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本日、二話目です。
と言う訳で、いつもの駅前で凰士と別れ、自宅に向かう私。私達の周りでは、電車では便が悪いので、ほとんどの人が自動車通勤。でも、私達の会社は駅前にあり、駐車場も限られている事から、電車通勤が多数。まぁ、ダイエットになって丁度良いかなって。
「白雪?」
私の自宅がある駅に降りると、背後から声を掛けられる。
「あっ、まぁくん。」
スーツを着た大人の男性にまぁくんはないかと思うが、仕方がない。
「へぇ、まぁくんも電車通勤なんだ。」
「車を買おうと思っているんだけど、蓄えが心許なくてね。」
「それは、それは。あっ、そっか。前は都会に住んでいたから、車だと反対に不便だもんね。こっちは田舎だから、車は当たり前だけどね。」
「白雪も?」
「自分の車を持っているけど、会社の駐車場の関係で。まぁ、駅から近いから、それほど気にならないけど。」
「そっか。あっ、せっかくここで会ったんだ。何処かで御飯でも食べないか?」
「もちろん、まぁくんの奢りでしょう?」
まぁくんの顔を見上げ、にっこり笑み。
「はい、はい。白雪には参るよな。」
後頭部を掻きながら、苦笑を零した。
「その代わり、値段の張る物はダメだぞ。」
「はぁい。」
駅前の居酒屋へ。
まぁくんなら、隣の家だし、酔っても心配はない。
「生レモンサワー。」
「生中。」
向かい合いに座り、とりあえず注文。それから、とりあえず乾杯。
「あぁ、美味しい。」
「仕事の後の一杯は最高だな。」
オヤジ臭いと思うが、相手がまぁくんなら、オールオーケー。
「吹雪には会った?」
「会ったよ。未だ子供っぽかったのに、すっかり大人びて、生意気だ。」
「その前から生意気だったわよ。」
「確かに。」
二人で同時に笑い出す。
その空気、和むわ。
「白雪は綺麗になったね。」
瞳を細め、真っ直ぐに見つめられる。
空気が一瞬で変わった。さっきの和みは何処に行った?
「じょ、冗談は止してよ。私は昔から時代遅れの美人よ。」
「何だ、それ。」
少しだけ頬が熱い。
凰士以外の人に綺麗って言われるのって、慣れていないせいかな?
「俺は変わっていないだろう?」
「大人っぽくなった。」
「オヤジになったって事か?」
「そうとも言える。」
確かにまぁくんは、変わった。大人の男性って雰囲気を纏い、少しだけ近寄り難い。
でも、話し出せば、私の知っているまぁくん。
「吹雪に聞いたよ。白馬の坊ちゃんに落ちたんだって?」
「吹雪ってば、そんな事まで話したの?」
「だから、手出しは出来ないと釘を指されたよ。参っちゃうよな。」
「嫌だな、何を言っているのよ。その気もないくせに。」
「あったら、考えてくれるか?」
まぁくんが、真剣な表情。
息が詰まりそう。
「なんて、な。俺が白馬の坊ちゃんに勝てるはずがないな。」
自分で冗談に仕立て上げ、笑っている。
そういう言い方って、ずるいよね。
「どうした?」
「ううん、何でもない。まぁくんは、元気?」
「何だよ、急に。」
「ううん、ただ、確かめてみたかっただけ。」
「何か悩みがあるのか?」
「悩みって言うか、ちょっとね。」
「俺には話せない?」
弱っている時の優しさはずるいと思う。つい、甘えてみたくなる。
「白馬の坊ちゃんと上手くいっていないのか?浮気されているとか?確かに、あのルックスでお金持ち。もてるのは納得出来るけど、あそこまで白雪を追いかけていたのに、それはあり得ないか。」
「うん、凰士は大切にしてくれるよ。浮気もしていない。でも…。」
「でも?まさか、自分の彼女になった途端、暴力男に変身したとか?あっ、変態だったとか?ほら、エッチに偏りが…。あっ、悪い。女の白雪にそんな事言うのは間違っているよな。無神経だった。」
「暴力男でも変態でもないよ。」
「じゃあ、どうしたんだよ。」
まぁくんなら、わかってくれるかもしれない。私の気持ち…。
「まぁくんが言っている通り、白馬家の坊ちゃんじゃない。」
「そんなの最初からわかっているだろう。」
「そう。わかっているけど、付き合い出した。だって、好きになっちゃったんだもん、仕方がないじゃない。今の状態なら、気になるけど、私が好きになったのは凰士自身だから、忘れていても良いと思うの。でも…。」
「結婚を言い出した?」
「直接、プロポーズされた訳ではないの。ただ、周りが騒ぎ出して、凰士もその気でいると言うか、そういう雰囲気になってきちゃったの。だから…。」
私らしくない。
でも、まぁくんなら、それが許される。幼馴染のお兄さんだから。
「白馬家の名前が重く圧し掛かるって訳か?確かに、それはわかる。」
「もし、プロポーズされたら、ううん、きっと近い内に、凰士はそれを口にする。そうしたら、私、そこで凰士と終わりにしなくちゃ。だって、私みたいなのが白馬家の嫁になれるはずがないでしょう。」
「彼や彼の両親は?」
「凰士は、そんな事は関係ないと言うわ。彼のご両親も私達が結婚すると思っている。ううん、少なくても今まではそう言っていた。実際形になりだしたら、わからないけど。」
「じゃあ、断る必要はないだろう。白雪だって、彼が好きなんだろう?」
「好きよ。でも、違う事を時々感じる。例えば、この指輪。彼のご贔屓のお店で買ってくれたの。オーダーメイドで貴金属を取り扱っているお店で、私が普段身に付けているアクセサリーの十倍はラクにすると思う。それをちょっと試着したら似合うからって、買ってくれるの。普通で考えたら、ううん、私からしたら、そんなのおかしいでしょう?そんな高価な物を買う時は、覚悟を決める。彼には、そんな必要ないのよ。」
「なるほどな。確かに、俺達とは違うな。俺なら、付き合っている彼女が貴金属やバッグとか試着しているだけで、冷や汗モノだね。」
まぁくんが腕組みして、大きく頷いている。
「まぁ、そんなのは結婚すれば、それに慣れてしまうと思うけど、な。でも、それを引け目に感じてしまうとダメだろうな。白雪は、そうなんだろう。」
「引け目と言うか…。」
「まぁ、白雪の気持ちは俺なりに理解したよ。わかるつもりでいる。」
「ありがとう。」
「そんなに悩むなよ。もし、彼と別れて、傷心になったら、俺に声を掛けろよ。こうして、飲もう。奢ってやるよ。」
「優しいのね、まぁくんは。」
「まぁな。」
昔から好きだった優しい笑みを覗かせる。
そう、お兄ちゃんがいたら、こんな感じなのかな?って思う笑み。
「それにしても、白雪は変わらないな。」
「何が?」
「普段は、強気で挑んでいくのに、悩み始めるとうじうじと悩み続ける。」
「仕方がないじゃない。」
「相談に乗るよ。」
「頼りにしています。」
「おう。」
もう一度、ジョッキを合わせ、乾杯。
あぁ、酔いが回ってきたかな。なんか気持ちよくなってきちゃった。