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婚約破棄

 こうして家に帰って来た私は、婚約破棄を目にした。

 私が知らないはずの話なのでとりあえず母に、


「これは、何なのでしょうか」

「貴方の婚約破棄よ。話の食い違いがあって王子にはすでに意中の相手がいるそうよ」

「そう、なのですか」

「残念だわ。それで、今日はどうしたの? 突然人に会いに行ったと聞いたけれど」

「あの、特殊能力チートに目覚めさせてもらえる人がいるというので会いに行ったのです。そうしたら私、魔物に好かれる特殊能力チートがあると」

「本当! 特殊能力チートが……でも魔物に好かれる能力は……」


 母が困ったようにつぶやく。

 なんでもこの公爵家は代々攻撃系の特殊能力チートを持つものばかりで、それ以外の者達は、


「攻撃魔法系の特殊能力チートを持たない子は、男女ともに見かけが可愛いから、公爵家を継がせると争いの元になると言われているの」

「何ですと……」

「うすうすそうじゃないかと思っていたの。だって、メリー、可愛いし、お見合いも沢山の男性から申し込まれるし」

「……何の話ですか」

「メリー、貴方は“真実の愛”とか夢見がちなことを言っていたから黙っていたけれど、男性に凄くモテているのよ。全部お断りしたし、特殊能力チートに目覚めないからと落ち込んでるのを知っていたから他にも黙っていたけれど」


 ここで私はこの世界で男にモテていたことが発覚した。

 悪役令嬢だった乙女ゲームでもモテていた気はするけれど、まさか……。

 今更知らされた衝撃の事実も含めて、今日の出来事もあり疲れてしまった私はしばらく部屋で一人にして欲しいと頼んだ。


 後になって考えてみるとこの時の判断は間違っていたように思う。

 だって、彼等はターゲットをフィルから私に変えているようだと、あの時、フィルは言っていた。

 けれど私は、あまりにも沢山の事がありすぎて一人になりたくて、だから……屋敷に侵入していたその人物達に、連れ攫われてしまったのだった。








 暗い場所で私は目を覚ました。


「こ、ここは何処でしょうか!」


 声を出すも返事はない。

 周りが暗すぎて、ここが何処なのか分からない。

 視界が閉ざされると恐怖を感じる。


 そう思いながら私は、まず床に触れてみる。

 薄い布が敷かれているらしいがかび臭い。

 物置か何かのように思える。


 次に上半身を起こして、周りに手を伸ばす。

 どうにか石の壁のようなものに触れる。

 それから立ち上がり、その石の壁を伝うようにぐるりと一周すると、小さな人が一人通れるくらいの穴があって、その先に明かりのようなものが見える。


 私はそっとそちらの方に向かい様子をうかがう。

 そこには小さな椅子と机が置かれていて、魔法の明かりがともっている。

 周りには、農具のようなものがおかれていて、ここはどうやら農家の物置のようだと私は気づいた。


「どれくらい私は気を失っていたんだろう。多分それほど時間は立っていないと思うから、遠くまでは来ていないはずだけれど……あそこに扉があるんだ。そこから逃げられないかな?」


 木の扉がある場所に近づき、取っ手に触れる。

 けれど鍵が外からかかっているらしく、開かない。


「ここ、魔法を使えるかな? 私を攫ったりするくらいだから魔法が使えなくなるような何かがありそうな気がするけれど……やっぱり」


 小さく呟いた私は途方に暮れた。

 今少しだけ呪文を唱えたけれど魔法は、この場所では使えないようだ。

 でも強力な物だったら使えるだろうか?


「抑えきれないような魔法だったらきくかも。頑張ってみよう」


 私は魔法を試そうと思うけれど、そこで扉の反対側に複数人の、誰かの足音を聞いたのだった。

 







 誰かの足音が聞こえる。

 私を捕まえた人物達だろうか?

 入ってきたら殴りつけてやろう、そう思って周りを見回すときで作られた箒があった。


 心もとないけれど、これで一矢報いてやる。

 そう思って私はそこそこ大きなタンス? のような物の影に隠れた。

 そこから、誰かが入ってくる音がして、徐々に足音が近づいてくる。


 今だ!

 私は物陰から飛び出して箒で殴り掛かった……のだが、


「なるほど、元気のいい公爵令嬢だな」


 私は箒で攻撃するも、その箒を避けられ、捕まれてしまう。

 その人物は大柄な男達だった。

 だが風体はその……あまりよろしくない場所に居そうな人物達だった。


 薄汚れて敗れた布の服を着た男達で、全部で8人ほどいる。

 彼等は下卑た笑いを浮かべながら私を見ている。

 その視線がやけに私にたいして……嫌な想像が脳裏にかすめる。


 けれどそこで私の放棄を掴んだ男が大きく手を振る。

 それだけでその箒を握りしめていた私は、反動で飛ばされてしまう。

 背中が壁に当たる。


 痛い、けれど私は呻くことしかできなかった。

 そこで声が聞こえる。


「お頭、こいつ、手を出してもいいですか?」

「けがはさせるな、というお達しだ。まあ、怪我をさせる以外なら“何をしても”いいがな」


 嗤う声が聞こえた。

 同時にそのお頭の周りにいた三人の男が、先ほどの痛みで動けずにいる私に近づいてくる。


「な、何を、やだ!」


 私は怖くなって抵抗するけれどすぐに両手を捕まれ床にあおむけにされる。

 その三人の男たちは、楽しそうに私を覗き込んでいる。

 これから何をされるのか?


 私は、知識から予想がつく。

 だから必死になって足をばたつかせたり体をひねるけれど、服が抑えていないもう一人の男によって少しずつ脱がされて行ってしまう。


「いやだ、やだ、いやだっ、むぐっ」


 口に布が詰め込まれる。

 苦しい、怖い、誰か……。

 恐怖を感じる、怯える私を嗤う声。


 その時だった。







 ドアをけ破る音がした。

 人影でだれが来たのか私からは分からない。

 仲間が増えたのか、それとも助けが来たのだろうか?


 新たに別の敵が来た、という可能性もなくはないけれど……そう思っているとそこで、


「メリー、何処だ!」


 フィルの声がした。

 怒っているように聞こえるが、すぐに私を傷つけるなと言っていたこのならず者集団のお頭が、


「く、もう見つけやがった」

「ちがうな、初めからお前たちの拠点は把握済みだ。大したことはなさそうだから放置していたが……まさか公爵家に忍び込めるような力を持っているとは思わなかったな」

「! へ、それがどうした。そして、良いのか? こっちには人質がいるんだぞ」

「知っている。……もし、メリーに傷一つでも負わせてみろ。生まれてきたことを後悔する思いをさせてやる」

「……お前ら、手伝え、やるぞ……まだ、ここにはこいつ一人だけのようだからな!」


 お頭がそう叫ぶと、私に襲い掛かってきていた人物が私から離れて去っていく。

 助かったと思うけれど、先ほどの恐怖でまだ動けない。

 とりあえずは口に突っ込まれた布を吐き出す。

 

 薄汚れた布で、気持ちが悪い。

 そこで何人かの男が、吹き飛ばされていくのを見た。

 単に風か何かで飛ばされて、壁に、先ほどの私の用に打ち付けられているらしい。

 

 人間相手だから魔物のようにいかないのだろうから、手加減をしているのだろう。

 やがて争うような恐怖に満ちた、おそらくは私を捕らえた人物たちの声は完全に聞こえなくなった。

 同時に静かなこの場所に、足音が聞こえてきて、


「メリー……どこだ? メリー」

「こ……こ……フィ……ル」


 まだうまく声が出せない私は、振り絞る様に名前を呼んだのだった。










 か細い声だが届いたらしく、フィルが私の所にやってきて、


「! メリー、まさか……」

「だい、じょうぶ……襲われかけた、だけ」


 だからなにもされていないと返したかったけれどそこで私は、今まで見たことのないフィルの怒りの形相を見た。

 私すらも怯えてしまうようなその表情。

 けれど私が怯えているのに気づいたのか、フィルは安心させるように微笑み、


「もう大丈夫だから。メリーに悪い事をしようとした人たちは全員倒した。だから怖くない。……立てるか?」


 そう問いかけられて私は自分の力で立とうとしたけれど、動けない。

 手で地面を押すけれど力が入らない。

 そこでフィルが私に膝まづくようにして、それから、


「え、え?」


 私の体が宙に浮かぶ。

 正確にはお姫様抱っこされている状態ではあるのだが、困惑している私にフィルが、


「動けないからこの方が楽だろう? それともいつまでもここにいた方がいいのか?」

「それは嫌だけれど、こ、こんなの……」

「実は、メリーは結構“重い”んだな」

「……」


 今、怖い思いをした後恥ずかしい気持ちにさせられた私は、酷い事を言われて凍り付いた。

 重いとか、そんな……と私が思っているとそこでフィルが意地悪く笑い、


「冗談だ。と言うわけで俺が今はそういう気分だからこのままでいくぞ」

「う、うう……ありがとう」


 小さく私はそう答える。よくよく考えれば私は動けないので、こうして運んでもらうしかない。

 そして倒れている誰かが、いつ目が覚めるか分からないのだ。

 だからここに長く滞在するのはよろしくない。


 私はフィルの言葉に素直に甘えることにした。そこで、


「フィル様ぁあああ、勝手に突入しないでくださいいいい!」


 そう、私の知り合いに似た声が聞こえたのだった。

 








 どこかで聞いた事のあるような声がした。

 この世界の人物で確か、


「ジル?」


 私がそう名前を呟くと同時に走りこんできた少女がいる。

 明るい茶色の髪に緑色の瞳で活発そうだ。

 彼女とはここ数週間前に、その時も確かこの公園だったが、偶然遭遇した人物だった。

 しかもその時、私の弟のテオと手をつないでデート中だったのだ。

 だがあの弟の恋人がどうしてこんな場所に?

 そもそも、今フィルの事を様付けで呼んでいなかったか?


 と私が疑問を覚えているとそこで、ジル自身が私に気付いたらしく、


「! な、なんでこんな所にテオのお姉様が……え? だ、だって、今回は公爵令嬢の救出とか何とかで……え、あれ?」


 と話している。

 それを聞きながら私は……弟のテオが、公爵家の息子だと言わずに恋人といちゃついていたことが判明したわけですが。

 焦っているようなジルにそこでフィルが、


「ジル、俺のメリーを知っているのか?」

「な、名前しか知りませんよ! テオの、私の恋人のお兄さんだとしか! え、フィル様の昔から何度も何度も惚気ていたのってこの人なんですか!? 密かに私よりも年上なのに、私よりも年下に見えるって優越感を抱いていたこの人ですか!?」


 焦っているのかどう考えても余計なことを口走っているジル。

 だがここで私は、ジルが私と同じように私の方が大人に見えるなと思っていたことが判明した。

 何てことだ、と思っているとそこでフィルが、


「メリーがジルよりも童顔なのは認めるが、話す内容ではないだろう。中にいる男たちは全員気絶させておいたから、後始末は頼むぞ」

「はいはい、相変わらず無茶するな……では、何処で合流しますか?」

「……一度俺はメリーを連れて俺の屋敷に行く。その方が“安全”だから」


 そう、フィルが答えるのを聞いたのだった。 








 こうして私は、フィルの屋敷に連れてこられた。

 お姫様抱っこの恰好のままで。

 そしてそのままフィルの部屋に来てベッドに座らせてもらったのはいいのだけれど、


「あ、あの、フィル」

「何だ?」

「これから私、どうすればいいのかな?」

「ん? ここをメリーの家にすればいいんじゃないのか?」

「いやいや、両親の説得もありますし私が公爵家を……」

「そういえば調べてみたが、公爵家は攻撃系の特殊能力チートがないといけないそうだな」


 フィルがまるで当然のごとく私の家の話を告げた。

 つまり私は、継げないという事がフィルに気付かれて、しかも婚約破棄状態で、となると、


「“嫁”に出るしかない?」

「だから俺の所に来ればいいんだ」

「で、でも……」

「他に好きな相手もいないだろう? 調べた範囲でいなかったし、メリーは両親が可愛がっていたから見かけと地位目当ての男に“嫁”に出す気はなさそうだったからな。あのお見合いを連続で返していくあれは……俺もどう攻略しようか悩んだ」

「……フィルは私とお見合いしたかったのかな?」

「もちろん。だがあれではやっても無駄だなと思って、丁度ある程度片付いてこちらに来たからそろそろと思ってここ来た。結果はこれだがな。……無事でよかった」


 そう言って私を抱きしめるフィル。

 私の体に布越しで触れているのに、先ほどの男たちのような嫌悪感はまるで感じず、それどころか酷く安心してしまう。

 そのまましばらく抱きしめてもらっていると、


「これからはずっと俺が守るから、安心しろ」

「……うん」


 私は何も考えずに頷いて、しばらく無言のまま抱きしめあう。

 そうしているうちに、この屋敷にとある来訪者がやって来たのだった。









 訪ねてきた人物は、私の弟のテオだった。

 私と顔の造形は似ているが、身長が私よりも高く勉強が出来て、しかも炎の特殊能力チートを持っている。

 しかも公爵家の息子という事でとてもモテた。


 私だって、私だってもっとモテたかったのに! というくらい羨ましい才能に満ち溢れている弟だが、やや私に対しては過保護な所もある優しくて自慢の弟だ。

 両親は今、別の用事で来られず、テオが私を迎えに来たらしいのだ。

 その話を私がここの屋敷の執事の人からきいていると、誰かがかけあって走ってくる大きな音がする。


 誰だろうと思っていると姿を現したのは、


「テオ!」

「姉さん、誘拐されたって本当! ……そこにいる男は誰だ」


 そこで私のすぐそばにいたフィルに気付きテオが睨み付ける。


「姉さん、そこにいる男は誰だ?」

「え、えっと……」


 どう説明しようと私が思っているとそこで私は、フィルに手を腰に回されて抱き寄せられた。

 な、何だが凄く動悸が激しくなるような、そう私が思っているとそこでテオが、


「お、おま……姉さんから、俺の姉さんから手を離せ!」

「離す必要はないな。だって、メリーは俺の恋人でその内、“嫁”になるんだし」

「なん……だと?」

「ああ、今から、フィルお義兄様おにいさまと呼んでも構わないぞ」

「誰がお前の事を呼ぶか! というかこの見かけだけは良さそうな性格の悪い男は止めましょう、姉さん!」


 そう私は言われるが、私としては、


「あれ? 恋人?」

「そうだぞ。その内、“嫁”にするが」

「え……ま、まだ心の準備が……」

「選択肢にはあるという事かな?」

「う……うう……」

「必ず落とすから覚悟しろよ」


 私はそう熱っぽく、フィルに囁かれてしまったのだった。









 必ず落とすから、とささやかれて私はもう、もう……。

 先ほどの怖い思いをしたけれどそれ故にフィルのすぐそば酷く安心してしまうのもあって、なんだかもっとそばに居たい気持ちに……と私が思っていると、


「姉さん、趣味が悪いよ、こんな男が好きになるなんて」

「べ、別にそういうわけでは……」

「それに誘拐されたのに助けに来たって怪しすぎます。そこにいる男もグルなのでは? 最近社交界に姿を現した美系の貴族だなんだともてはやされていますが、怪しいと俺はずっと思っていました」


 そんな噂あったっけ、と思いつつもそういった情報も弟の方が手に入れやすかったと思い出しているとそこでフィルが私の頭を撫でる。

 あ、何だか気持ちがいい……昔何処かで……と私が幸せな気持ちになっていると、


「に、姉さんの頭を撫でるな!」

「よくメリーに昔は撫でて貰っていたものな。だから俺がその分撫でてあげるんだ」

「わけの分からないことを……そもそもこんな屋敷よりも公爵家の方が安全なはず!」

「いや、俺の傍の方が安全だ。俺は強いからな」

「ふん、何処からどう見ても弱そうにしか見えないな」

「それはお前の目が節穴なのでは?」

「この……」

「だがメリー、事が終わるまでメリーに彼らが手を出してくるかもしれないから、俺がメリーの傍にいて守る方が良いかもしれない。どうする? ここに滞在する? それとも俺が公爵家に滞在する?」


 問いかけられて私は、フィルと一緒にお泊り? と首をかしげてから、


「私と同じ部屋?」

「そうでないと守れないから仕方がないな」


 フィルが楽しそうにそう答える。

 だがそれを聞いてテオが怒ったように、


「だ、誰がお前みたいな怪しい人物を俺の屋敷に泊めるか!」

「ほう、そんなことを俺に言っていいのかな?」

「なんだ、どういう意味だ?」


 だがテオのその問いかけに答えず、けれどフィルが悪い笑みを浮かべて、そこで、


「フィル様、後始末終わりました。もう勝手に飛び出していかないでくだしあ……えっと……」


 そこで疲れたようにやって来たジルが、テオに気付き動かなくなったのだった。









 ジルという恋人の存在に気付いたテオが、ジルを見てからすぐにフィルに視線を移し、


「お前……俺の恋人のジルと、どういう関係だ?」

「なんだ、知りたいのか?」

「もちろんだ。……あまりジルは俺に、自分の事はあまり話さないから」

「だが、お前だって公爵家の人間だと話していなかったんだろう?」

「そ、それは、その……ジルには、公爵家の人間だからとかそういったものではなくて、ありのままの俺を見て欲しかったから……」


 テオが、弱気になったようにそう呟いている。

 テオにとっては本当にジルは愛しい相手なのだろう。

 だからテオ自信を見て欲しくて黙っていたのだろうと思っているとそこで、フィルが、


「それで俺がそこにいるジルとどういう関係か、知っているのか」

「知らない。だがジルは可愛いしまさか……」

「残念ながら、お前の姉の方が可愛いので、そちらに食指は動かなかったな」

「そう、なのか。く、素直に喜べない。姉さんは可愛いけれど、そのおかげでジルが無事だったなんて。だがそうなると、どういった関係なんだ?」


 問いかけるテオにフィルがさらに笑みを深めて、


「知りたいか?」

「もったいぶるな!」

「どうしようかな、反抗的なメリーの弟……ん? メリーどうした?」


 あまりにもフィルが意地悪なので私は、フィリの服を引っ張って合図する。

 それに私だって、


「フィルとジルはどういう関係なのかな? 私も……気になるよ?」

「ああ、ジルは俺の“下僕”なんだ」

「え?」

「借金の形に働かせてくれ、何でもするからっと言うので、魔法やらの教養面から戦闘面までみっちり教育して都合よく俺が使っているだけだ。まだ借金はあるが、これだけ能力があれば他の仕事にもつけそうなのに、未だに俺のもとで働いているから、使っている、それだけだ」


 そう告げたフィルに、ジルが、


「確かに死ぬような思いで勉強させられましたが、恩は感じていますから」

「そうか、それで今後も俺にジルはまだしばらくついてくると、そうだな?」

「それはもちろんですが、それがどうかしたのですか? また悪だくみですか?」


 ジルが警戒したようにフィルに告げるも、そこでフィルが、


「人聞きが悪いな。ただ、俺がメリーの屋敷にお泊りすることになれば、ジルも当然その屋敷にお泊りになる。それで、お姉さんを取るのか、それとも恋人を取るのか。どうする? シスコンの弟君?」


 などと、フィルは問いかけたのだった。


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