閑話 ある日の小鳥の一日
三話更新の三話目です。
とある昼下がりの午後。
人気の無い木陰でお弁当を広げていた時だった。
ツマラナイ。
アキタ。
「は?」
唐突に響いた声にも、その内容にも吃驚した。
ダッテ、毎日マイニチ、同ジコトノ繰リ返シ。
一緒ニイテモ、何モ起キナイ!
ジットシテルノ、アキタ!!
アキタ、アキタァ!!
ギャンギャンと駄々をこねる精霊に溜め息が出る。
耳を塞いでいても頭から直接響いてくるので正直煩くて叶わない。
防ぎようの無い声に私は顔を顰めてシアンに尋ねた。
「はぁ。・・・それで、どうしたいの?」
オ散歩!!
ガクエン、タンケン!!
精霊ってこんなものなの?
単純と言うか、能天気と言うか・・・。
「・・・・青い鳥の姿で、人に見つからないようにね?」
ウン!!
ピアスが光ると小さな青い鳥に変わって空へと飛んで行った。
小さなため息と共に昼食を再開することにした。
***
さて、何処に向かおうかな?
学園は広いから、中を見て回るのも良いし、外を見て回るのも良いな。
エルが普段行ってくれない所を見て回るのも良いかも。
まずは、普段行かない第三修練場へレッツゴー!!
来てみたはいいけど・・・・何か集まってる。
何だろう?
騒がしいなぁ。
「ジェリー勝負だ!!今日こそ魔術よりも剣術の方が上だって教えてやるよ!」
剣先を少女に突きつけた少年は噛み付くように言った。
「フン!何度やっても同じよ、トム!!野蛮な剣術よりも魔術の方が素晴らしいんだから!!」
突きつけられた少女は馬鹿にした様に言い返している。
馬鹿にされた少年は逆に顔を真っ赤にさせて激怒していた。
「剣術は野蛮じゃない!!根暗な魔術なんかより剣術の方がかっこいいね!!!」
「何ですってぇ!?」
お互いバチバチと火花を散らして睨み合っている。
二人の周りには人垣が出来ていた。
これはどういう状況だろう?
「また、あの二人が喧嘩してるよ。」
「懲りないなぁ。」
「今度は何の喧嘩だ?」
「それが今日の歴史学で、歴代の勇者が魔王を倒した技で魔術か剣術のどっちが多かったかで言い合いになったんだと。」
「何だそりゃ。また魔術と剣術の喧嘩かよ。」
「まあ、魔術バカに剣術バカの喧嘩だし。何時ものことじゃん。」
「ハハッ。それもそうだ!」
「今日はどっち賭ける?私はジェリーに500マニー。」
「あ、俺もジェリーに500マニー!」
「私はトムに賭けよっかな。」
「私はジェリーに賭けるわ!」
「じゃあ、俺はトムに1000マニー賭けるぜ!」
「お!強く出たな?」
「へへっ!今日はトムが勝つだろ!」
「わかんねえぜ?今のところ92勝89敗でトムが負けてるからな。」
「お前よく覚えてんな。」
「ふっ、あいつ等の仲裁をやるのにも大変なんだよ・・・。」
「・・・どんまい。」
どうやら魔術と剣術の勝負らしい。
それにしても分野が違うのに勝負になるのだろうか?
何時もの事らしいし、少し見ていこうかな?
それに、面白そう!
「あ、準備オッケーみたいだよ。」
「それじゃあ、ルールはいつも通り。どちらか先に膝を付くか場外に出たら負けって事で。始め!」
人垣より少し前に出ていた少年が合図をすると睨み合っていた二人は一斉に動き出す。
かと思いきやそうではない様だ。
少女は杖を掲げて何やらブツブツ言っている。
対する少年も気を溜めているのか一歩引いた構えをしたまま動かないが、手にしている剣が光りだしている。
んん?
小出しに技を仕掛けて消耗戦を謀るとか。
剣術有利のスピード勝負に持ち込むとかしないの?
そんなことを考えていると、人垣の方も動きがあった。
何やら全員同じ呪文を唱えている。
どうやらシールドを張っているみたいだ。
皆一様に二人の方へシールドを張り巡らせている。
ん?
・・・・・・・・・・・・・・。
これは、何やら危険な予感が・・・・。
早く此処から離れないと!
シアンが慌てて近くの木から飛び立とうとする。
それと同時に二人の技も完成したらしく動き出した。
「エクスプロード!!」
「真空裂斬!!」
ッッ!!
激しい衝撃音と共に爆風が襲いシアンは飛ばされていった。
ふう、酷い目にあった。
結局勝負の行方は分かんなかったな。
小さなシアンは爆風によって数十メートル離れた雑木林の中まで飛ばされていた。
辺りを見回すと、どうやら校舎裏の雑木林のようだ。
人影は見当たらない。
そうだ!
校内を探検しよう!!
青い子栗鼠に変身すると、開いている窓の一つから中へと入る。
閑散とした教室の一室だった。
廊下へと続くドアからも人の声は聞こえないので廊下へ出てみる。
案の定人影すら見当たらない。
普段生徒が来ない特別棟とか言う所かな?
丁度いい!!何処へ行こうかな?
目的も無く廊下をトコトコと歩いていると、たくさん並ぶドアの一つが異様に暗い。
そこに興味を惹かれて中へと入って見ることにする。
子栗鼠が入るくらいの隙間を空けて、するりと中へと入る。
室内は真っ暗で中は見えない。
ここはどういう所なんだろう?
キョロキョロと見回していると、何かにぶつかって物音が響く。
「誰?」
何処かから少女の声が聞こえてきた。
真っ暗な中、人が居たらしい。
それにしても明かりも点けずにこの人間は何をしていたのだろう。
「もしかして鼠かしら?」
考え込んでいると、何処かから
シャリ・・・シャリ・・・
という金属を擦り合わせる音が響いてきた。
それと同時にゾクリと悪寒が走る。
あれ?おかしいな。
何だか身の危険を感じる。
ワタシ、強い精霊なのに。
「ふふふ・・・・鼠ちゃぁん。・・・出ておいでぇ。・・・・とう!!」
掛け声と共に何かが空を切り裂く音が聞こえた。
その直後に隣でサクッとその何かが突き刺さった。
横を見ると小型のナイフのようだ。
知らず全身から冷汗が出た気がした(実際精霊なので出ません)。
うん。
やばい。
ダッと駆け出すと少女も追い駆けて来た。
「こら!!待ちなさい!!!」
暗い室内を駆け回っていると、大量のナイフが後ろから襲ってくる。
小さい栗鼠な上に暗闇で何処をどう逃げているのか分からないシアンにとって不利な状況だった。
直ぐに追いやられてしまう。
「うふふ・・・追い詰めたわよぉ。観念して研究素材になりなさい!!」
や、やられる!!
ドサッ
?
思わず目を閉じて固まっていたが、一向に襲いかかってこないどころか何かが倒れる音がした。
如何したのだろうかと恐る恐る目を開いてみる。
そこには目を回して倒れている少女が居た。
どうやら物が乱雑に置かれてあった部屋を駆け回ったおかげで、山ずみにされていた本が少女の上に倒れてきたらしい。
少女が起きてこないか様子を見ながらホッと一安心する。
乱雑した部屋を音をたてずに移動するのは大変なので小鳥に変身して部屋から出ることにした。
ふう、危ない目にあった。
今度は如何しようかな?
ふらふらと廊下を飛び回っていると、廊下の角から声が近づいてきた。
わわっ!
やばい!!
見つかる!!
咄嗟にピアスに変身する。
角から出て来たのは二人の生徒だった。
「―――それでねぇ。・・・あれ?」
「どうしたの?」
「ほらあそこ、何か落ちてる。」
「本当だ。誰のかな?」
「先生の所に届けてあげよっか。」
「そうだね。」
え?
え?
ええぇ!??
ワタシ、落し物じゃないよ!!
少女たちはシアンの訴えに気づくはずも無く(ピアスだしね)親切心から先生に届けに行った。
「分かりました。預かっておきますね。」
先生にシアンを預けた少女達はチャイムが鳴るとそのまま職員室を出て行った。
「私も次の授業があるからこれは引き出しの中に入れて置こうかしら。」
そう言って机の引き出しを開けるとシアンを入れて閉じてしまった。
足音が遠ざかる音がする。
どうやら次の授業へと向かったようだ。
ど、どうしよう。
出られない。
暗く狭い引き出しの中で焦るシアン。
力は契約によって制御されているので使えない。
変身しても中からじゃあ開けない。
色々と考えてみるが時間だけが過ぎていく。
暗闇の中、どれだけ時間が経ったのか分からなくなった頃外から物音がした。
先生が戻って来たのかと期待する。
しかし、引き出しを開けたのはこの机の持ち主ではなかった。
え?
誰だろう?
その男はシアンを手に取ると無造作に手に持っていた袋の中に放り込む。
わわっ!?
どういうこと!?
男は次々と職員室の中を物色して行く。
袋の中に入れられていくのは装飾類、術具類その他金めの物たちだ。
どうやら泥棒らしい。
これはもしかしなくても、ワタシ盗まれている!?
金めの物を粗方袋に入れ込むと男は窓へと足をかける。
窓から外へ逃げるようだ。
うわっ!うわっ!痛ッ!!わわっ!?
走って逃げる男に担がれている袋の中は、装飾類、術具類でひしめき合いいろんな物にぶつかる。
ど、どうしよう!?
如何すれば!??
エ、エル助けて!!
「!!」
何の考えも浮かばず焦っていた時、急に男が立ち止まったのか激しい揺れの後動きが止まる。
その直ぐ後に、前方から知らない少年の声が聞こえた。
「お忙しいところすみませんが、貴方に尋ねたい事があるんですよ。」
「・・・・。」
「今日の昼ごろ不審人物を学園内で見かけたらしいんですよ。貴方は知りませんか?」
「し、知らねえなぁ。」
「そうですか。目撃情報では帽子を目深にかぶった男が大きな麻袋を担いでいる所を見かけたらしいんですけど。」
「お、俺は清掃員だ。これはゴミだ。」
「そうなんですか?」
「あ、あぁ。俺は急いでいるんだ。通して貰ってもいいか?」
「そうですね。清掃員なら仕方ありません。お忙しいところ引き止めてしまってすみません。」
明らかに見え見えの嘘をはく男の言葉に、少年は信じて素直に道を譲ろうとしているようだ。
ええぇ!?
信じるの!?
特徴見たまんまだよ!?
言い訳とか嘘くさ過ぎるよ!?
「待て!!レナルド行かせるな!!」
あまりの事で混乱していると、また後ろから少年の声が聞こえた。
どうやら後ろの少年は、この男が犯人だと気付いている様だった。
「・・・チッ!!退けえぇぇ!!」
男がいきなり走り出した。
前方の少年を押しのけて無理やり行こうとしているようだ。
すると、ヒュッと風を切るような音が響く。
その音と共に男の足は止まった。
少年が剣でも抜いたのだろうか?
よく分からない。
袋の中で見えないよ!?
「大人しく捕まった方が身の為だよ。」
「くそっ!!」
「観念しろ。」
んん!?
今どういう状況だろう?
何度も言うようだけど、袋の中だから分からない!
それにしても、一人は聞き覚えのある声なような。
「うおぉぉぉおおおぉ!!!」
「わっ!!」
「ッ!!往生際が悪い!」
そんなことを考えていると、いきなり衝撃が襲ってきて、それから直ぐに近くで何かが倒れる音が聞こえた。
それと同時に袋から投げ出されてしまう。
どうやら少年達が男を取り押さえたようだ。
その衝撃で袋が男の手から離れ中味が飛び散ってしまったらしい。
ピアスになっていたシアンも袋から飛び出し、これは逃げ出すチャンスかと思ったがどうやら直ぐに逃げ出すチャンスを失った。
一人が男を縛り付けている間、もう一人は散らばった物を集めていたら騒ぎに気づいたらしく人が集まって来た。
盗品を回収していた少年が此方に気づいて近づいて来て手に取る。
「・・・これ。」
「どうした?」
「ああ、これ―――」
「貴方たちが捕まえてくれたの!?ありがとう!!あら、それも盗品?誰のかしら?」
「あ、えっと、これ俺の知り合いの物なんで持って行っていいですか?」
「あらそうなの?それじゃあ渡してくれる?」
「はい。」
シアンを握りしめた少年はそのまま人垣から離れて校舎へと歩いて行く。
一緒に盗人を捕まえた少年も慌てて後に続く。
「それ、知り合いの?」
「ん。エル・・・・姉の。」
そう、シアンを救い出したのはエリオットだった。
「ふうん。エリオットに姉がいたとは。で、そのエルさんってどんな人なんだ?」
「レナルドに関係ない。」
「何だよ、俺たち親友だろ?それでどんな人?」
「・・・・。変な姉。」
「ブフッ!!変って・・・。」
エリオットはエルをそんなふうに見ていたのか!!
衝撃の事実。
「変だよ。違う母親から生まれた庶子の俺に嫌悪も蔑みもせず真っ直ぐ向かって来るなんて変だろ。」
「・・・・。」
「それに、俺のせいでエルは家の人間、特に親父に嫌われているのに俺を憎みもしない。」
「エリオット。」
「嫌ってもいいはずなのに、会ったら挨拶してくるし、勉強の間違いを指摘しても素直に聞くし、しつこいくらい食事や散歩に誘ってくるし、この前なんか乗馬に誘っておきながら乗馬服着忘れて来てた。」
おや?
何だか何時もよりエリオットが饒舌だ。
「それに・・・何笑ってんだよ。」
「くくっ・・・分かってる分かってる!確かにエルさんは変な人みたいだ。でも、そんな姉をエリオットは好きなんだろ?」
「別にそんなんじゃない。ただ、あの家の中では嫌いじゃないってだけで。」
「うんうん。」
何だエリオットもエルのこと好きなんだ。
ワタシと一緒だ。
「・・・・・・。」
「・・・ったぁ!!」
無言になったエリオットがレナルドの脛を蹴った。
その唐突な攻撃に悶えているレナルドを放ってさっさと校舎へと向かう。
「あっ・・・ちょっ、待てよ!!」
追い駆けてくる少年を無視しながらも何処か嬉しそうなエリオットだった。
***
夕方、家に帰って来て。
ん?何か忘れてるような。
首を捻っていると、エリオットも丁度帰って来たところだった。
「エリオットお帰り。」
「ただいま。・・・・エル、これ。」
そう言って差し出したのは青い玉が付いた羽根のピアス。
シアンだ。
「あ。・・・こ、これ!!」
す、すっかり忘れてた!!
でも、何でエリオットがシアンと一緒にいるのかしら?
「落し物。」
「拾ってくれたの?」
「ん。」
「そっか。ありがとう!!」
「別に。」
お礼を言うと素っ気無い返事と共にさっさと部屋へと戻って行った。
何時ものことなので気にしないことにする。
この照れ屋さんめ!
そうは思ったが口には出さず私も部屋へと戻ることにした。
「お帰りシアン。」
タダイマァ。
今日ハ、大変ダッタヨ。
怖カッタヨォ!
エル。エル。慰メテ!!
そう言ってピアスから小鳥に変身すると髪の中へと潜り込む。
何時もと違うシアンに吃驚しながらも髪の中から出した頭を撫でる。
「よしよし・・・・本当に如何したの?それにエリオットとも一緒だなんて。」
イロイロアッタンダヨ。
モウ、エルト会エナクナルカト、焦ッタヨ!
ソレヲエリオットガ、助ケテクレタノ!!
「ふうん?よくわかんないけど大変だったんだね。」
ウン!
ヤッパリ、エルノソバガ、一番楽シイ!!
「・・・・・そ、そう。」
え、何それ。
それは、素直に喜べないんだけど。
楽しいことも怖いことも色んなことがあった日だった。
でもやっぱり、つまんなくてもエルの傍が一番好き!!
わりとどうでもいい補足
マニーとは、お金のことで1マニー1円となってます。
トム(剣術バカ)とジェリー(魔術バカ)の勝負は、お互い今覚えている技の中で一番強い技を出し合いその攻撃でどちらかが膝を付くか場外に出たら負けというルールです。ちなみに今回はお互い場外になったのでドローです。
(ドローは100回を既に超えているので数えないことになってます。)
技名は適当なのでスルーしてください。
特別棟は、研究や実験施設の棟で普段は余り人は来ないか、居ても研究や実験で部屋に篭りっ放しが多いです。
あの少女もそんな中の一人です。
授業にもあまり出ず、時々部屋から奇妙な音が聞こえるのだとか・・・。
生徒たちの多くは、暗黙の了解として見ざる聞かざる言わざるを貫いてます。
今回でこの章は終わりましたので、宣言通り旧版は下げさせていただきます。
読んでくださった方ありがとうございます。
これからも此方の方で続きますので、良ければぜひ見て行ってください。




