第84話 ミズホと怪盗ローズと対峙
「えーっと、エリー……これは、どういう状況?」
「似合ってるわよ、ミズホ!」
満面の笑みでそう言われても、まったく嬉しくない。
むしろ、今すぐ外したい。
なぜか私は――宝石グリーンミントを身につけて、展示場のど真ん中に立たされていた。
状況が理解できない。
いや、説明は聞いた。聞いたけど、納得はしてない。
「“誰かが直接ガードするのが一番効率的”って言ったの、確かにエリーだよね?」
「ええ」
「その“誰か”が、なんで私なの!?」
思わず声が大きくなる。
普通に考えて、もっとこう……警備向きの人とかいるでしょ。
だけど、その横で――
「ビューティフォー! 宝石を身につける女の子……これはこれで一つの芸術だね!」
金賀さんが、やたら満足そうにうなずいていた。
……あ、これダメだ。
この人、完全に気に入ってる。
つまりこの作戦、もう止められない。
私は諦め半分で、そっとエリーに顔を寄せる。
「ねえ……これ、本当にうまくいくの?」
「……ごめん、正直分からないわ」
エリーは小さく苦笑した。
「怪盗ローズの手口も正体も分からない以上、確実な対策は立てられないの。だから今回は、“来るならここ”って分かる状況を作るしかない」
「つまり……」
「囮ね。頑張ってちょうだい」
さらっと言われた。
いやもう、完全に囮役じゃん、私。
でも――それでも。
ここで引くわけにはいかない。
ダークキャッツとして動くって決めた以上、ちゃんとやるしかない。
私は小さく息を吐いて、姿勢を正した。
――そして現在。
私は宝石を身につけたまま、展示場の中央に立っている。
……視線が、痛い。
「ねえねえ、あのお姉ちゃん、なんで宝石つけてるの?」
「こ、こら、見ちゃダメよ……」
うう……。
完全に見世物状態だ。
小さな子供にまでツッコミを入れられるって、なかなかの屈辱なんだけど。
これ、本当に意味あるのかな……。
そんなことを考えているうちに、時間は静かに過ぎていく。
そして――予告の時間が、近づいてきた。
気づけば、展示場の中には私たちダークキャッツのメンバー、ナタリーたち警察、そして金賀さん。
関係者はほぼ全員ここに集まっていた。
こういう状況って、小説とかだと――
「……この中に、すでに怪盗ローズが紛れてる、とかないよね?」
私がぽつりと呟くと、ナタリーがすっと前に出た。
「ここは、私に任せてください」
次の瞬間。
「ちょっ、いたっ!?」「なにするの!?」
ナタリーが、全員のほっぺたを一人ずつ引っ張り始めた。
「変装かどうかの確認です!」
「雑すぎない!?」
でも結果としては――全員、本物。
ナタリー本人も含めて、誰も変装ではなかった。
つまり、ここにはいない。
そう思った、その時。
「――予告時間になった!」
空気が、一瞬で張り詰める。
来る。
どこから?
私は周囲を見渡した、その瞬間だった。
――ドサッ。
「え……?」
視界の端で、誰かが倒れた。
続いて、もう一人。
また一人。
「エリー!? ルアナ!? フライヤ!?」
慌てて駆け寄る。
心臓が一気に嫌な音を立てる。
けれど――
「……すぅ……」
「……寝てるニャ」
「……本当だ。寝てる……」
規則正しい呼吸。
苦しそうな様子はない。
よかった。
ただ眠らされてるだけみたい。
――でも。
「……なんで、私だけ?」
周りが次々倒れていく中で、私だけが立っている。
違和感が、はっきりと形になる。
その時だった。
「ちょっと! なんであなた、眠ってないの!?」
振り返る。
そこにいたのは――マジシャンのような衣装に身を包み、杖を持った一人の女性。
その存在だけが、この場の空気から浮いていた。
「……あなたが、怪盗ローズ?」
「ええ、そうよ」
彼女はくすっと笑う。
「あたしが怪盗ローズ。今、世間を騒がせてる張本人ってわけ」
……まさか女性だったとは。
でも、妙にしっくりくる気もする。
「教えなさい。なんであたしの“スリープフィールド”が効かないの? この場にいる人間は全員眠るはずよ!」
ああ――なるほど。
だからみんな倒れたのか。
そして、私が眠らなかった理由も。
「そのフィールド魔法……私には効かないみたいね」
私はゆっくりと構える。
「私のユニークスキル、“アンチフィールド”には」
「……なにそれ、チートすぎない!?」
露骨に顔をしかめるローズ。
「下見の時、宝石つけてるの見て“間抜けそうな子”って思ったのに……!」
「ちょっと!? 誰が間抜けそうよ!」
思わず声を荒げる。
「ミズホ、抑えるニャ……」
「……はっ」
いけない。
相手のペースに乗せられてる。
私は一度深呼吸して、気持ちを切り替えた。
「とにかく――今回はあなたの負けよ。逃がさないから」
「ふん。こんなところで捕まるほど甘くないわ」
ローズは不敵に笑うと、足元へ光弾を叩きつけた。
――閃光。
「っ、まぶし……!」
視界が白に塗りつぶされる。
ほんの数秒。
でも、目を開けた時には――
そこに、彼女の姿はなかった。
「逃げた……!」
「まだ近くにいるニャ」
クロがぴくりと耳を動かす。
「足音が、あっちから聞こえるニャ」
私は顔を上げる。
逃がさない。
ここまで来て、逃げられるなんて絶対に嫌だ。
「……追うよ、クロ」
胸の奥が、熱くなる。
ただの依頼じゃない。
これは、ダークキャッツとしての最初の“試練”だ。
「絶対に――捕まえてやるんだから!」
私は、怪盗ローズの気配を追って駆け出した。




