第35話 疑惑のブローチ 前編
「ま、ご無理ならそのままでもよろしいんですの。ただ貴女に一つ、お聞きしたい事がございます」
「何故、そこでいきなりサリーナ嬢に話を振るんです?」
「何故ですって? 異変の原因に彼女が関わっているからに決まっておりますでしょう?」
「えっ?」
「お分かりにならないのなら、しばらく黙っていて下さいませ」
ポカンとした表情になるジョナスを放っておいて、再度サリーナに問いかける。
「貴女の胸元にあるそのブローチ、わたくしずっと気になっておりましたのよ」
アンジュリーナが指摘したのは、当人がサファイアのブローチだと言っている装飾品だ。
胸元に留められており、全身ピンクまみれのコーディネートの中で唯一の差し色のため、とても目立つ。
「これを身につけていると、亡くなったお母様を身近に感じられるの……きっとわたしを守ってくれているんだわ」
との事でどんな時でも外さないらしく、彼女もその事は知っていた。
「え、これが? あっ!? も、もしかしてアンジュリーナ様はっ」
はっと企みに気づいたとでもいうように、ブローチをギュっと握りしめる。
「わ、わたしからこのブローチを取り上げるおつもりなんですか!?」
傷ついた顔をして悲痛に叫んだ。
「母の形見なのに酷いわ! いくらこのブローチが類を見ないほど大粒のサファイアで素敵だからって……ううっ」
「サリーナ嬢っ」
「あぁっ、ジョナスさまぁ。またアンジュリーナ様がいじめるの。今度はわたしから大事なものを奪うつもりなのよ!」
ポロポロと涙を流しながら、ジョナスを見上げて訴える。
「大丈夫です。泣かないで。僕達が側にいるうちは、誰にも君の大切な宝物を奪わせたりはしませんから」
片膝をつき、彼女と目線を合わせて必ず守ると約束するジョナス。
「本当? 助けてくださるのっ」
「勿論ですよ、愛しい人」
「ジョナスさまぁ、サリーナ、うれしい!」
喜んで抱きついてくるサリーナ頭を撫で、優しく慰める。
そしてアンジュリーナに向かい、キッと睨んで言い放つ。
「貴女はまた、サリーナをいじめてっ。淑女として恥ずかしくないのですか!」
「はぁ? わたくしがいつ、そのブローチを欲しいなどと言いました? あまりにも酷い言いがかりですわ」
「だって、ずっと気になっていたって言ってたわ!」
「そうだそうだっ」
「ええ、気にはなっておりましたわ」
「ほら、やっぱり!」
「ふんっ。初めからそうやって大人しく己の罪を認めればいいものをっ」
勝ち誇ったように言う二人。




