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第三話―2

「……ん」

窓から注ぐ爽やかな朝の木洩れ日で雅哉は目を覚ました。

そこはまたベットの上だったが、それは自宅の自室に在るものだ。

「おはよう、雅ちゃん」

傍らには、生地の薄いピンク色のパジャマ姿の里奈が座っていた。

「おはようございます、義姉さん……」

欠伸を堪えながら雅哉は返答する。

昨日のことは夢のようだが、里奈がここに居るということは、全て現実なのだろう。

それにしても、昨日、自宅に着いてからの記憶が曖昧だ。ベットに直行したような気がするが、よく分らない。

傍らの義姉にそれを聞こうとし、雅哉はなにか違和感を感じる。

(何かが変だ)

いつも自室で寝ているのだ。それが違和感の原因であることは無いだろう。別に内装に変化があるわけでもない。

「どうしたの、雅ちゃん?」

傍らの里奈が愛らしく小首を傾げる。

「……って、なんで義姉さんがここにいるんですかぁ!?」

違和感の正体に気付き、雅哉は顔を真っ赤にして、里奈から離れる。

「なんでって、ここで寝たから」

いきなりベットの端まで移動した雅哉を不思議そうに見ながら、里奈はなんでもないように言う。

「だから、なんでここで寝てるんですかって言ってるんです!」

「だって、ここにしかベット無いし、雅ちゃんが心配だったから」

そう言って、里奈は雅哉に近付いてくる。

「義姉――うわぁ!」

慌てた雅哉はバランスを崩し、ベットから転げ落ちた。

「大丈夫?」

里奈も慌てて雅哉に駆け寄る。

「だ、大丈夫です、大丈夫ですよ……痛」

両手を前に出して里奈を制しながら後退りする雅哉は、後ろにあった箪笥に頭をぶつけた。

「雅ちゃん!」

雅哉が痛む頭に手をやる前に、里奈が冷え症なのか、冷たい手を当てて撫で始める。

しかし、雅哉の体温は逆に上がっていった。頭を撫でられる気恥ずかしさと、薄い生地のパジャマに浮ぶ、里奈の理想的なボディラインを見たからだ。

「赤くなってる……やっぱり昨日無茶させたから、熱を出したのね」

と、勘違いした里奈が雅哉の額に自分のそれを当てた。

「……!?」

間近に迫った里奈の調った顔と、彼女から仄かに漂う香りに、雅哉の顔は更に濃く染まり、体温は異常に高まる。

「熱いわね」

目を閉じて雅哉の額の温度を測っていた里奈はすぐに目を開け、

「まだ寝てなきゃ駄目」

雅哉を抱き抱えた。

「☆&%@!?」

何度も言うように里奈のパジャマの生地は薄い。更に里奈は下着を着けておらず、ほとんど生で里奈の体を押しつけられた雅哉は、異界の言語を遺言に卒倒した。


「全く、義姉さんも女の子なんですから、少しは羞じらいというものを持って下さい」

そんな一件の後、雅哉は自分が作った朝食のスクランブルエッグをつつきながら、対面でパンを囓る里奈に軽く顔を赤らめて言う。

「心配しなくても雅ちゃんにしかしないわ」

里奈はそれだけ告げ、スクランブルエッグに手を伸ばす。

「僕にもしないで下さい!」

気のない声に雅哉は彼にしてはきつめに返す。

「どうして?」

「どうしてって、そりゃ僕も男ですから……その……」

雅哉が言葉を濁しながら言うと、里奈は何故か嬉しそうな顔をする。

「ということは、雅ちゃんは私のこと女の子として見てるってことね」

「そ、それは……」

確かに、自分は里奈を(恋愛感情は無いが)女の子として見ているのだろう。しかし、一応戸籍上では姉弟だ。そういう目で見るのは悪いと雅哉は思う。

しかし、笑顔浮べた里奈の天使のような顔に見とれてしまう自分がいるわけで、

「そ、それで義姉さん。今日はどうするんですか?」 義姉に気付かれ前に我に帰った雅哉は、繕うように話題を変える。

「そうね、色々説明しなきゃならないし、聞かなきゃいけないこともあるけど、取り敢えず雅ちゃんは学校に行きなさい」

笑みを消し、再び無表情に戻った里奈は言う。

「さすがに二日連続休むのは駄目でしょ?」

それを少し残念に思いながら雅哉は頷く。

「そうですね」

「しっかり勉強しなきゃ駄目よ――ご馳走さま」

「お粗末さまです」

無表情で頭を下げる里奈に苦笑しながら、雅哉は返礼した。


「いってらっしゃい、雅ちゃん」

「いってきます、義姉さん」

玄関で呼び掛けると雅哉は微笑み、そして扉を開けて外へ出ていった。

それを見届けた里奈はリビングに向う。

たどり着けば、そこかしこに自分が持ってきた荷物が散乱している。

ふう、とため息を吐き、一番大きな鞄を開くと、一枚の写真が目に入る。

里奈はそれを持ち上げると、まるでそれが宝物であるのように、大切に胸に抱いた。

悲しげな、まるで何かを懺悔するような表情の里奈に抱かれた写真には、幼き日の雅哉と里奈、そして一人の少女が幸せそうに笑っていた。

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