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ひめみこ  作者: 転々
番外編
197/202

周 円の大学入学と

 成人式を終えると、何週かの講義を経て二度目の後期試験だ。

 姉さんのおかげで、自然科学分野の科目は余裕を持って試験に臨める。


 今回の帰省は長く、クリスマス前から成人式までの二十日間以上だった。その間、円の受験勉強と俺の試験勉強やレポートを姉さんが見ることに。


 姉さんは大学受験どころか、それ以上のレベルまで学んでいる。

 本人は「一応大学生だったこともあるから」と言うが、これはそれなりにきちんと勉強していないと理解できないレベル、と言うより、うちの大学の理学部生だったとしても、相等に優秀なんじゃないだろうか。




 俺が後期試験を終えると、今度は円の受験だ。

 円も京都大学を受ける。私立も受かっているから、いずれにしても京都暮らしが決まっていて、下宿も兄妹でマンションをルームシェアする。これは母さんの意向だ。

 俺としては大学が遠くなるので少し面倒だが、近隣に手頃な物件が無かったから仕方ない。


 でも、姉さんから車を譲ってもらえるのはありがたい。学内には乗り入れられないから、通学に使えないのは残念だ。




 円の受験前日、新しい下宿までは姉さんが車で送り、そこから先は車ごと俺が引き継ぐ。

 実は、俺の引っ越しがまだだ。今月中に終わらせないといけないから慌ただしいが、姉さんのステーションワゴンを譲って貰えるので、細かい物の運びはこれでいけるだろう。

 大物だけは、軽トラをレンタルして、空手部の後輩を招集する。


 それにしても、車は案外と維持費がかかる。駐車場代は出して貰えるけど、ガソリン代と保険は俺が出さなきゃならない。姉さんは「私が出しても良いんだけど、これも社会勉強だから」と。

 車のキーを俺に渡すと、用があるのかタクシーで行ってしまった。




 円を連れて下見。と言っても、試験会場の建物を外から見るだけだ。門の辺りで、男子学生が円のことをチラチラ見るが、俺といるせいだろう、誰も声をかけてこない。一応、明日と明後日も送り迎えするつもりだ。

 円も合気柔術はそこそこの腕前だし、弓道もしているからだろう、ここ一番の集中力もある。

 とは言っても、やはり心配は心配だ。




 日中のうちに冷蔵庫と洗濯機、そしてバラしたベッドを新居に運ぶ。後輩達は、荷締で俺のロープの使い方に驚く。


「これぐらい、男なら出来て当然だろ。

 この輪っかが滑車の代わりになっていて、きっちり締まる。で、ここで挟んだらロープが殺されて、緩まない」


 先日、姉さんに教えて貰ったことを、まるで知っていたかのように後輩に教える。そして「ラーメンなんてセコいこと言わずに、焼き肉ぐらい奢ってやれ」と渡された軍資金で大盤振る舞いだ。


 運びはあっさり終わる。車があると人員を運ぶのが速い。

 ただし、リビングまでは入らせない。一応プライバシーは保たれているとは言え、この春から円もここに住むことになるからな。

 ただ、このマンション、兄妹の二人で住むには贅沢だ。特に共用スペースの家電は姉さんが用意してくれたもので、六十五型のテレビとアンプ、スピーカのセット。

 姉さんの家で使っていたお古だけど、十二分に高級だ。




 二日の試験日程を終え、マンションについたところで姉さんから電話だ。今から食事ということで、迎えに来るそうだ。「奏ちゃんも呼んどいたから」と、手回しが良い。


 姉さんの新車で連れていかれた店は、豆腐懐石。「円もちょっと疲れているだろうから」というわけだ。俺には物足りないかも知れないが、今日は円の日だ。




 食事中に、驚きの事実を告げられる。

 姉さんも京都に越してくるそうだ。近郊の企業を買収し、ダンナがそこの社長になったからとのこと。


 初めは大津か栗東でという案もあったが、大阪の方にも生産拠点があることと、娘二人の学校のことを考えて、京都で暮らすことにしたと言う。大津あたりも、教育環境は悪くないと思うんだけどな。

 今はダンナが大津に単身赴任中で、昨日と一昨日はそこに泊まったとか。




 俺と奏はタクシーで各々の下宿へ、円と姉さんは代行でダンナのマンションへ行くそうだ。タクシー待ちのときに、姉ちゃんが手招きする。


「周、これ、ホテル代な。円も住むんだから、あのマンションではそういうことは禁止ね。あと、避妊はちゃんとしろ」


 例によって、悪い顔だ。俺も言い返す。


「そっちこそ、今日すぐ家に帰らないってことは、今夜はダンナとハッスルするんだろ?」


「今日はしないよ。円も居るし」


『今日は』ってことは、昨日と一昨日はそういうことだったか。


「周、今、変なこと考えてただろ。判ってるんだからね」


 まぁ、今日の姉さんはあくびばっかりしてるし、なかなか会えない夫婦が二人っきりになれば……。そうでなくてもベタベタのラブラブで『お盛んな』夫婦だ。




 三月上旬、円も無事に合格し、一番良い形で新生活が始まる。

 共同生活の良いところは食事だ。俺も料理を出来ないわけじゃないが、どうしても優先順位が低くなる。朝はおざなりだったし、昼や夜は定食屋ということも多かった。実際のところ、一人分だと、自炊でも案外金がかかる。


 その点、円は料理を母さんと姉さんから習ってるし、その習慣もある。奏と円が並んでキッチンとか、三人で鍋を囲んだりとかは、新鮮だ。惣菜や常備菜を多めに作って分けあうのも節約になる。

 良いことずくめだ。




 新学期が始まる。

 しばらくは、俺が円の虫除けについた方がいいな。円の後ろに誰がいるかをアピールすれば、ナンパ野郎は寄ってこないだろう。


 入学式の四日後、変な噂が聞こえてきた。「新入生に、ものすごい美人姉妹がいる」「一人はハーフっぽい」「可愛い方が姉で、きれいな方が妹」……

 なんだか嫌な予感しかしない。




 奏と一緒にランチタイム中、「おーい、周ぇ」という声。

 やっぱりか。


「姉さん、そういう話は早めに聞きたかったな」


「サプライズだよサプライズ。それに、私だけ落ちたら格好がつかないし。

 せっかく慶一さんが京都に住むんだし、子どもも大きくなって手がかからなくなって来たし。ようやく念願の女子大生だよっ!」


 周囲りの視線が集中する。奏、円、姉さんと、美少女――一名は見た目だけ――に囲まれているから仕方ない。

 このうち、一番若く見える人が二人の子持ちとは、誰も思うまい。




 新入生の飲み会、円には姉さんがついていく。やっぱり姉さんも妹のことは心配らしい。円の姉であることはバラしたが、年齢については『永遠の十七歳』で通しているそうだ。

 十代の学生に混じって呑んで食べて、カラオケでは歌って踊ってと、円よりも楽しむ姿は、十代にしか見えないんだろうな。


 ただ、酔って女子学生に『悪さ』しようとしたヤツらを一瞬で取り抑えたとか、『スイッチ』が入った姉さんはオーラがすごかったとか、武勇伝も聞こえてくる。




「おい、周。銀色の姉さん、本当は幾つなんだ? 付き合ってる人とか、いるのか?」


「いくら先輩でも、本人が秘密にしている以上、俺も言えないですよ。ああ見えて、怒らせたら怖い人ですから。俺なんか、ボコボコにされますよ」


 上の娘は中学生だって言ったら、どうなることやら。

 今年は就職活動もあるのに、一波乱も二波乱もありそうだ。

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