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第43話 珠凛と陽葵の忘れ物②

 「いや、付き合ってはいないけど、大切……。うん。おれは珠凛を大切に思ってる」


 すると、陽葵は微笑んだ。


 「そっか。嘘をつかないでくれてありがとう。でも、まだ付き合ってないなら、わたしにもチャンスがあるのかな」


 「それって、どういう……」


 陽葵は、俺のことを好きなのか?

 仲良くしてもらってるし、嫌われてはいないと思うけれど、ずっと、俺の片想いなのかと思っていた。


 もし、俺がもっと自分に自信があったなら。勇気を出して告白していたのなら、陽葵と付き合っている世界線もあり得たってことか。そうしたら、陽葵が颯に酷いことをされることは無かったのかも知れない。


 いや、そんなことは、考えても仕方がないことだ。俺は首を左右に振った。


 陽葵は少し小声になった。


 「ん……、内緒。でも、わたし、リハビリ頑張るから。頑張ったら、ご褒美に一つだけ、お願いを聞いて欲しいな」


 「……分かった」


 すると、陽葵は拳を握り、小さくガッツポーズを作った。



 帰り道、俺は考えていた。

 あの時、どう答えるのがベストだったのだろう。


 俺は、絶望の淵に立っている陽葵のモチベーションを下げたくないと思った。珠凛と付き合っているといえば、陽葵を追い詰めてしまうのではないかと。


 でも、きっとそれは言い訳で、本心では、言いたくなかったんだと思う。陽葵は幼馴染だけど、それだけじゃなく、俺は、ずっと一緒にいてくれた陽葵に恋心を抱いていた。


 だから、まだそれを捨てきれていないのだと思う。

 

 もし、彼女がいると言えば、陽葵との関係も終わってしまうのかな、なんて。思い上がりかも知れないが。


 結局は、どっちも好きなのだ。

 

 (優柔不断すぎる。俺は最低だ)



 家に帰ると、珠凛がエプロン姿でまっていた。

 

 「蒼空クン。お帰りなさい。ご飯にする? お風呂?」


 「今日は、「それとも、ウチ?」って言わないの?」


 すると、珠凛は笑った。

 

 「……なんとなく、そんな気分じゃないでしょ?」


 しまった。

 顔に出ていたか。

 

 その日は、珠凛は本当に何もしてこなかった。

 ベッドの中でも、ただくっついてきた。


 「珠凛、ベッドの中で服着てるの珍しいね」


 「もうっ。ウチを淫魔か何かかと思ってない?」


 「はは、ちょっと思ってる」


 すると、珠凛が抱きしめてくれた。

 珠凛の体温と心臓の音が心地いい。


 「ウチ、蒼空クンが元気ないのわかるし。そりゃあ、エッチして元気でるなら、したいけど……、あん……」


 俺が胸を揉むと、珠凛はモゾモゾした。


 「やっぱ、サキュバスじゃん」


 「蒼空クンのイジワル」


 珠凛は口を尖らせた。


 「あのさ、話しがあるんだけど……」


 俺は今日、病院であったことを話した。

 

 陽葵に彼女がいないかと聞かれたこと、俺はいないと答えたこと。でも、珠凛が大切なこと。


 無神経なのかも知れなが、珠凛には言うべきだと思った。


 すると、珠凛はもっとギュッと抱きしめてくれた。俺の顔は珠凛の胸に押し付けられていて、何も見えない。


 「ウチも、蒼空クンのことが大切。でも、陽葵ちゃんを選んでもいいよ? 蒼空クンが本当に陽葵ちゃんのこと好きだったら、仕方ないと思ってる。だって、2人の間に割り込んじゃったのウチの方だし」


 あれ。好きとは言ってくれないのか……。


 「あのさ。俺、ちゃんと言ったことなかったけど、珠凛のこと好きだよ?」


 「うん……。ウチも好き。こんなタイミングで言うつもりなかったのに……。蒼空クンの誕生日に伝えたかったの」


 リベンジが終わるまで封印って訳でもないのか。


 「そうなの? てっきり珠凛のことだから、「プレゼントはウチ」とか言うのかと」


 すると、珠凛はプーっと膨れた。


 「あのね。プレゼントはね。予想がついても言わないのがマナーなんだよ?」


 どうやら、図星だったらしい。


 そういいつつも、珠凛は、もっとぎゅーって抱きしめてくれた。胸から伝わってくる呼吸が荒くて、……もしかすると、泣いていたのかな。


 俺はいつの間に寝てしまったらしい。

 朝、起きると、朝食の準備がされていた。


 「おはよう。蒼空クン」


 「おはよ。珠凛。あのさ、夏休みだし、旅行いかない?」


 「ええっ」


 珠凛は大袈裟に立ち上がった。


 「そんなに驚いて、気乗りしないとか?」


 「ううん。ウチ、旅行とかあまり行ったことなくて、緊張するっていうか」


 「ま、今は懐もあったかいし、ちょっといい旅館とかでもいけるけれど……」


 示談金は珠凛が保管しているが、学費の心配がなくなったし、旅行に行くくらいの余裕はありそうだ。


 「ううん。でも、ウチ、沖縄に行ってみたい!! テレビでやってたけれど、最近は沖縄の方が涼しいんだって。ウチ、避暑地にいきたい!!」


 真夏に沖縄?


 「沖縄が避暑地? 暑くない?」


 「テレビの人が言ってた!!」


 珠凛がいうには、沖縄は亜熱帯海洋性気候で、海に囲まれているから、打ち水みたいな感じで東京より涼しいらしい。

  

 かなり微妙な理解な気はするが。

 沖縄かぁ。俺も行ったことがないし、いいかも知れない。


 「そっか。沖縄いいね。じゃあ、旅行は沖縄にしよう。あ、でも、飛行機に乗るとなると、親権者の同意が必要かも」


 すると、珠凛は手を叩いた。


 「じゃあ、ママにお願いしないと。あ、そういえば、ママが蒼空クンと2人で会いたいって」

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