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25話 『オカマ店長②』


前回の続きです。


「それで、調査でわかったこととかあったのか? あー、例えば犯人の目星とか目的とか」

「調査はまだ始まったばかりだ。団として言えることは少ないな。ただ誰なのか目星は付いている」

「ほー」

 ソフィアは声量を落として静かに述べる。悠人は興味ありげに頬杖を解き、少しだけ身を乗り出した。


「恐らく、一昔前からこの町にはびこってるギャング集団の仕業だろう。例の奴隷商との関りもある反社会集団でな。その名を――」

「あーら! 悠人君じゃないの~!」


 そこまで言って、一旦ストップ。

 悠人とソフィアの視線が、唐突に割り込んできた独特な声のする方向へと強制的に向けられる。

無理やり引き上げたような甲高い声。仕草は女々しいが、ゴリゴリのマッチョ体型。可愛らしく見せるためのパチクリ瞬きと、強面プラス髭面がミスマッチな人物。


 この店の店主、ゲルダの登場である。

 彼――否、彼女は手を大きく振って悠人たちの傍まで小走りでやってきた。


「あら? お邪魔だったかしら?」

「ああ、邪魔だ。さっさとこの場を立ち去れ」

「ああん。つれないわね~、まあそこが良いのだけれど」


 彼女のインパクトのある見た目に耐えきれず、悠人はそっぽを向いて不機嫌に声を荒げた。それを恥ずかしがっていると勘違いしたゲルダは、さっきより距離を詰めて肩をどんと叩いてきた。

 強烈な一撃にジンジンと痛む肩を押さえ、悠人は睨みつけるように問う。


「何の用だ」

「ちょっと挨拶しに来ただけじゃなーい。因みにそちらの方は?」

 ゲルダは向かい側に座るソフィアを見つめた。ソフィアは姿勢を正し、会釈をする。


「私はソフィア・リードと言う者だ。王国騎士団の団員として勤めている」

「あら、騎士団の方! お世話になっております~。私、この店長をしております、ゲルダと申します~。以後お見知りおきを~」

 こなれた口振りで自己紹介を交わして、笑みを浮かべた。威圧感のある笑顔に押しつぶされそうになる。


「しかし意外だな。悠人がここの店主と知り合いだったとは」

「不本意だがな」

「あーん、もう照れちゃって。可愛い~」


 少しも照れてはいないが、目が節穴なのだろうか。ゲルダは体をくねらせ、悠人の頬をちょんと突いた。

 鬱陶しさに悠人は手で払いのけ、不機嫌に眉を顰めて口を開く。


「なんか知らんが気に入られてな。こんな感じで突っかかってくるんだわ……んで、ゲルダ。お前本当に何しに来たよ? 挨拶ならもう済んだだろ」

「えー! 最近どうしてるか、ちょっとくらい聞いても良いじゃなーい」


 払いのけてもツンツンしてくる彼女に苛立ちを覚える悠人。仕方なしにため息をつき、これ以上突かれないよう頬杖でガードする。


「近況報告ねぇ……別になんともねえよ。強いて言うなら祭りの準備仕事が本格的になってきたくらいか。まあ、そんなところだ……ってそんなことはどうでもいい。なあ、ゲルダ」

 悠人はそこで一瞬だけ口を紡ぎ、視線を少しだけ落とした。


「最近、ミアの調子はどうだ」

「ミアちゃん? これまたなんでそんなことを」

 ゲルダの詮索に悠人は頬杖をついたまま、「いいから」と押し気味で言った。彼女はそうねと暫く腕を組んで頭を巡らせる。


「よく真面目に働いてくれるし、素直で良い子だし、楽しそうに接客してるし……そりゃ最初はちょっぴりドジが出ちゃってたけど、今じゃ段々板についてきてって感じね。ミアちゃん、どんなお客さんに対しても明るい笑顔で接してくれるから、とても助かってるわ~。お客さんの中にはミアちゃんに会いに来る人もいるくらいだし、今やこの店の看板娘ね! あっ、でもね。ここだけの話なんだけど、最近ミアちゃんの様子がちょっとおかしいのよね」


 長々と話してようやく気になる発言をしたゲルダに、悠人は身を乗り出して耳を傾ける。


「なんというか……疲れてきってるって感じかしら。接客の時にはそうでもないのだけれど、仕事が終わった後には燃え尽きたみたいにボケーとしてるわね。でもほら、ミアちゃんって頑張り屋さんじゃない? だから、そんな状態でも夜遅くまで残って料理を作ってるのよ」

「ちょっと待て。今なんて言った? ミアのやつ、どうして料理なんて作ってるんだよ」


 さも当たり前かのように流れ出た言葉に、悠人は不可解に顔を歪めて遮った。ゲルダもきょとんと呆けており、暫し沈黙が二人の間に流れた。


「……あれ? もしかして聞いてなかった? ミアちゃん、おいしくない料理を悠人君に食べさせちゃって申し訳ないって言ってたんだけど。だから、悠人君のために『おいしいごはん作れるようになるんだ』って頑張ってるのよ――やだ、私てっきり知っているものと思って喋っちゃったわ」


――あいつそんなことまでやっていたのか。

 どうしてミアの帰りが遅いのか。その理由を聞いて全てが繋がっていく。

 仕事に明け暮れ、空いた時間を踊りの練習のために費やし、夜遅くまで料理を作って、帰って来ては裁縫に取り組む。

 無理しなくても良いのに。特に最後の二つはやらなくても良いことだ。

 どうしてそこまでする必要があるのか、と悠人は呆れたようにため息をつき、目を瞑った。


「あら、いけない。少し喋りすぎちゃったわね。もう私行かないと! それじゃあ、悠人君とソフィアさん、ごゆっくりおくつろぎくださいね~」

 最後に投げキッスを飛ばし、慌てて店の奥へと入っていった。


「すごい店長だったな」

 嵐が去ったような静けさに、ソフィアは引きつった顔で苦笑する。

 そしてどこか上の空で考え事をしている悠人を見つめ、首を傾げた。


「どうかしたのか?」

「いや、何でもねえよ。ってか、俺ら何の話してたっけか?」


 質問を返し、二人して悩む。しかしどうも思い出せない彼らは、まあいいかと結論付け注文を何にするか話し合うのだった。



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