24話 『オカマ店長』
「今日は本当に助かったぞ」
人々の喧騒飛び交う商店街。
河原での稽古を終えた赤髪の騎士――ソフィアと悠人は、昼飯を食べに適当な飲食店を探していた。
昼時ということも相まって、想像以上にごった返している人々の群れを掻き分けて、アスファルトの道を進んでいく。
「付き合ってくれてありがとう。悠人」
ソフィアは隣を歩く悠人に、男勝りな口調で感謝の言葉を述べる。それに対して前を向いたまま、悠人は力なく「おう」とだけ返事を返した。
稽古時間は大体4時間くらいだった。その間、ずっと稽古に付き合わされていた悠人は内心ヘロヘロであった。
ただその甲斐あってか。ソフィアの剣技は洗練されてきており、俊敏かつ体幹がしっかりしてきて、一撃一撃に重みを感じられるようになってきたのだ。
成果なし、よりは悪い気はしないかと思う悠人であったが、結局それが疲労困憊に繋がってもいるので、今の悠人にとっては少々複雑な気持ちではあった。
「いやしかし。後もう少しでお前から一本取れたのにな」
「違う。あれは手を抜いてやっただけだ」
「そうなのか? 良い線をいっていたように見えたが」
「見えただけだ。お前から一本取られるなんて100年早えよ」
「それは残念だな……まあなに。これからも鍛錬を積んでいくだけだ」
残念と言いつつ、目に見える上達になんだかんだで嬉しそうなソフィア。彼女は目を瞑って妄想で剣を作り出し、「こうか、いやこうだな」とぶつぶつ独り言を呟いて縦横に振る。
「そういえば、お前の言っていた美味しい店。まだ着かねえのかよ」
「ああ、それならもうすぐ着くぞ」
目を開いたソフィアの言葉に、悠人はまだ見ぬ店を待ち遠しく思いながら歩き続ける。悠人は全くと言うほどではないが、朝食は食べない主義の人間であり、今日は何も口に入れていない。練習に4時間も付き合わされたこともあって、いい加減、腹の虫が警告を鳴らしそうだった。
因みに、今回の昼食は稽古に付き合ったお礼を兼ね、ソフィアのおごりとなっている。せっかくの機会なので、朝食の分をしこたまその店で補ってやろうなどと軽い企みを立てている。
「着いたぞ。悠人」
大きな声を上げ、ソフィアは前方、少し先にある街道沿いの店を指さした。悠人はその先を示す方に視線を移す。
「お前、おいしい店って……」
「どうした?」
ソフィアの指さした店は、以前悠人が来たことのある店だった。ブレイク司令官に無理難題を課せられ、それこそ河原での稽古を終えた後にやってきた店。
そう、ミアのバイト先である。
期待が大きかっただけに、悠人は少しがっかりする。当然、おいしいことにはおいしいのだが。
「何か都合が悪かっただろうか?」
「いや、そんなことはねえけど……なんでもねえ、行くぞ」
別の店にしようか少し戸惑ったが、腹も限界に近いため店に入ることにした。
訝し気に首を傾げたソフィアも、特に気に留めることなく入店する。
「いらっしゃいませ」
想像通り、悠人たちを迎い入れたのはミアだった。
彼女は透き通った声でお辞儀をして、悠人たちの来訪に少し驚いたように目を見開く。
「二名様ですね? 席へご案内いたします」
しかし、彼女はすぐににこやかな笑顔に戻り、悠人たちを窓側の席へと誘導する。努めて冷静を保っている彼女に、悠人は感心したように息をついた。
「ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください」
お冷を出して一礼し、ミアはその場を去っていった。
すると今度はソフィアが顔を寄せ、声を憚って問いかける。
「あれはミアではないか。どうしてこんなところにいるのだ」
「俺が祭りの準備やってるから、あいつも働いておきたいんだと……そんな器用な方じゃねえだろうに、なんでそこまでして働きたいのかね」
そうかとソフィアは頷き、出されたお冷に口を付けた。
「しかし、以前の彼女とはどこか違うところがあるな。何というか……少し逞しくなったように見える。心なしか堂々としているようにも見えるが……そうは思わないか?」
ソフィアは同調を求めるように顔を覗き込む。しかしその質問に答えることなく悠人は無言で水を飲み始めた。
何かおかしなことを言ったのだろうかと、ソフィアは疑問に頭を巡らせるが答えは出ない。仕方なく話を切り上げ、別の話題に切り替えた。
「そういえば、最近の話なんだが……」
ソフィアは歯切れの悪い、しかし真剣な声色で前置きをした。悠人は彼女の紅葉色の瞳に注目する。
「このあたりで怪しげな動きが頻繁に起こっているらしくてな」
「怪しげな動き?」
「そうだ。街中で大柄な男が話しかけてきたり、フードをかぶった集団がこそこそと歩き回っているそうだ。あまりにも通報が多いものだから、自警団でも調査が進められていてな……悠人、お前も何か知っていることはないか?」
「さあな」
悠人は首を傾げ、今までの生活を思い返してみる。
朝から夕方までは基本的にバイトであり、飯を食べたらすぐに帰って寝るといった生活を送っていた悠人。加えて必要以上に外出しない彼にとって、そういった話は聞いたことも見たことも実際にされたこともなかった。
悠人はもう一度首を振って否定した。
「私も警戒を怠るつもりはないが、悠人も気を付けておいてくれ。まあ、お前の腕なら必要ない心配かもしれないがな」
冗談交じりな語調だが、瞳は少しも揺らぐことなく真っすぐ悠人を見つめている。悠人はおうと軽く頷き、頬杖をついた。




