新規体験談「例のコンビニに行ったけど、店長がいなかった」
お久しぶりです。佐藤です。
「東北地方と一部都内に出現する謎のコンビニについて」について、新たに店内に入ったという方からの連絡が来ました。
許可をいただいて、掲載したいと思います。
また、該当するコンビニについての情報も随時募集中です。
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始めまして、佐藤様。
私、岩手の○○(個人情報のため伏せさせていただいています)に住んでいます。
こちらの内容を拝見した後、恐らく同一のコンビニに入ったので連絡させていただきました。
あの日は珍しく霧深く、私はアイスを買いに近所のコンビニに行きました。
いつものコンビニのはずなんですけど、古民家が隣にあったんです。
見た瞬間に「あぁ、カクヨムの」と思い出しました。
一度、佐藤様の書いたカクヨムの内容を確認して、それから中に入りました。
思ったよりも普通のコンビニでしたね。
ただ、男性の声はしませんでした。音楽もなくて、静かな店内で。
なんというか、静かすぎてちょっと怖かったです。
アイスを買って、レジに行ったときに変な部分があったんです。
店員さんを呼ぶときって、声をかけるかブザーとかベルがありますよね。
鈴が垂れ下がってたんです。レジに。
こう……神社の賽銭箱の前みたいになってて。
大丈夫かなと思ったんですけど、誰もいないから一回鳴らしたんです。
そしたら、レジの後ろ側にあるドアが開いたんです。
人が出てきたので「この人が店長かな」と思って、顔を見て絶句しました。
紙が貼ってあるんです。顔に。
「竈」の文字が書かれた。
ドアの隙間から、フライヤーが見えました。
固まりました。歯がガチガチ鳴って、膝が笑ってるんです。
立ち去ろうと思ったけれど、身体に上手く力が入らない。
この人は見てはいけない人だ。
でも、この人が出てきたってことは店長はいないのかも。
目の前の人は、首を大げさにかしげていました。
そして、レジに「準備中」のプレートを置いて、バックヤードに入っていきました。
いまにして思うと、店長を探しに行ってたのかもしれないです。
ただ、当時は本当に怖くて。
この記事を読んでいたからわかるんです。
目の前の人は、その気になれば私一人「どうとでもできる」って。
少し待つと同じ人が戻ってきました。
その人(人?)は手をわたわた動かして、何かをひらめいたようにレジ下を漁り始めた。
で、紙と筆を出して書こうとして……手を止めた。
何かを考えるかのように、首を左右に振っている。
その様子を見ていると、私に対して「ちょっと待って」とジェスチャーをした。
直後に、背後からドタバタと足音が聞こえる。
「あ~、すんません!」
レジに入った人の姿を見て直感した。
あ、この人が「店長」か。
彼女は少しぼさぼさの髪を結いあげて「準備中」のプレートを下げる。
「一人抜けたから、バタついてるんよ。ごめんなぁ。ほんで、ありがとうございます」
私に対して謝り、「竈」の人にも感謝する。
その人は頷くと、私に手を振ってフライヤーがある場所に戻っていった。
「えっと……」
「呼びに来てくれて、助かったわ~。いや、ほんと」
話しながらも手際よくレジを進める店長。
私は、気になったことがあり話しかける。
「さっきの人って……」
「あぁ、あの人。人前には出ないんよ。今回は、緊急」
「やっぱり……」
「やっぱり? ……あぁ、君、あの記事見てる人か」
ドキッとしました。
ここを見ているスタッフがいると書いてあったことを思い出した。
店長は笑いながらも、袋詰めをする。
「怒ってはないよ。あたしらも、人が来てくれた方がええし」
「そう、なんですか」
「おん。で、気になる事があるんやろ」
「あ、はい。……あの人、なんで喋らないんですか? それと、紙に何か書こうとして辞めたんですけど……」
段々と代わる空気に、口がついていかなくなった。
店長は、笑顔だ。
ただ、さっきの柔和な笑顔とは違う。
張り付けたようだ。お面のように。
「そうやなぁ。あの人は、意図的に喋らんようにしとるから」
「なんで、でしょうか」
目の前の人は、人ではない。
記事を読んだ感じ、神様だ。
でも、想像よりもフランクに話しかけてくる。
普通の人みたいだ。
張り付いた笑顔で、レジに頬杖を突く。
「『本物』やから」
「記事、みとるんやろ。あの人は神格を持ったまま、ここにいる」
……確かに前に見た記事にも書いてあった。
――神格を持ったまま、人と関わらずにここで働いている
「お告げとか、神託とかあるやろ。あの人は、自分の言葉や視線が『そう』なるってのが分かってる。普通の人は、聞いただけで持っていかれるんよ」
「……紙に書こうとして、やめたのも……」
かろうじて声が出せた。
自分でも笑っちゃうくらいのかすかすな声。
私の発言に、店長は頷く。
「そ。書こうとしたときに分かったんよ。『あ、これ、神託になってしまう』って」
「だから、やめた……」
「そうそう。あたしよりも長く神様やっとる人だからね」
袋を渡され、手に取る。
去ろうとしたとき、店長はにんまりと口角を上げた。
「で? これも記事に書いてもらうんやろ?」
「……調査は終了しているらしくて」
「体験談は募集しとるって、書いとるやん」
ほら、と見せられたスマホにはカクヨムのサイト。
そこには私がこの体験談を送った佐藤さんの書いた記事。
「じゃ、よろしく~」
「……あの、人が来るのっていいんですか?」
私の問いに「ん~」と何かを考えながら上を向く店長。
こっちを見て、ぱっと笑顔を咲かせる。
「そら、そう。だって『あたしら』を信じているんやろ? 君らは」
あぁ、そう。
私もあの記事を見て、信じたからここに来たんだ。
「はい。では」
「じゃあね~。ありがとうございました~」
私は振り返らずに家に帰りました。
怖い……かはわからないですけど、少なくとも私にとってはとても良い「店」でした。
長文乱文失礼いたしました。
追伸:実は迷っていたことがあったんですが、吹っ切れました。
上京して、夢を追いたいと思います。
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新しい体験談でした。ありがとうございます。
また、体験談がありましたら募集中ですのでご連絡をお願いします。