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ノヴァムカイワールド  作者: フィのー
三章 綻び
53/55

7話


「……このプリント、見たことある?」


放課後の教室。

唯斗は手にしたプリントを瑠衣に見せた。

それは、今日の数学の小テスト。

でも、どこかおかしかった。


「この問題、前にも解いた気がする。

 でも、先生は“初めて出す”って言ってた」


「私も、見覚えある。

 しかも、答えまで覚えてた。

 でも、そんなはずないのに……」


ふたりは顔を見合わせた。

その目に浮かんでいたのは、

**確信のない不安**だった。


「……記憶が、ズレてるのかな」


「それとも、世界のほうが、

 少しずつ書き換えられてるのかも」


---


名前のない転校生は、

すっかりクラスに馴染んでいた。


誰も彼の名前を疑わない。

先生も、クラスメイトも、

まるで“最初からそこにいた”かのように接している。


でも、ふたりだけは違った。


「……あの人、

 昨日まであんなに話すタイプだったっけ?」


「ううん。

 昨日は、ほとんど誰とも話してなかった。

 でも今日は、翔太と笑ってた」


「記憶が、変わってる……?」


「それとも、私たちのほうが、

 “正しい今”から外れてるのかも」


---


夢界は、ノートを開いていた。

ページの上には、今日の記録が綴られていた。


**『ふたりの記憶に、連続的な齟齬発生。

 記録外個体の影響、拡大中。

 記録守の観測範囲を超える変化が進行中。』**


彼は、ページの隅に浮かぶ文字を見つめた。


**『記録守、選択の時近し。』**


「……選択、ね」


夢界は、ノートを閉じた。

そして、塔のふもとに向かって歩き出した。


---


その夜、ふたりは夢を見た。

同じ夢。

塔の中。

白い廊下。

そして、開いた扉の向こうに立つ“誰か”。


「……君は、誰?」


問いかけると、

その“誰か”は、静かに振り返った。


**「君たちが忘れたもの。

 でも、本当は――

 君たちが選ばなかったもの」**


目が覚めたとき、

ふたりは同時にスマホを手に取った。


「……同じ夢、見たかも」


「うん。

 “選ばなかったもの”って、どういう意味だろう」


「わからない。

 でも、あの人の声……

 やっぱり、知ってる気がする」


---


翌朝。

教室の座席表が、また変わっていた。

今度は、**ふたりの名前の位置が入れ替わっていた。**


「……これ、間違いだよね?」


「先生に聞いてみよう」


でも、先生はこう言った。


「え? 最初からそうだったよ。

 何か問題ある?」


ふたりは、何も言えなかった。

**“今”が、少しずつ書き換えられている。**

それを、誰も気づいていない。


---


放課後。

塔のふもと。

黒いしずく花の蕾が、

ついにひとつ、**完全に開いていた。**


「……咲いた」


「うん。

 でも、何も起きてないように見える」


「いや、起きてる。

 私たちの“今”が、

 少しずつ、変わってる」


「……このまま、全部変わっちゃったら、

 私たち、どうなるんだろう」


「わからない。

 でも、君のことだけは、忘れたくない」


「私も。

 たとえ、世界が変わっても、

 あなたのことだけは、覚えていたい」


ふたりは、咲いた黒い花の前で、

そっと手をつないだ。


---


その夜、夢界は塔の中で立ち尽くしていた。

ノートを開いても、

ページには何も書かれていなかった。


「……記録が、追いつかない」


彼は、初めて“恐れ”を感じていた。

記録守としての自分が、

**世界の変化に置いていかれている。**


「ふたりを守るには、

 もう、記録するだけじゃ足りないのかもしれない」


彼は、ノートを閉じた。

そして、塔の奥へと歩き出した。


「……なら、俺が“記録の外”に出るしかない」


塔の奥。

そこには、**記録守が決して踏み入れてはならない扉**があった。


夢界は、その扉の前に立ち、

そっと手を伸ばした。


「ふたりの“今”を守るために。

 俺は、記録を超える」


扉が、静かに開いた。


(続く)

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