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この世界で生き残るために  作者: スタ
三章 予測不能な出逢い
23/61

その未来に抗う為に

 お待たせしました一話投稿です。

 ちょっと期間開き過ぎました申し訳ないです。



「エルちゃん、これを先輩あ・・・・っと支部長に渡してくれる?」

「はい。」


 机の上に山積みにされている資料の中から一抱えはあるであろう紙の束を差し出されたので、私は素直にそれを受け取った。


「ありがとね、エルちゃん。貴族のご令嬢なのに研究所に来てもらって。」

「いえ、こちらこそ色々と助かりました。」

「でも、両親が反対したんじゃない?貴族の娘が王宮の侍女以外の仕事に就く事なんてあまり聞かないし。」

「大丈夫ですよ。」

「そう?」

「ええ、それよりダリルさん。この間調査した遺跡の調査結果が出たのですが。」

「じゃあ、それ持って行ったら資料にまとめてここに置いといてくれる?」


 そう言って、目の前に座るダリルさんが机に山積みにされている資料の一つを指していた。

 私は一つ頷いて手元の資料を抱え直して部屋を退出することにした。




 私は今、魔術研究所の職員として働いている。

 そして、エリオットの家庭教師をしていたダリル先生は私の上司になっていた。













***




 あの事件から半年と少し。



 私の学園での立場はより厳しいものとなったが、それでも話しかけてくれる者は居た。と言うより、勇者(予定)とエリオットなんですけどね。

 あれ?これって良かった事なんですかね?いやでも、学園では私の印象最悪・・・・どっこいどっこいか?


 と、まぁそんなこんなで私はほぼボッチスクールライフを邁進中です。

 べ、べべ別に寂しくなんかないですよ?

 ほ、ほら!それに精霊術の特訓をするのに一人の方が都合がいいですしね!!

 そうだよ!精霊術を使うのにもってこいだよ!うんうん!!

 い、いやさっき気が付いたとかじゃないですよ?

 もちろん、狙ってた狙ってた!!


 ま、まぁ今はそんなことはいいじゃない!

 今日は珍しいことがあったんですから。

 

 何かって?それは、今日父が帰って来ているのですよ。

 ホント珍しく。


 エリオットが来た当初は、家に帰って来ていたのですが。当のエリオットには素っ気ない態度をとられる上、気に入らない私達母娘が居る邸に寄り付きたくないとだんだん帰って来なくなったんですよね。

 エリオットに関してはなんと言うか、ご愁傷様としか言えませんけどね。




 身支度をして、食堂へと向かうと後の三人はすでに席に着いていました。


「遅れて申し訳ありません。」


 そう一言添えて席へと着くと、母は笑って許してくれ、エリオットもそれに頷きで返してくれた。父だけは此方を見ようとはしなかったが。





 そうして始まった晩餐は、とってもギスギスしたひと時となった。



「・・・・。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・。」



 あ〜うん、えっと・・・・。

 気不味い。

 非常に気不味い。

 お〜い誰か喋って〜!!



「・・・・。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・。」



 普段軽い嫌味の応酬をする母とエリオットですら今は無言ですか。

 黙々と夕食を食べてますが、こんな状況で食べた気なんてしないんですが。

 あるぇ?何時もはとっても美味しい料理長の料理なのに、今日は全く美味しさを感じられない。

 ヤバい、まだメインディシュが残ってるのに。

 もう食べれないよ〜。

 料理長ごめんなさい。


 料理の残った皿が下げられるのを見ながら、心の中で料理を作ってくれた料理長に謝罪していた。






 晩餐も終わりを迎え、食後のひと時とお茶を飲んでいる時に父が徐に私に声を掛けてきた。

 普段は私に対して声を掛けることなど無いと言うのに、珍しい事もあるものだと吃驚した。

 それはエリオット達も同じだったみたいで、声は上げなかったが僅かに目を見開いてこちらを伺っていることには気がついた。



「何でしょうか?お父様。」


 久々にお父様と呼んだ気がして、その言葉に違和感を覚えたことが可笑しかった。

 でもよくよく考えてみると、この十六年間で父の事をお父様と呼んだことなど数える程しか読んでいないことに気が付いて可笑しいのか悲しいのか分からなくなった。

 自身の言葉にモヤモヤとした思いを抱えながら父の言葉を待つ。


「今年で卒業だな。」

「?はい、そうですね。」

「卒業したら直ぐ他家へ嫁ぎなさい。」

「は?」

「この家に居れるのも卒業までだ。それまでに出ていけるように準備をしておきなさい。」


 行き成りの事に開いた口がふさがらず、無言で父を見つめるしかなかった。




 とつぐ?

 ド突く?


 ・・・・・・・・嫁ぐ!?


 うぇえええええええ!!!???

 ちょ、私まだ十六歳!!

 あ、否、今世では結婚適齢期だけれども!

 まあ、前世でも十六歳は結婚できる齢ではあったけれど、昨今は二十代後半まで結婚しない人もいたくらいだし、いやいや今はそういうことを言ってる場合じゃ!!

 ちょ、ちょっと落ち着こう!!

 うん、落ち着こう!


 ・・・・・・・・・・・・・ふう。


 で、誰がド突くって?(いまだ混乱中)




「少々急過ぎではございませんこと?」


 事の成り行きを見守っていた母が、不機嫌を隠そうとせずに聞いてくる。


「大体どこへ嫁がせると言うのかしら?」


 そ、そうそう!!どこへ嫁がせる気ですか!


「ダウナー男爵だ。」


 ダウナー男爵・・・・・・って誰?


「ダウナー男爵ですって!?あそこは悪い噂が絶えないと言うじゃありますんか!!」

「噂は噂だ。関係ない。」


 いやまあ、噂を鵜呑みにするのは良くないですけどね。でも、火の無いところに煙は立たないとも言いますし。


「それにあそこは年の近い息子はいなかったはずですよ!?」

「息子では無い。男爵本人だ。」

「男爵本人ですって!?私よりも年上ではありませんか!!年が離れすぎではありませんこと!?」


 はぁ、本人ね。

 ・・・・・・・・・へぇ、お母様より・・・え?そんなに??

 親子か、下手したら祖父孫並ってことですか!?


「別に年の差は関係ない。あそこは商売で成り上がった貴族だが、今勢いを増して力をつけている。取り入っておいて損はない。」


 いやいやいや、年の差関係無くないです!

 せめて兄弟くらいの差でお願いします。

 親子や祖父孫くらいの年齢差は、正直冗談でもきついです。


「・・・・公爵とも縁がありそうだしな。」


 公爵?

 確かこの国には公爵は二家。

 どっちの公爵のことを言ってるのかしら?


 ぼそりと父が吐いた言葉は私以外は誰にも聞かれていなかったらしく、父の言葉のことごとくを反論する母ですら今回は聞こえていなかったようだ。



「それに縁談が来ているのはそこだけだ。」

「決めるのはまだ早すぎますわ!エリーゼはまだ十六歳ですのよ?もっといい縁談が来るはずだわ!」

「ふん、どうだか。」


 否、私も早いと思います!

 確かに貴族なら十六歳から結婚する人もいるけど、でも縁談がそこだけだからって適当にもほどがあるよ!!

 もっと吟味してもいいと思うよ!!

 て言うかもう少し結婚とかそういう話は待ってほしいです。





 二人の会話を聞きながら脳内で突っ込んでいると、チラリと父が此方を見てきた。


 何時もと変わらない冷たい視線。

 その視線の奥に隠れた感情は―――――


 あぁ、そういうこと。



「お父様。」


「何だ。」

「その縁談はもう正式に決まったことですか?」

「・・・・まだ文は出していない。」


 まだ・・・・・それはこの縁談を進めることは父にとっては決定事項と言うこと。

 其れなら――――


「それなら、もう少しこの縁談待ってください。」

「・・・・何を言おうが取り止めはせんぞ。」

「・・・・・・卒業と同時にお父様の望み通りこの家から出ましょう。」



 ただし、私の望む形で、ですが。



「ふん・・・・・卒業までだ。」

「それでは失礼します。」


 さっさと会話を切り上げて食堂を出る。

 母が私を呼んでいた気がしたが、今は気にする余裕なんてなかった。

 足早に自室へと戻る。




 明かりも点けずに暗闇の中ベッドへと倒れ込む。


 冷たい視線の奥に隠れた感情。

 私を見つめるその視線には、嫌悪と忌避。

 早く厄介払いしたいと言うのが見え見えだ。

 何となく分かっていたことだけど、悲しくて、悔しくて、堪らない。


 ギュッと目を瞑って内で荒れ狂っている感情の波を鎮める。



 あぁ、でも。

 父に切り捨てられて悲しいのに。

 そんな今ですら、涙は流れない。

 その事が、何故だか少し哀しかった。














 エル?

 予鈴、鳴ッタヨ?


「え、あぁ、そうね。行かないと遅れちゃうわね。」


 今ではすっかり定位置と化した人気の少ない植え込みの中。

 膝を抱えて昨晩の父とのやり取りを鬱々と思い返していたら、遠くで予鈴の鐘が鳴る音が聞こえてきた。

 小鳥の姿で方に乗っかっていたシアンがその音に気が付いて、いまだにどんよりと考えていたエルに声を掛けてきた。


「えっと、確か今日は魔術研究所から特別に講師が来るはずだったわね。あ、なら別の教室じゃない!!急がないと!!」


 次の授業を思い出して慌てて立ち上がると、まずは筆記用具類を取りに教室へと急いだ。










「今回の講師って、研究所に最近新しく設立した部署の支部長が来るって話だろ?」

「ああ、確か学園で奇才と言われた人だよな。」

「どんな人だろうな。」

「私ちょっと楽しみ!」

「俺も!」


 などと言う会話が近くで交わされているのを小耳にはさみながら、興味の無い風を装いながら机の上を整理していた。

 実際顔の表情は全く動かないので、興味の無い風も何も無表情なのだが。

 内心ではとっても興味津々だった。


 そう言えば、前にダリル先生が言っていた先輩についてそんなこと言っていたような・・・・。



 ガラリと開いた扉から入って来たのは、とっても見覚えのある顔。


 ん?

 あれ?


 教室に入って来た見知らぬ男性に教室内はざわざわと騒ぎだす。

 私は一人声も上げずその男性を凝視していた。


 その男性は教壇に立つと、パンパンと手を叩いて皆の視線を集める。



「皆さん静かに。今日は、講師である支部長が別件で来られなくなりましたので、代わりに私が講師を務めることになりました。魔術史支部の職員ダリル・カールトンです。よろしくお願いしますね。」



 まさかの思わぬ再会。

 無表情ながらも私は開いた口がふさがりませんでした。

 もうホント。

 吃驚ですよ。









 








 それがもう一つの転機。


 もしこの時、偶然という奇跡が訪れなければ。

 きっと今この場所に居ることは無かっただろう。









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