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ひめみこ  作者: 転々
第十八章 二度目の高校生活 一 つながり
156/202

道具

 先週に続き、今週末も慶一さんと会ってしまった。そして、連日の御休憩。アレが終わったら早速だ。

 まだ、物理的に繋がること自体に悦びを得るところまでは届いていない。でも、さぁこれから! というときの心理的な多幸感は大きい。

 実際の行為よりも、そこに向かうところがイイなんて、やっぱり私は好色なのだろう。男なら「見えそうで見えない方がそそる」みたいなものだろうか?




 でも、今回は私にとって、大きな進歩があった!

 避妊具を使ったのです! 避妊具!

 普通の男女にとっては当たり前なのだろうけど、避妊具! 大事なことなので何回でも言っちゃう。


 これは、妊娠はしたくないけど、行為はしたいってときに使うものだ。

 二年ほど前は、その行為は比売神子の義務として、交配を行う手段としか考えられなかった。

 でも、今は違う。積極的に避妊している!

 私はヤったよ! 出来たよ! いや、高校生だから出来たら具合が悪いけど。


『これは、人間にとっては小さな行為だけど、私にとっては大きな飛躍である!』なんてアームストロング風のセリフが脳内にこだまする。ついでに『地球は青かった』をもじって……、これは下品なので止めておこう。ちなみに、このセリフ、正確には『空は非常に暗かった。一方、地球は青みがかっていた』だけど、これをもじって……、やっぱり下品だ。


 高揚感のあまり、変なことばかり考えてしまう。

 自分の心が身体と一致してきたことが、とにかく嬉しい。もう、誰かに自慢したいぐらいだ。絶対、口外できないし、この喜びを共有出来る人なんていないだろうけど。




 明けて月曜日、朝食を食べている私の頬を、お母さんがつついた。


「ん?」


 私がそちらを見やると、お母さんはわざとらしいぐらいの笑顔で一言。


「ぷにぷにのほっぺで羨ましいわぁ。

 でも、連日というのは……。少し自重しなさい」


 あ、はい。




 一年生の周は、元気に集団登校だ。


 保護者の『見守り』が回り持ちだ。今日は私が黄色い旗を持って横断歩道に立つ。でも、これに立つとバスの時刻が微妙なので、自転車で登校となる。免許を取って原チャリというわけにいかないのが辛いところだ。


「本当に感心ねぇ」


 老人会で当番が当たっているお婆ちゃんが声をかけてくる。


「お母さんが出られないので……。これのためだけに半休を取るのももったいないし」


 でも、こういう持ち回りは、もう少し家庭環境を考慮してくれてもいいと思う。ウチはともかく、ガチの母子家庭だったら、結構ツラいはずだ。ましてPTAの役員とか理事とかは、避けたいところ。

 配られた総会資料を見ると……、母親代表ってなんだ? これが在るなら父親代表も要るんじゃないのか? この御時世に、性別を限った役職って、どうだろう?




 学校に着いたのはいつもより十分近く後。程なく紬ちゃんも来た。


「お早う、紬ちゃん」


「おー、昌クン、お早う。

 久々に元気ですね。なんか良いことあったですか?」


「まぁ、ちょっとね」


「何にせよ、元気なのはいいことです。入学式からしばらくは、見ていられなかったですから」


「そんなに、元気なかった?」


「まるで、失恋でもしたみたいでしたよ」


 う、鋭い。


「まぁ、その前に彼氏を作らないとですけどね」


「そ、そうだね」


 ふと、慶一さんを思い浮かべる。完全に色ボケだ。でも今週末は千鶴(ちづる)さんの通過儀礼で会えない。

 日曜の午後だけでも会えないかな? もう一週待てばGW。慶一さんは二十九日から翌八日まで休みだ。どこか二人で旅行にでも行きたいな。でも、外泊はやっぱりダメだろうなぁ。


 二度目の高校生活は、『爛れた』生活だ……。




 その週末は千鶴さんの通過儀礼。行き先は修学旅行以来の奈良だ。GWとあって、ホテルも混んでいる。

 通過儀礼までここでというわけには行かず、とある神社の社務所をお借りしてだ。もっとも、私は去年と同様、見てるだけ。




 結局、千鶴さんも比売神子にはなれなかった。合格ラインが高桑さんと同レベルなら、少なくとも私の三割半から四割ぐらい必要だ。直子さんでも厳しい。


「さ、今日から頑張って、彼氏作るぞ!」


 千鶴さんは、結果に対してもあっけらかんとしたものだ。


「あれ? 義理の従兄弟は?」


「悪くないけど……、彼女がいるらしいし、略奪しても、遠距離になっちゃうから」


 略奪は出来る前提なんだ……。

 千鶴さんなら出来るだろうけど、そういう言葉を聞くのは意外だ。今までとイメージが違う。


「結婚するとしても、大学を出てからのことだから。

 それまでは私もいろいろ遊びたいもの」


「遊ぶ……、って」


「彼氏いない歴イコール年齢プラス三年半よ。それぐらいのご褒美はいいじゃない。知的好奇心よ」


「それって、もしかして『やまいだれ』が付いてません?」


「おー。昌ちゃん、久々の下ネタ! 高校生になって、女の色気が出てきたのに」


「下ネタじゃないですよ」


 色気という言葉に、一瞬、心臓が跳ねた気がするけど、平静を装って応える。


「確かに、昌ちゃんからしたら、この程度は下ネタのうちに入らないわよね」


「えーっと、それはどういう意味でしょうか?」


「舞ちゃん、今は昌ちゃんもこんなお上品なお姫さまだけど、本当は下ネタ大好きのムッツリだから。

 比売神子になる前は結構すごかったんだよ」


「本当なんですか?」


 舞ちゃんの視線は、私と千鶴さんを行ったり来たりする。

 確かに、一時はかなり激しいことを言ったかも知れない。特に昌に変わっていくことを怖がっていた頃は……。


「さて、遠い人もいますから、今日はこの辺でお開きね」


 沙耶香さんが場を締める。いや、閉めるかな?

 確かに、新幹線で行けるとは言え、横浜は遠い。まして宗像(むなかた)さんは東京で乗り換えだ。




「それじゃぁ、私は電車があるから」


「私も同じ新幹線」


 優奈さんと直子さんは私より一本早い新幹線、留美子さんは京都から在来線だ。


「じゃぁ、私と一緒は舞ちゃんだけか」


 それでも、京都までは同じ電車で向かう。

 多分、去年までの私だったら、そのまま京都観光だろう。




 京都駅には大きなコーヒーショップがある。留美子さんたちの待ち時間が短いので、そこでは五人が軽食を兼ねたティータイム。千鶴さんの送別会がどこになるかを予想する。

 最右翼は京都だけど、ここは奈良から近すぎるからあえて外すだろう。意外なところではテーマパークの近くとか。信州や日光あたりも捨てがたい。優奈さんは栗東とか信楽を推す。それは貴女が行きたいところでしょう。

 山陰線でのんびり鳥取や島根というのも有りかな。出雲大社や足立美術館も行ってみたい。って、私も人のことは言えない。


 せめて、送別会は楽しい時間に出来ればいいな。

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