのは良かったが。




 とはいえ、俺の颯に対する怒りは消えていない。すぐにでも殴り掛かりたいくらいだ。


 だが、そんな時こそセオリー通りに。より深い絶望の底に突き落とすには、まずは取り巻き……東宮 彩葉を引き剥がす必要がある。


 珠凛の誘拐については、既に東宮のオッサンにリベンジ済みだし、俺個人が彩葉から被害を受けたことはない。だから、正直なところ東宮 彩葉(いろは)は放置でも良いと思っていた。


 だが、今回、彩葉が陽葵にしたことは見過ごせない。プライドの高そうな彩葉が理由なく颯の使い走りをするとは思えないし、陽葵の事情を全く知らなかったとは考えられない。


 陽葵を傷つけると知っていて、その片棒を担いだのだ。だから、次のターゲットは東宮 彩葉だ。


 とはいえ、女の子相手に顔が変形するほど殴ったり、指の骨を折ったりというのは、どうも気が進まなかった。


 「なぁ、珠凛。リベンジするにしても、顔に傷つけたりはしたくないんだけど、俺ってフェミニストなのかな?」


 すると、珠凛は口を尖らせた。


 「んー。女の子が好きなだけ? 彩葉って可愛いし、外見は蒼空クンのタイプでしょ? ほんとは狙ってたり?」


 た、たしかに……。


 彩葉の容姿は、黒髪ロングで、少しだけ気の強そうな奥二重。真っ白な肌に映える、ピンクの唇。外見は、俺のタイプそのものだ。


 正直、珠凛と陽葵の2人よりも、美人だと思う。ま、東宮のオッサンが義理パパとか無理なので、付き合ったりは絶対にないと断言できるが。


 「そ、そんなことないし。それに、俺の秘技をみただろ? 俺の貞操は珠凛だけのものだぜっ」


 珠凛はジト目になった。


 「それって、興味ない相手にも元気になれるってことでしょ? それって、ただのヤリチンって言うんだよ?」


 「ヤ、ヤリ……。乙女がそんなはしたない言葉を使っちゃいけません!!」


 さて。

 


 どうしたものか。


 『口説いて好きにさせて、弄んで捨てる』


 咲姉の教えでも、これが女の子にリベンジするときのお決まりパターンだし……。やはり、陽葵と同じ目に遭わせるのが一番なのだけれど。


 時間がかかるし、珠凛も嫌がるだろうし。陽葵からもクレームが出そうだ。


 んー……。


 俺は手を叩いた。

 「よし、決めた。方針決定だ」


 

 次の日の午後。

 俺は山口と、近隣のショッピングモールに来ていた。なんでも、小春の誕生日プレゼントを買いたいらしく、プレゼント選びの手伝いを頼まれたのだ。


 山口は、本棚の前で真剣な顔をしている。


 「よしっ、これだ!!」

 山口はラノベを手に取ると、レジに並んだ。

 

 効率厨のあの山口がだよ?

 

 妹のプレゼントを選ぶために、こんなに時間と手間をかけるなんて。正直、やや引くんだが。どうやら、こいつのシスコンは本気の本気らしい。


 俺には妹がいないから分からないが、妹ってそんなに可愛いものなのだろうか。少なくとも俺は、咲姉にそんなに可愛がってもらった記憶はないのだが。


 何事も経験……今度、小春に妹ゴッコしてもらおうかな。レジで会計が終わると、山口は言った。


 「んで、お前の聞きたい事って何だ? いっとくけど小春のことは教えんぞ」


 ほんと、どれだけだよ。


 「いや、東宮のことなんだけどさ。あいつ、どんなヤツなの? 弱点とかないの?」


 櫻狼ファイブに残っていた山口は、少なくとも俺よりは彩葉と接点がある。何か知っているかも知れない。


 山口は目を細めた。


 「おまえな。ほんとそういう姑息な根回しが好きだよな。僕の知っていることと言えば……。あ、そうそう。東宮とは中等部の頃から一緒だったんだけれど、あの子、すげーイジメられててさ」


 「え?」


 「え? じゃないよ。アイツがSNSでイジメられて、結構な騒ぎになったし」


 「知らないんだけど」


 「東宮のルックスを妬んだクラスメートが、匿名であることないこと投稿してさ。そのうち、加熱して、集団リンチみたいになったやつだよ」


 俺が首を横に振ると、山口は言葉を続けた。


 「いや、月見里だって同じ中学だろ?」


 「いや、おれ。友達とかいなかったし。そういう情報網の外にいたっていうか」


 「あぁ、それな……」


 普通に同意されてるし。微妙にムカつく。

 まぁ、ボッチは事実なんだけれど。


 「ところでさぁ」


 「なに?」


 「今度、小春と妹プレイ……ガッ」


 山口は、俺の顔をグーで殴り、中指をたてた。


 「小春に手を出したら、マジで殺す」


 ホント、このシスコン野郎はヤレヤレだぜ。

 俺は山口と別れ、今度は花鈴に連絡した。


 「あ、花鈴? ちょっと頼……」


 ツーツー。


 ……。


 アイツ、途中で電話を切りやがった。

 それからはガン無視され、4度目の着信で、ようやく花鈴が電話に出た。


 「月見里クン。なんですか?」

  

 随分と他人行儀だな。


 「いやさ。お前。最近、影薄いから、そろそろ登場した方がいいぜ?」


 花鈴は声のトーンを下げた。


 「……登場? 意味わからない事を言ってると、永遠に切りますよ」


 「ま、まぁ、そういうなよ。咲姉のブラやるからさ」


 「え、えーっ。ま、ま、マジっすか?」


 花鈴は露骨に声のトーンを上げた。


 花鈴が咲姉にご執心なのは知っていたが、目の当たりにすると、キツイ。いやー、まじでひくわ。


 「ま、まぁな。んで、待ち合わせは……」


 その日の夕方、花鈴を呼び出した。

 珠凛にも来てもらって、3人で夕食だ。


 といっても、近所のフードコートな訳なのだが。花鈴には好きなフードを頼んでもらった。トレーをテーブルに置いて席につくと、花鈴は怪訝そうな顔をした。


 「まずは、ご馳走様です。んで、2人して何なんです?」


 「いやさ。お前、たしか。東宮と仲良かったよな。アイツのこと教えてくれよ」


 彩葉と花鈴は、意外と仲が良い。

 花鈴は眉間に皺を寄せた。


 「そんなことで同志を売りませんよ? わたしを見くびらないでください」


 同志?

 2人して何を志《こころざ》しているんだ?


 「そうか。悪かったな。じゃあ、この話はもういいや。こっちとしては咲姉のパンツをつけても良かったのだが……」


 花鈴は身を乗り出した。


 「ぱ、ぱ、ぱ、パンツぅ? それ、ホンモノなんですか?」


 「俺は弟だぜ? パンツの一つや二つ、簡単に持ち出せるっつーの。しかも、今回は使用済み品だ」


 俺は紙袋をテーブルに置いた。チラッとパンツの端を見せると、花鈴の小さな喉仏が、ゴクリと動いた。


 「ジュル……、それで用事って? 早く聞いてっ!!」


 目の前のワンコは、ご褒美が待ちきれないらしい。すると、珠凛が脇腹をツンツンしてきた。


 「ねぇ。蒼空クン。それって、この前、蒼空クンが履いてたヤツでしょ? いいの? それにブラだってウチの使い古しだし……」


 そう。これは。

 俺が履き潰して人為的に生み出した使用済みパンツなのだ。


 俺は小声で答えた。


 「いいんだよ。絶対にバレないから。それに、咲姉の下着を盗むとか、命がいくつあっても足りないっつーの」


 ウチらが小声で話していると、花鈴がメガネをあげた。


 あれ。不審に思われているみたいだ。

 気づかれる前に本題に入るか。俺は切り出した。


 「東宮が男嫌いって噂は本当?」


 彩葉はあれほど美人なのに、男と絡むことが殆どない。一般には清楚なお嬢様ということになっているが、一部では、実はレズなのではないかという噂があった。


 花鈴は答えた。


 「……そうですよ。東宮 彩葉は女性にしか興味がないはずです」


 なるほど。良い事を聞いた。

 俺の考えた復讐プランには、その方が都合が良い。


 そこで俺は気づいた。


 (花鈴と同志って、そういうことなのね)

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