表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/68

第41話 1人目のやり残し③

 オッサンの名前は東宮 謙三。

 あの東宮 彩葉の実父だ。


 この事実に気づいた時、俺は笑いを堪えるのに苦労した。せっかくの不幸な偶然だ。これを利用しない手はない。


 さて……。



 「よっ、小春」


 俺は、偶然を装って小春に話しかけた。

 小春は、俺に気づくと半べそで腕にしがみついてきた。


 「蒼空クン。ボク、このオジサンに犯されそうになって、……怖いぃ。うぅ。ひっく」


 さすが、小春。

 迫真の演技だ。


 ん?

 小春の指先が震えている。


 もしかして、本当に泣いているのか?

 だとしたら、なんとなく。すごくゴメン。


 「小春。ごめんな」


 すると、東宮のオッサンは、眉を吊りあげ、露骨にイラついている表情になった。


 「な、なんだね。キミは?! 邪魔をしないでくれたまえ。って、……ヴッ」


 俺はオッサンの首を掴むと、壁に叩きつけた。


 「邪魔? よくそんなことが言えるな」


 どの口が言うんだか。

 しかし、オッサンは声を荒げた。


 「何をするんだ。キミッ!! こんなことをしてタダで済むと思っているのか。キミ、高校生だろう? 暴力行為で学校に連絡してもいいんだぞ?」


 おいおい。こいつマジか。

 圧倒的にピンチなのは自分の方だと、理解していないらしい。


 オッサンのズボンをみると、股間が膨らんでいた。小春相手に、ヤル気マンマンだったのだろう。


 こんなキモいオッサンを父親に持ったかと思うと、娘が気の毒になるぜ。なぁ、彩葉さんよ。


 俺は、さっき撮った小春との動画をオッサンに見せた。


 「俺は別に構いませんよ。大事おおごとになって困るのはそっちだと思いますし」


 「き、キミは何が目的だね?」


 「いや、平和的に話し合いで解決したいだけです。ちょうどそこにカラオケボックスがあるし、場所を変えませんか?」


 ホテル横のカラオケボックスには、監視カメラがないのは確認済みだ。小春を先に帰らせて部屋に入ると、俺はオッサンの正面に座った。   


 オッサンは状況が飲み込めないらしく、口早くちばやに質問してきた。


 「んで、君の目的は何だね。金かね? だったら。ほら。これを持って、とっとと帰りなさい」


 そう言うと、オッサンは一万円札を一枚テーブルに出した。どうやら、オッサンは、まだまだ余裕らしい。俺を高校生と思って侮っているのだろう。


 「……枚数が足りないんじゃないですか?」


 俺の発言にマウントをとったと勘違いしたらしい。オッサンはニヤけた。


 「ふむ。欲張りだな。いくら欲しいんだ?」


 そう言うと、オッサンは一万円札をもう一枚テーブルに並べた。やはり自分の犯した罪を理解していないようだ。


 「ふははっ。その1000倍は必要なんじゃないですか?」


 「子供のくせに、わたしを脅迫する気か? そんなことをして、ただで済むと思って……」


 ダメだ。相手がショボくて退屈すぎる。

 難敵すぎて負けるのも困るが、こんなオッサンに時間をとられていることがバカらしくなってきた。


 俺は調べ上げたオッサンのプロフィールを読み上げた。


 「ま、俺の話を聞いてくださいよ。東宮 謙三。△△コーポレーション勤務の財務部長、48歳。離婚協議中の妻子あり。娘は、現在16歳の高校2年生で、櫻狼学園高校に在籍。……まだ説明が必要ですか? 自分が今まで何をしでかしたか自白してください。ちゃんと反省できたら、見逃してあげますよ」


 (ま、許すつもりは毛頭ないがな)


 「わ、わかった。金だな? 10万か? 20万か? それに、わたしは女の子と歩いていただけだ。これに何か問題が? 10万でも多すぎるくらいだろう」


 オッサンは、しらを切るつもりらしい。


 「はぁ。お歳で、お忘れになっちゃったみたいですね。村瀬藍と珠凛。この名前に聞き覚えは?」


 「しらん!!」


 額から冷や汗でてますけれど?


 「そうですか。実は、その珠凛が俺の女でしてね。アンタに犯されたって言ってるんですが?」


 「は? 意味が分からないんだが。言い掛かりはやめたまえ」


 こいつ、珠凛の名前が出てもすっとぼけるつもりか。自分の立場ってものを分かってもらう必要がありそうだ。


 俺は、テーブルにスマホを置き、獄倫のヤツラから手に入れた珠凛の動画を再生した。


 オッサンの顔色が変わった。


 「珠凛は未成年ですよ? こんなこと許されると思ってるんですか? これ、刑法177条の不同意性交罪……完全に犯罪ですよよね?」


 「ほ。ほら。この動画をみたまえ。この子は、喜んでるじゃないか。普通、無理矢理で「美味しい」とか言わないだろう。同意があるんだよ。警察にもっていっても、恥をかくのはそっちだぞ?」


 苦しい言い逃れだ。


 「この動画で珠凛が着てる制服って、◯◯中学のですよね? 相手が16歳未満の場合、同意があろうがなかろうが犯罪なんだよっ!! いい大人が、そんなこともしらねーのか?」


 オッサンは反論してきた。

 

 「それは、2023年7月の刑法改正後の話だ。以前は13歳未満が対象だった。つまり、動画のこの子の年齢なら全く問題がない。暴行や脅迫もしていない。法律は遡って適用されないんだよ? ……君の方こそ、不遡及の原則を知らんのかね?」


 母親の弱みで脅すのは、普通に脅迫だと思うのだが……まぁ、いい。きっと、こうやって何人も手籠にしてきたんだろう。


 「はぁ……。珠凛が中学でアンタに性的虐待を受けていて、その生活環境が継続しているんだよ? そんな言い逃れが通じる訳ないでしょ」


 俺は珠凛の手帳をみせた。

 そこには、ほぼ毎日、黒いバッテンが書かれている。オッサンは何か言おうとしたが、俺は言葉を続けた。


 「これね、珠凛の手帳なんだけど、アンタに口淫させられた日は、印を残してたみたいね。この日にちを、母親の不在時と照合すれば、面白い結果になると思いますがね」


 この手帳は本物だが、バッテンは後から追加させた。日記の証拠能力は高い。珠凛は元々、日々の出来事を手帳に書き残す習慣があったから、バッテンにも十分に説得力がある。


 おれは続けた。


 「ほんと、妻子持ちのくせに良くやりますよ。アンタが結婚してるって、珠凛の母親は知ってるんですか? 奥さんと離婚調停中なんでしょ? いやあ、これが発覚したら、会社も解雇でしょうし。人生が終わりそうですね」


 オッサンは急に態度が軟化した。


 「わ、わかった。金ならやる。いくら欲しいんだ? 100万か?」


 100万なら、慰謝料の相場ってところか。


 (クソが)


 俺はオッサンの胸ぐらを掴んだ。


 「は? そんなはした金でどうにかできると思ってるの? アンタ、珠凛をどれだけ傷つけたと思ってるんだ。……2,000万だ。それでクビにならずに済むのだから、安いもんだろ? 示談したいなら、それ以下の金額じゃ話にならない」


 「はぁ? 君は慰謝料の相場がわかってるのか? そんな不当な要求、通る訳がないだろう」


 「継続的な性的虐待。アンタがクビになった場合の退職金他の逸失利益からすれば、妥当だと思うがな。んで、どうなんだよ!! 無理ならこのままアンタを警察に突き出すだけだが」


 「わ……分かった」


 オッサンは力なく答えた。


 ま、金を受け取ったら普通に通報するがな。

 今の不同意性交罪は、被害者の告訴が要らない非親告罪だ。この手の犯罪には匿名の通報が多く、大概は余罪もある。警察が動かない訳ないだろう。


 本当に度し難いほどバカな男だ。


 あの時、珠凛は「ウチ、顎とか痛いのに無理矢理されて怖かった」と言っていた。示談はあくまで、告訴についての話だ。珠凛が受けた身体の痛みについては、まだ精算は終わっていない。


 だから。



 「それと、これ。今回の手間賃な」


 俺はオッサンの薬指を掴むと、関節を思いっきり反対方向に捻った。


 「ひぃぎゃあああ」


 指から鈍い音がして、オッサンは悲鳴をあげた。額から脂汗を流し、息を荒くしている。


 「おまえ、こんなことをしてタダで済むと……」


 「へぇ。反省が足りないなあ。解放骨折にならない程度に加減したんだが、娘にも詫びた方がいいんじゃない? 娘なら小指か」



 俺はオッサンの手を引き寄せると、手首を押さえ、反対の手でオッサンの小指を掴んだ。


 「ひぃぃ、やめて……」


 オッサンの言葉を無視して、テコの要領で持ち上げていくと、小指からミシミシという感触があって、やがてバキッという音を発して折れた。


 「ひ、ひひひぃひぎゃあ!!」


 オッサンは歯をガチガチと鳴らして、うずくまった。


 ……さて、メインディッシュといくか。

 おれは、オッサンに見えるようにスマホを差し出した。


 「これ。アンタの娘だろ?」


 スマホには東宮 彩葉の写真が映し出されている。


 「こ、これ。……お前がやったのか?」


 そこにあるのは、彩葉が全裸で足を開いている写真だった。


 「あぁ。俺の女だけやられたんじゃバランスとれねーからな。お前の真似をして「犯してくれてありがとうございます」って言わせた動画もあるが見るか? もちろん避妊なんてしてねーし、妊娠したらゴメンな。認知なんかしねーし、おじーちゃん頑張って。ま、これが拡散されたら、お前の娘の人生も終わるだろうなぁ、お気の毒さま」



 「そ、それだけは……勘弁してください」


 「あ、アンタの理屈だと、同意があればOKなんだっけ? んじゃあ、アンタの娘も同意してるみたいだし問題ないのか。明日も暇だし呼び出して、アンタの愛娘で性処理させてもらおうかなあ……」


 「ごめんなさい、ごめんなさい……」


 オッサンは泣きながら、額をテーブルに擦り付けた。


 (こんなクズでも、自分の娘は可愛いものらしい)


 俺は謝罪を無視して、言葉を続けた。


 「アンタ、併合罪って言葉しってる? 刑の長期に半分を足すんだけど、珠凛のこと、何度もおもちゃにしてくれたみたいだし。これ併合罪になるよね。だから、それにちなんで、示談金も1.5倍だな。3,000万。これで、アンタと娘の人生が買えると思ったら安いもんだろ? よろしく」


 おれは身体を翻し、カラオケボックスから出た。


 「……ひゃああぃう。うっ、ひっ」


 オッサンの呻き声が聞こえてくる。

 獣のような耳障りで不愉快な声だ。


 ふぅ。



 部屋を出ると、小春が待っていた。

 

 (やり取りを見られたか?)


 少し気まずい。俺は頭を掻いた。

 すると、小春は言った。


 「蒼空クン。えげつないね……」


 「嫌気がさした?」


 小春は首を横に振った。


 「ううん、逆。おにいの時は手加減してくれてありがとう。それって、もしかして、ボクのため?」


 「さぁな」

  

 小春はむくれた。


 「それと、画像。彩葉いろはちゃんとヤッたの?」


 「あぁ、それな」


 俺は小春に、あるアプリを見せた。

 

 「流行りの画像生成AIってやつ。話させることもできるし、なかなかリアルな出来だっただろう? 便利な世の中だぜ」


 「うっわー。。ボクのは生成じゃなくて実写でいいよ?♡」


 実写? 実際にやれって?

 こいつ、変人すぎる。


 「意味わからんし。遠慮しときます……」



 さて、珠凛の母親の方はどうするか。


 俺は珠凛の母親に、東宮 謙三が妻子持ちの既婚者であること、ロリコン性犯罪の常習犯であることを伝えた。珠凛が弄ばれたことは、心臓が痛くなって……伝えるのはやめた。


 (自分の愚かさを、せいぜい後悔するがいい)


 こんなことをしても珠凛が喜ばないのはわかっている。だけれど、母親がオッサンとヨリを戻したら、また珠凛が被害にあうかも知れない。それになにより、俺はオッサンに夢中になって珠凛を傷つけたこの母親を、どうしても許すことができなかった。


 つまり、これは自分のため。

 これは、偽善なのだろう。



 家に帰ると、珠凛が不安そうに出迎えてくれた。


 「オッサンは、もうお前に絡んでこないから。これからは安心して過ごせるから」


 そう伝えると、珠凛は俺に抱きついて、ずっと泣き続けた。よっぽど怖かったのだろう。


 数日後、こちらの要求通りの内容で示談が成立した。一括払いなら500万まけると提示したら、オッサンは飛びついてきた。翌日、一括で示談金が振り込まれた。


 最近、咲姉の影響か、珠凛が医者になりたいと言い出した。それで学費の心配をしていたのだが、今回の示談金で珠凛の大学の学費も賄えるだろう。

 

 それからしばらくして、オッサンが逮捕され、会社を懲戒解雇になったと聞いた。俺はまだ何もしていなかったのだが、きっと他の被害者が通報したのだろう。ま、自業自得だ。


 そして、離婚も成立して、オッサンは慰謝料をふんだくられたらしい。オッサンに払える現金があったかは知らないが。


 あの歳で懲戒解雇だ。

 しかも性犯罪者。余罪も沢山。もうまともな生活は無理だろう。



 ざまあないぜ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ