第40話 1人目のやり残し②
カフェでコーヒーを飲みながら待つ。
しばらくすると、山口がやってきた。
俺は山口を許した訳ではない。
しかし、颯に近い山口には利用価値がある。
珠凛の誘拐の件で、俺には一つの疑問がわいた。それを聞くために山口を呼び出したのだ。
それとは、例の珠凛誘拐の時。
オッサンは、なぜ獄倫高校の奴らに協力したのか。
試験前に颯は「やっぱ、裏切り者には制裁が必要だよなぁ?」みたいな事を言っていた。珠凛誘拐の件、颯の関与はほぼ間違いがない。
でも、オッサンは?
颯の手助けをしても、オッサンには何のメリットもない話だ。
「悪いな」
俺がそう言うと、山口は首を振った。
「颯は小春まで巻き込みやがったからな。小春のためだ」
珠凛から聞いたところによると、あのオッサンは、40代後半で珠凛の母親と同じ△△コーポレーションに勤務している。珠凛の母親の上司にあたり、経理部長をしているらしい。
俺が独自に調べたところによると、オッサンには、高校生の娘がいる。それなのに、かなりの年下好きで、前に交際していた相手の娘にも手を出したことがあるらしかった。
珠凛の件が初めてではなく、常習者。つまり、完全なクズだ。娘狙いでシンママをターゲットにしていたのだろう。家族の弱みや動画を使って珠凛を丸め込んだやり方も、やり慣れた手段なのかも知れない。
他にも色々と興味深いことが分かった。
「でな、蒼空」
山口は自身もコーヒーを頼むと、湯気を眺めながら話し始めた。
「聞かれた件なんだが……前に颯が、メンバーのオヤジがロリコンみたいなこと言っていた」
えっ。なんで颯が珠凛の家の事情について知っているんだ?
「つか、颯はなんでそんなこと知ってるの?」
「さぁ? どうせ調べたんだろ。アイツ、用心深いし、櫻狼ファイブのメンバーについては色々把握してるし。珠凛がお前と付き合ってるのも面白く思って無かったみたいだぜ?」
まぁ、それはそうか。珠凛の態度はわかりやすかったもんな。颯は珠凛と付き合っていた訳ではないみたいだが、ある意味、珠凛を俺に寝取られたかたちだ。
しかも、相手は嫌いな俺だ。
面白いはずがない。
「山口、お前は何か具体的に相談されたのか?」
「いや、僕は興味がなかったから聞いていただけだ。今回の誘拐の件も知らなかった。でも、ロリコンの話を聞いたしばらく後かな。そのオヤジに女の子をあてがってやったって」
「好んでオッサンと付き合いたい女なんて、普通いないだろ?」
山口は眉間に皺を寄せ、不快そうな顔をした。
「颯に言い寄ってきていた子らしい。うまく口車にのせたみたいだな。蒼空も知ってると思うけど、あいつさ、人をその気にさせるのがうまいんだよ」
たしかに、俺もそうだ。
颯が本気で友達してくれてると信じ込んでいた。
「それはそうとして、颯側の見返りは?」
「お前の知ってる通りだよ。珠凛の弱み……動画だろ」
その話を聞いて、俺は少し違和感を覚えた。
颯なら、もっと直接的に、珠凛を強引に落として支配しようとするんじゃないのか?
やり方が遠回りというか……気のせいだろうか。颯の行動に一貫性がない気がする。
「もしかして、颯って、実は珠凛のこと好きなのか?」
すると、山口は首を傾げた。
「さぁな。もしかすると、そうなのかもな。颯のことはよく分からない」
まぁ、でも。
必要な情報は手に入れることができた。
オッサンは、若い女欲しさに珠凛を売ったってことだ。あわよくば、その延長上で、用済みになった珠凛を手に入れようとしたのかも知れない。
珠凛の母親には、男を見る目がないというのは本当みたいだな。
今回の件、俺は獄倫のやつらが持っていた動画を押さえている。だから、オッサンを失脚させること自体は難しくない。だが、珠凛にあんなことをした男を、それだけで許す気はない。そいつの周りの人間もまとめて社会から抹殺してやる。
問題は、オッサンをどうやって誘い出すかだ。
珠凛がおとりではさすがに警戒されるだろう。
しかし、まぁ、その手の輩だ。
相手が年下な程、関心を持ちそうだな。
山口と別れて、俺は小春に連絡した。
その翌週のある夕方。
小春を使ってオッサンを呼び出した。
小春から偶然を装って連絡させた。小春が中学生だと分かると、オッサンは拍子抜けするほど簡単に釣れた。オッサンはそれなりの会社に勤めていて、それなりの肩書きだ。もっと賢くて警戒されると思っていたのだが……。
前に誰かが「男は性欲が絡むとバカになる」と言っていたが、どうやら、あれは本当のことらしい。
「小春。悪いな」
「おにいの分も、ボクが協力しないとね」
「俺もついてるし、怖い目には遭わせないから。って、……これじゃ、俺もやってることは颯と変わらないな」
「全然、違うよ。前提となるボクの気持ちが違う」
小春は手を握ってきた。
どういうことなのだろう。
天才児の発想はよく分からない。
駅前の待ち合わせ場所に小春を立たせ、俺はその数メートル手前で、ベンチに座って待つ。
小春は顔も可愛いし身体の発育もいい。
最高の餌だ。
すると、待ち合わせ時間の少し前にオッサンがやってきて、値踏みするように小春を見た。そして、時間ジャストになると、ニヤけながら話しかけた。
アイツが珠凛ママの彼か。
思った以上に貧相なオッサンだ。
もう少しイケオジかと思っていたが、あんな男に珠凛が弄ばれたのかと思うと、改めて怒りを感じた。
俺は聞き耳をたてる。
「君が小春ちゃん? いやぁ、かわいいね。ほんと……お金のお悩み相談だったっけ? ここじゃ落ち着かないし、2人になれる場所いこうか?」
小春はモジモジした。
「あ、あの。ボク、男の人に慣れてなくて。怖いからカラオケボックスとかでも、いいですか?」
オッサンはニヤリとした。
「あぁ、もちろん。オジサンを信じて」
2人は歩き出した。
オッサンは、左手をせわしなく動かしている。どうやら、手を繋ぎたくて仕方ないらしい。
しばらくすると、ベタベタと小春の身体を触りはじめ、手を繋いだ。
俺は数メートル後ろで尾行し、2人の様子を録画した。
数分歩くと、オッサンは、カラオケボックスの手前にあるラブホの前で立ち止まった。しきりに小春の手を引っ張っている。
「あの、ボク。初めてだし、こういうの困りますっ!!」
「いいじゃないか。どうせ君もそのつもりだったんだろう? じゃあ、五千円でどう?」
(おいおい。ずいぶんとケチくさいな。もっと出してやれよ)
俺はスマホの録画を止めた。
(さて、もうこのへんでいいだろう)
この録画をオッサンの娘に見せたら面白いことになるだろうな。想像するだけで、笑いが止まらない。
ニヤニヤしていられるのも、もう終わりだ。
オッサン……いや、東宮 謙三さんよ。




