第35話 3人目の獲物⑫
あれから2週間も入院することになってしまった。そしてようやく、明日、退院できることになった。
樹兄め、本当に麻酔無しでやりやがった。
連日の片栗粉を除去する作業。
あまりの痛みで、何度か本気で失禁しかけた。
そして、珠凛。
1日も欠かさず来てくれた。
毎日、学校が終わるとすぐに来て、最後までいるものだから、樹兄や咲姉も、最初は「自分の学業を優先しなさい」と言っていたが、それでも毎日来る珠凛に根負けしたらしい。
咲姉なんて、何回か勉強を教えていたし。
2人とも、人懐っこい珠凛を嫌ってはいないらしい。珠凛は誰にでも好かれる。
これは持って生まれた才能だ。
案外、珠凛は、最強のパートナーなのかも知れないな。
次に、特別奨学金についてだが。
どういう風の吹き回しか、山口は申し込みを取りやめた。
「トントン」
ドアがノックされた。
誰か来たらしい。
「はい、どうぞ」
小春だった。
「ボクだよーっ。元気になってよかったね。ボク、心配で心配で。夜も眠れなかったよ」
小春も怪我はないようだ。
良かった。
「その割には、今日が初見舞いなんだが?」
小春は胸を張って腰に手を当てた。
「フフッ。効率的に、最後に来たって訳さ♡」
「ま、あんがとよ」
小春がうまく説明してくれたおかげで、俺の暴行については正当防衛と判断された。相手についても、未成年であることや、被害者側との示談が成立したことから、起訴はされなかった。
示談をするように指示したのは俺だ。
アイツらが処罰されても、一円の得にもならない。それよりも、示談金を珠凛の進学に使ってもらう方が、何倍も良いように思えた。
だが、獄倫高校内部では大問題になり、全員、退学になったらしい。
今回の誘拐騒動は、俺は颯からの指示だと確信しているが、証拠が何も残っておらず、颯については、それ以上は追及することができなかった。
山口は……、小春まで巻き込まれたのだ。誘拐には無関係だろう。
まっ、なにはともあれ。
小春に礼を言わないとな。
「小春、色々とありがとうな」
「いえいえ。助けに来てくれた蒼空キュン、とってもカッコよくて、本気で惚れそうなんだけど、惚れていいですか?♡」
小春の頬は赤い。
恥ずかしそうにモジモジしている。
意外にも、本気なのか?
「っていうか、カッコイイもなにも、あの時、小春は目隠しされてたじゃん(笑)。と、いうことで、間に合ってます」
俺がそう答えると、小春はベーッと舌を出した。
「ちえっ。心の目で見てたんだよっ!! ……それと会って欲しい人がいるんだけど。ほら、おにい。入ってきて」
小春が連れてきたのは、山口だった。
山口は何も話さず、ムスッとしている。
(コイツ、何しにきたんだよ。マウントでもとりたいのか?)
まぁ、負けは負けだ。
仕方ない。
「あ、負けたら全裸で土下座っていうのなんだけど……」
俺が話終わる前に、山口が割って入った。
「その前に、コレ。解いてみろよ」
「は? どういう……」
「いいから!!」
なんだよ、コイツ。
ムカつくヤツだな。
渡されたプリントは、日本史の問題だった。
(あの時の問題か)
リハビリがてら丁度いいか。
俺は問題を解くことにした。分からない問題はなくて、15分程で終わった。
「終わったんだけど」
プリントを渡すと、山口が採点してくれて、舌打ちした。
「……満点だ。あの時のテストだけどな。先生に聞いたら、お前が間違えたのは最後の物理の一問だけ。あとは満点だったらしい。だから、その……ったな」
ん。聞こえない。
「おにい!!」
小春が山口の尻を叩いた。
すると、山口は俯き加減で言った。
「色々悪かったな。それに、小春を助けてくれてありがとう。テストは……、今回は俺の負けだ。でも、次は絶対に勝つから」
なるほど。
山口が特別奨学金の申し込みを取り消したのは、そういうことか。
山口は続けた。
「それで、約束だからな。お前の頼みをきいてやるよ。何かあるか?」
そう言われても、こんな勝ち方だしな。
勝ち誇る気にはなれない。
そんなの、すぐには思いつか……。
あ、そうだ。
俺は山口にやってもらいたいことが、1つあることに気付いた。
「実は、陽葵もこの病院にいるんだよ。アイツに謝ってやってくれないか?」
山口は、分かりやすく動揺した。
「え……、でも、柊木(陽葵)は、意識ないんだろ?」
「あぁ。お前らの悪だくみのせいでな。どうだ? 罪悪感でできないか?」
「……わかった」
十数秒の沈黙の後。
山口はそう答えた。




