第17話 襲撃
仕事で出たオフィス街の路地で、いきなり拳銃を向けられた。
俺はパニックになった。
えっ、えっしか言葉が出て来ない。
「大人しく一緒に来い」
連れて行かれたら、どんな目に遭わされるのか。
絶対に嫌だ。
収納の魔道具から魔剣を出して抜いた。
ビルの壁に穴が開き逃走経路が出来る。
魔剣で死んだ人が居たら御免。
俺がビルの穴に飛び込むと発砲音がした。
撃ってきやがった。
ちくしょう。
そうだ、電撃の魔道具もあった。
穴から少し身を乗り出すと、電撃を放った。
どさっと音がする。
「おおっ、当たったのか。ラッキー」
本当に当たってる。
俺は男の懐を探る。
身分証とか色々と出て来た。
その中に名刺と社員証がある。
ブラックバイパー商事という名前だ。
どこかで聞いた事が。
その会社が怪しいな。
俺は電車を乗り継いで、会社の住所に急いだ。
会社は自社ビルのようで、そのビルにブラックバイパー商事以外は入ってないようだ。
やっちゃいますか。
銃で撃たれたんだから、反撃してもいいよね。
魔剣を解き放った。
ビルの壁に横穴が開く。
俺はそこから中に入り込んだ。
すると、中に縛られた女性が一人。
どっかで見覚えが。
ああ、交通事故の彼女じゃないか。
俺は猿ぐつわと結束バンドを外してやった。
「ありがとうございます」
「どういう事情なんだ?」
「私にも何が何だか」
「こうなったら、やつらの偉い奴を問い詰めよう。これ持って」
電撃の魔道具を彼女に持たせて使い方を教えた。
何人もの男達が部屋になだれ込んで来る。
俺は魔剣を構えた。
男達は手に銃を持っている。
こちとら、異世界で殺しを経験しているんだよ。
もう、銃は怖くない。
魔剣で薙ぎ払った。
ビルの壁が壊れ、男達は消し炭になった。
「行こう」
「強いのね。まるで映画のヒーローみたい」
彼女は目をキラキラさせている。
俺は敵を殺したんだが気にしてないようだ。
映画の撮影と勘違いしているんじゃないだろうな。
ヒステリーを起こされるより何倍もましだが。
俺達は最上階に行った。
大体、偉い人は最上階にいると相場が決まっている。
壁を魔剣で壊し、社長室に入る。
「ここまでやるとはな」
「お前が黒幕か」
「いや、俺は組織の支部長クラスだ。それより色々を水に流して私達に協力しないかね」
「嫌だ。お断りだ」
「私もお断りよ」
「残念だ」
社長が手を挙げるとビルの外に戦闘ヘリが。
屋上にヘリポートがあったのか。
戦闘ヘリなんか用意しているとはな。
だが、こんなのは魔剣の敵じゃない。
魔剣を抜くと、ヘリはバラバラになって落ちた。
「とりゃ」
気の抜けた気合の声がして彼女から電撃が飛んだ。
電撃は社長に当たった。
「ナイス!」
さて、社長をどうしよう。
ああ、そうだ。
隷属の首輪があった。
嵌めてしまおう。
「おい、起きろ」
「はい、ボス」
「名前は?」
「空蝉・政義です」
「俺達の事を知っているのは誰だ」
「この支部の人間だけです」
「それは都合がいいな。後始末をきっちりやるんだ」
「はい、ボス」
「襲撃は敵対組織によるものだという設定で行け。俺達はこの組織のアドバイザーに雇われた。分かったか?」
「はい、ボス」
「色々と聞きたいが。まず俺に気づいたのは何時だ?」
「フィギュアが売りに出されてからです」
「えっ、あれかよ。どんな所が不審だったんだ」
「最初は工作技術の見事さから、企業秘密を探ろうとしました。その過程で倉にバリヤが張られている事が分かったのです」
あちゃー、墓穴を掘っているな。
「言わなくても分かる。止めは交通事故だな」
「はい、そうです」
「何っ、どういう事?」
彼女が気色ばんだ。
「重症だったんで、魔法の薬を使ったんだよ」
「そうなの。血の量から、助からないほどの怪我だったってお医者さんから聞いて、おかしいと思ったのよね。とにかく、ありがと」
「巻き込んだ事を恨んでないのか?」
「ぜんぜん。死んだり、事故の後遺症に苦しむ事に比べたら」
「君の命は俺の命を懸けても守るよ」
彼女は俺を見つめている。
こころなしか顔が赤いのは気のせいか。
「こほん」
社長がわざとらしく咳をした。
話を元に戻そう。
「とりあえず、やってほしいのは。魔法の薬であるポーションを売ってほしい。売れるよな」
「はい、ボス」
「空蝉の組織の一番上は誰だ」
「大統領です。国のスパイ組織ですから」
世界で一番と言って良い強大国の大統領か。
道理でビルの壁に穴を開けても騒ぎにならない。
まあ、この日本の政府とも繋がっているんだろうな。
「後始末は平気なのか?」
「ヘリが事故で墜落して、破片でビルが壊れたことにします。事実、ヘリは墜落してますし」
「巻き込まれた一般人がいたら報せてくれ。金銭ならいくらでも出せる」
ちょっと俺もやり過ぎたと反省。
「分かりました。そのようにします。ふむ。被害報告が上がってきました。巻き込まれた一般人はいないようです」
空蝉はスマホのメールをチェックした。
報告が早いな。
さすがスパイ組織。
「ねぇ、お腹空いたわ」
「準備させます」
空蝉は有能だ。
まあ組織の日本支部長だものな。
「そう言えば名前を聞いてなかったな。俺は倉本・舞琉」
「寿々木・里奈よ」
「寿々木さんに護衛を付けてくれ」
「はいボス」
「里奈って呼んで。あなたのことは舞琉って呼ぶから」
「俺をどういうふうに呼んでも構わないよ」
「ブラックバイパーの顧問にもなれたし、護衛がつくんじゃ会社辞めちゃおうかな。私、派遣社員なのよね。どっしようかなぁ。スパイ組織の会社は嫌だなぁ。でも就職してないと親に色々と言われるし。口が軽くなりそう」
「分かったよ。俺の会社で働くと良い」
「うふふ、私が上場企業の顧問。親には言えないね」
「ブラックバイパー商事って上場企業だったのか? 株なんかやらないから知らなかった」
「優良企業よ」
一挙に上場企業の顧問か。
出世だな。
親には言えないな。
言ったらきっと頭がおかしくなったと思われる。
それとも詐欺を疑われるか。
まあ、名前だけの顧問だ。
気楽に行こう。




