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二日酔いにはならなかったが、だるい。日差しが眩しくて、目を覆い隠したくなる、サングラスでもよし。あぁ、もう一度ベッドに戻って、眠りを貪りたい。
「白雪。」
瞳を細め空を見上げていたら、駅前で聞くはずのない声。ゆっくり振り返った。
「あっ、凰士。おはよう。」
「おはよう。」
何が遭ったか知らないが、不機嫌を思い切り表現した表情。
どうして、こんな所にいる?わざわざ出迎え?すぐに会社で会えるのに?
「昨夜、誰と飲んだの?」
「へ?」
「吹雪から聞いたんだ。」
「吹雪から聞いたのなら、わかるでしょう。幼馴染のまぁくんよ。」
吹雪め、余分な告げ口して。独占欲の強いヤツだって、わかっているだろうに。
「男、なんだろう。」
「確かに性別上は男ね。でも、兄妹みたいな存在よ。友達だし。一緒に呑んだら悪いの?」
「悪くはないけど…。」
「それとも吹雪に泊まりで帰ってこなかったとでも言われた?」
「そんな事 は言っていない。」
「でしょうね。十時過ぎには帰宅したから。」
今日の私、ヘン。やけに凰士に突っかかった言い方している。
「でも、白雪、千鳥足だったって。」
「アルコール、飲んだからね。」
「もし相手がヘンな気持ちになったら、危ないじゃないか。」
「ならないもの。言ったでしょう、彼は兄妹みたいな友達。ようは沙菜恵達と飲みに行くのと一緒よ。」
「でも、白雪は魅力的な女性だから。」
私より背が高いのに、上目遣いってどうなの?
そういう瞳に弱いってわかっているのかしら?計画的?
「大丈夫。凰士が心配するような事はないから。有り得ないから。」
「本当に?」
「凰士。私の事、信じられないんだ?私が浮気すると思っているのね?」
「白雪の事は信じている。でも、白雪にそのつもりがなくても相手がその気になったら…。腕力じゃ勝てないでしょう。」
「まぁくんはそんな事しないわよ。心配しないで。そんなヤキモチばかり妬いていると、他の女性に嫌がられるわよ。」
「白雪がわかってくれればいいんだ。他の人は全く関係ない。」
小さな子供みたいに頬を膨らませた。
こんな姿さえ可愛いと思ってしまう私って、重症?
「わかった、わかった。今度から飲まないわよ。でも、友達だから食事ならいいでしょう。」
唇を尖らせたまま、小さく頷いた。
本当に面倒臭くてバカだけど、私の愛しい恋人なのよね。
「さぁ、仕事に行きましょう。早くしないと遅刻しちゃう。」
凰士の手を握り、歩き出す。
ほんの少し機嫌取りの意味を込めて。うん、間違っても普段の私ならこんな会社前で手を繋いだりしない。餌食になるのはわかりきっているから…。
「白雪、愛しているからね。俺だけの白雪でいてね。」
凰士がにっこり笑みを覗かせた。
少しだけ胸が痛いのは、やっぱり突っかかった言い方をしたから?
でも、何もなかったように凰士に笑い返して見せた。
「おはよう、お二人さん。」
「おはよう。相変わらず仲がよろしい事で。」
「おはよう。」
「おはようございます。」
どうして、沙菜恵と美人は、挨拶がオヤジ臭い日があるんだろう?こういう時は何かを企んでいる。
「仲が良いのはわかるけど、朝から駅前で痴話喧嘩ってどうなの?」
「目撃者がいるのはわかっているでしょう。どうしていつも周りを気にしないの?」
「私達は楽しくていいけど、恥ずかしくないの?」
「恥ずかしいのは私達じゃないし、いいんじゃない?」
相変わらずの饒舌。
でも、美人は浮上した証拠だと思って、許そう。
「喧嘩なんてしていないわよ。」
「でも、昨夜、無断外泊したとか何とか。」
「それも幼馴染の超格好良い人と。」
「どうして、そう出鱈目が並ぶわけ?」
「どれも違います。ただ、白雪が幼馴染の男性と飲んで帰ってきただけで…。それに俺がヤキモチ妬いただけの事です。」
「ほぉ、幼馴染は本当なんだ。で、どんな人なの?格好良いって本当?」
さすが美人です。目の付け処が違います。
「中肉中背。たぶん、美人の仲では格好良い部類には入らないと思うけど、優しくて頼れるお兄さんタイプよ。」
「優しくて頼れるお兄さんタイプか。いいわね。格好良くなくてもいいわ。浮気しないで、私だけを想ってくれる人なら。」
「この間の失恋が利いたみたいね。」
「煩いわよ、沙菜恵。」
一喝。いつもの調子です。
「ねぇ、白雪。」
この二人が言い合いを始めると長いと悟っている私達。凰士は勝手に私と会話する事にしたらしい。
が、チャイムが鳴り、会話は中断。
ちょっとほっとしている私がいる。だって、改まった言い方って、怖い。
「さぁ、念仏、念仏。」
さっさと立ち上がり、朝礼の定位置に。沙菜恵と美人も言い合いを止めて、立ち上がる。
今日の念仏は長かった。いつもは五分なのに二倍の十分は余裕に過ぎただろう。気合が入っているのか?ゾンビ部長は。
「じゃあね。」
「またね。」
駐車場で別れ、それぞれ営業車に。私は相変わらず、凰士とコンビのまま。
「さぁ、今日も頑張って、仕事をしましょう。午後は書類の山を整理よ。」
「はい。」
エンジンをかけ、出発。
「あのさ、白雪。」
一般道に出ると、呼び掛ける凰士。小さく流れているラジオが聞き取れなくなる。
「うん?」
嫌な予感を噛み殺しながら、何でもない顔で頷く。
「今度の土曜日、デートしようね。」
「何よ、改まって。」
「行きたい場所があるんだ。それで少しお洒落してきてよ。」
「何で?」
「いや、あの、たまには、ちょっとお洒落なレストランで食事なんてどうかなって。」
「うん。」
嫌な予感は的中でしょうか?あぁ、終わりかな。でも、仕方がないよね?仕方がないんだよね?ヤダ、涙出そう。
「白雪?」
「何?」
「どしたの?もしかして、イヤだ?」
「まさか。美味しい物を食べさせてもらうのは、私の楽しみの一つです。」
「本当に?」
「本当、本当。あっ、また、今日からダイエットしなくちゃ。最近やばいんだよね。」
「そうかな?目に見えて変化はないと思うけど。触った感じも。」
「凰士のスケベ。」
小さく舌を出し、思い切り笑う。
こんな楽しい時間は終わりかもしれない。でも、私、本当に立ち直れる?
「白雪、白雪。」
耳元で煩く呼び声で我に返った。
「何、ぼうっとしているのよ。まるで恋煩いみたいよ。凰士くんが愛しいのはわかるけど、仕事しなさいよ。」
あっ、そうか。会社に戻ってきて、事務仕事をしていたんだ。
こんな風に呼ばれて、我に返るのは、今日、何度目だろう?
「午前中からこんな感じなんです。別に顔色も悪くないし、熱もないのに。」
「調子が悪いの?」
「悪くないわよ。眠いだけ。」
「あっ、もしかして?」
沙菜恵、余分な事を言わなくてもいいわよ。
「昨夜、何かあった?」
やっぱりそっちにいくか。
「何もありません。もう、沙菜恵がそういう事を言うと、凰士のヤキモチ妬きが復活するでしょう。」
「そう?つまんないの。」
おい、凰士と私の応援をしているんじゃないのか?それに、つまんないって何?
「眠いのなら眠いでいいけど、目を開けながら寝ないでね。気持ち悪いから。」
「煩い。」
隣からじっくり見つめられる刺さるような視線。
「本当に大丈夫?」
アンタが余分な事をしようとしているから、私がおかしくなるんでしょう。
そう言ってやりたいが、これが普通なのかもしれない。順調な付き合いをしていたら、結婚を望むのも。
でも、普通と違う事くらい、わかって欲しいな。
「大丈夫。本当に心配性ね。」
出来る限りの笑みを零し、凰士を安心させる。
あぁ、なんて優しい白雪様なのかしら。




