第37話 陽葵の想い。
いつもの道が綺麗な緑に彩られて。
そよ風にゆらゆらと揺れている。
あぁ、わたしは今。
きっと、夢を見ている。
だから、分かるのだ。
わたしは、これから君に出会う。
ある日、父に連れられて行った、父の友人のお宅。その家にいた同い年の末っ子。
とても、可愛らしくて、優しくて。
……そして、頭の良い子。
そのうち、うちが引っ越して、月見里家の近くになると、毎日、会えるようになった。
わたしが小学生の頃、家の事業がうまくいかなくて、両親が不仲になった。
「陽葵ちゃん!! なんで分かってくれないのっ!!」
不安定になった母が声を上げた。わたしに手をあげようとしたら、たまたま居合わせた君が庇ってくれた。わたしの代わりに叩かれて、きっと痛かったよね。あの時のこと、わたしは忘れてないよ。
そんなある日、君が泣いているのを見てしまった。事情を聞いても教えてもらえなくて、でも、君はその日を境に内向的になってしまった。
中学校でも、友達付き合いがどんどん減って。最初に期待されていた反動で、君は皆んなに後ろ指をさされるようになった。
勉強ができなくなっても。
太ってしまったとしても。
……君は君なのに。
だから、わたしは決めたのだ。
君が自分を好きになれる日が来るまで、お姉さんとして君を守ると。
高校に入ると、君は颯クンと仲良くなった。そして、櫻狼ファイブ……みんなに注目されているグループに入った。そうしたら、他のクラスメイトが君を見る目も変わって。君が、君の価値をわかる人に出会えて、わたしは嬉しかった。
笑顔に戻った君を見ているだけで、わたしは幸せだった。
そんなある日、颯クンに呼び出された。君が珠凛ちゃんのことを好きだから、幼馴染のわたしに手伝って欲しいって。
珠凛ちゃんは良い子だし、君が前を向けたことが嬉しかった。君が好きな子と結ばれるのなら、それが一番良い訳で。わたしは、お姉さん役だし……、自分の気持ちは我慢しようと思った。
その後は、颯クンに告白されて、ちょっと強引だったけれど……、颯クンは君の価値に気付いた人だし、良いかなって。いつか好きになれるかなって思った。そして、いつか4人でダブルデートをしたり。そういう風に君との関係が続いていくのも良いかなって思った。
だけれど、付き合い始めたら、颯クンは優しくなくなって、身体ばかりを求められた。
でも、でも、……颯クンは君の友達だ。そんな人に、誰にも言えないような酷いことをされているなんて、君には相談できなかった。
我慢したけれど、颯クンは、わたしのことは好みではなかったみたい。そのうち、颯クンは、君を貶めるためだけに、わたしと付き合っていることに気付いた。
全部を話すっていうと、颯クンに写真を見せられて、言うことを聞けと言われた。その写真の中のわたしは、だらしなく足を開いて、定まらない目つきで、幸せそうな顔をしていた。それを撮られた時、エッチが終わったら颯クンが「好き」って言って優しく頭を撫でてくれて。そういうの初めてだったから、なんだか幸せな気持ちになって、写真を許してしまった。
でも、後から……本当のわたしを知られること……、そんな写真を君に見られることだけは、死んでもイヤだと思った。
わたしが言いなりにならないと気づくと、颯クンは、わたしを捨てた。そして、わたしは「あの写真が出回ってるかも」って思ったら、怖くて外に出れなくなった。
結局は、わたしは君を守ってる気分になって、自分の弱いところは見せられなくて……君のことを信じられなかったのだと思う。
でも、怖くて信じられないよ。
いくら君でも、本当のわたしを……きっと好きにはなってくれない。
はぁ。
もし、また君と会えるなら、君のことを信じたい。弱くて汚いわたしの全部を目の当たりにしても、受け入れて欲しい。そして、きちんと、この気持ちを伝えたい。
わたしは、蒼空クンが好き。
それにしても、この夢は長いなぁ。
いつ終わるのかな。
神様。
どうして過去を見せるの?
これは罰なの?
どうせ夢から覚めないのなら、わたしが望む夢を見せてよ。
あんなことがなくて、蒼空クンとお付き合いして、結婚して。そのうち、赤ちゃんが産まれて、家族になって幸せに笑ってるの。そして、ずっと一緒に、毎日を楽しく生きて、お婆さんになったわたしは、蒼空クンに見送られるんだ。
わたしが見たいのは、そんな夢。




