第41話 サポート
義士が心配だ。
少しの間、営業に付いて行くことにした。
まず向かったのは、フィットネスジムの大手。
挨拶と名刺交換を担当者と終え本題に入った。
「マジックフィジカルを使えば、ボタン一つでトレーニング。大幅に時間を短縮できます」
「そうですね。素晴らしい製品であることは間違いないですが、ジムに通う方はどの筋肉を鍛えたいか考えながらやってます。なのでコアなユーザーとは一致しないと思います。漠然とダイエットしたいという方には向きますが」
「なるほどどの部位を鍛えたいかですか。分かりましたこの義士が責任もってバージョンアップした機械を届けます」
おいおい、できるかどうか相談もなしかよ。
出来なかったらどうするんだ。
「それが出来るのであれば前向きに検討します」
「次に来る時は契約書をもってまいります」
こいつ、出来るかどうか分からないことを言いやがって。
「出来なかったらどうするんだ」
「ああ、筋肉の部位の個別の機械なんて要りません。各機械ごとに名前をちょこっと変えれば良いはずです。中身は同じでね。筋肉量なんか簡単に量れないはずですから」
こいつ、3流詐欺師だな。
何日か経てば見た目で筋肉は分かるだろう。
クレームの嵐になって返品が凄いことになるぞ。
「そういう場合は開発部門と相談して決めますと言え」
「はい、兄貴」
筋肉の部位ごとのマジックフィジカルね。
異世界の魔道具職人と相談だな。
「一部分を疲れさせたいか」
「できる?」
「できるが、足とか手とかぐらいで良いのか?」
「いや、筋肉は色々と分かれている」
筋肉図が載った物を見せる。
「ほう、皮膚と脂肪を落とすとこんな感じになっているのか。文字が読めないが、筋肉ごとに名前も付いているんだな」
「筋肉の名前は適当に付けてくれ」
「おう」
筋肉ごとのマジックフィジカルが出来た。
全く、義士の野郎は手間を掛けさせる。
「兄貴、フィットネス大手と契約が取れました。千個発注してくれるそうです」
「よくやったと言いたくない。ほとんど俺の手柄なような気がする」
「これでも苦労したんですよ」
「これで、義士の懐には200万円か。ギャンブルなんかに使うなよ。借金返せよ」
「はい、兄貴」
「スライミークリーンの方はどうだ?」
「歯医者に営業を掛けたんですが、上手く行ってません」
「どんな障害だ?」
「診療報酬の科目に入ってないからだそうです。保険適用外になると患者が嫌がるからと」
「医療機器としての認可を取らないといけないのか。空蝉に丸投げだな。たぶん時間が掛るだろう」
この件はこれで良い。
「兄貴、マジックフィジカルですが、評判が悪いというか、ある一定層から低評価されるんですよね」
「ほう、どんなだ?」
「マジックフィジカルを使った後に疲れるのが嫌だと」
「運動する機械なんだから疲れるのは当たり前だ」
「で、疲れないマジックフィジカルを作ると言ってしまいました」
「お前、相談しろって何度言ったら」
「2000個の発注ですよ。逃せません」
異世界に行く。
「疲労を取る魔道具は上手くないな」
職人の顔が渋い。
「問題があるのか」
「教会の専売なんだよ。まあ、魔穴の向こうで販売するなら、教会は表立ってはうるさく言わないだろうが。作るだけでも裏から圧力を掛ける可能性がある」
教会か。
工員の中にも信者がいるだろうし、ぶつかるのは上手くないな。
「別案はないのか?」
「ポーションで良いのならスタミナポーションがあるな。これを飲めば疲れが取れる」
「ポーションは領主と相談だな。畑の作付けを変えないといけないからな」
領主との話し合いは上手く行った。
俺がひとつ街とひの周りに畑を作ったからだ。
まだ作物を植えてない畑があるからちょうど良い。
スタミナポーションの原料の薬草を栽培するには、薄めた魔水が要る。
異世界の常識では高くてコスト的に合わない。
なので、スタミナポーションを作る場合はもっぱら森から採取する。
日本から高純度の魔水をドラム缶に入れて何本も運んだ。
異世界の人間にとっては金をじゃぶじゃぶ使って安いポーションを作っているように見えるんだろうな。
人工栽培はまだ始まったばかりだが、今までの作り方で作ったスタミナポーションをサンプルとして日本に持ち込んだ。
「兄貴、これってやばい薬じゃないでしょうね。もちろん売れと言われたら売りますけど」
「ブラックバイパーの分析でも違法薬物は入ってない」
「名前はスッキリ丸がいいと思います」
「型式番号はMP555だな。別名でスッキリ丸にしてやろう」
「アイデア料はいかほど貰えるので?」
「義士は低評価があると言っただけだろう。解決策を考えたのも実行したのも俺だぞ」
「兄貴、ケチだな」
「マジックフィジカルとスライミークリーンのアイデア料は借金を返済したら、やめる」
「えっ、そりゃないぜ兄貴。モチベーションが保てない」
「借金がチャラになるのを喜べよ」
「借金は踏み倒してなんぼだぜ」
こいつ、性根が腐っているな。
借金がチャラになったら、マグロ漁船にでもぶち込むか。
それぐらいしないと根性が直らない気がする。
それか、工作員の訓練施設にでもぶち込むか。
佐奈子と言いこいつと言いしょうがない奴だ。
ふと悪魔的な考えが浮かんだ。
こいつと佐奈子を恋人にしたらどうだ。
いや、化学反応起こして、とんでもないことになるかも知れない。
命令には絶対服従なんだけど、どうにも使いづらい。
クズの3流詐欺師が、世の中のためになる天職。
そんなのがあるかな。
製品開発より頭を使いそうだ。
俺はスタミナポーションを飲んでみた。
体が軽くて寝起きのような感じだ。
だが、頭が痛いような気がするのはなんでだろうな。
全ては義士のせいだ。
異世界に追放したくなった。
だが、そんなことをしたら迷惑を掛けまくるに違いない。
本当に頭が痛い。




