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第72話 ルアナとミズホの体育祭のワクワク

学園に入ってから、数日が経った。

アタイらは勉強とギルドの仕事を両立しながら、毎日を回している。……いや、「回している」って言い方だと疲れてるみたいだな。実際は逆だ。妙に充実してて、寝る前に「今日も色々あったな」って笑える日が増えた。


ギルドの仕事って言っても、最初は拍子抜けするほど軽い。ペットの猫探しだとか、近場の異界で指定モンスターを狩ってこいだとか。命懸けの救出作戦や人体実験の痕跡を見た直後に、猫探しってどういう落差だよって思ったけど……案外悪くない。

日常ってやつは、こういう小さな依頼の積み重ねでできてるんだなって、少しだけ分かった。街の人に「助かったよ」って言われると、胸の奥が温かくなる。


学業の方も、思ったより面白い。実技は特に。今まで知らなかった戦法とか、魔法と武器の連携とか、個人の強さだけじゃない“勝ち方”を教えられる。

……学校に行くのも案外悪くないな。

それが正直な感想だ。ホーリーライトにいた頃、学ぶってのは「従うための教え」だった。でもここは違う。“強くなるための学び”だ。


で、学園の次のイベント。

体育祭があるらしい。しかもクラス対抗。規模もでかくて、ひと月後。

アタイにとって、対抗イベントは歓迎だ。ぶつかる理由がある戦いは燃える。勝ち負けがはっきりしてるのも嫌いじゃない。むしろ好きだ。


ある日、学園の食堂でミズホと鉢合わせた。あいつは相変わらず、ふわっとしてるのに芯がある顔で、当たり前みたいに手を振ってくる。

「一緒に食べよー」ってノリで、アタイらは同じテーブルについた。


話題は当然、体育祭。


「ルアナは何に出るの?」

ミズホが言う。こいつ、こういうイベントの話になると、目が少しだけキラキラする。本人は無自覚っぽいけど。


「アタイは剣術だな。アタイの剣がどこまで通じるのか、楽しみだ。ミズホは?」


「私は裏で他のメンバーのサポートがメインだから、今のところは出ないかな」


「サポート?」

思わず眉が上がる。こういうのって普通、前に出て暴れるやつが主役だろ。ミズホの性格的にもそっちだと思ってた。


ミズホは箸を止めずに、軽い声で言う。

「ほら、これクラス対抗イベントでしょ? こういうのって大体、上位クラスの人たちが強いからさ。裏でサポートしてあげることにしたの。それなりに対抗できるようにね」


なるほど。確かにクラス対抗って、年齢とか経験で公平に分けるわけじゃない。ランクが上なら、環境も教官も違う。そりゃ有利だ。

しかもミズホは“AZクラス”――事情を知らない奴らから見ればZ扱いなのに、実態は上位。周りとの摩擦もあるだろう。

それを受け止めて、裏方に回るって……お前、ほんとに変なやつだな。いい意味で。


だが。


「ミズホ、お前……アイツらをサポートできるのか?」

口に出たのは、心配だったからだ。Zクラスってのは聞いてる。ヤンチャが多い、って。いや、ヤンチャどころじゃないだろ。変な癖のある連中の集合体だって。


「うん?」

ミズホは一瞬きょとんとして、それからすぐ理解したみたいに笑った。


「あー、そういうこと? たしかにヤンチャな人多いけど、みんないい子だよ」


「しかしなぁ……」

アタイは言葉を濁す。

“いい子”で済むか? Zクラスの連中が、素直にお前の指示を聞くか? ミズホは確かに強いけど、強いだけで人は従わねえ。むしろ反発する奴もいる。


ミズホは箸を置いて、にこっと笑った。

「まあ、私がしっかりZクラスをマネジメントしてみせるよ」


その瞬間だった。

ミズホがすっと立ち上がったんだ。立ち上がるだけなら普通だ。問題は、その後だ。


「さて、みんな、行こうか」


ミズホが何気なく言ったその声に――


「「はっ!イエッサー!!」」


……え?


アタイの視界が一瞬止まった。

ミズホの背後、食堂の一角に、数十人が揃って立っていた。しかも敬礼してる。

いや、どこから湧いた? さっきまでそこに“空気”みたいに溶け込んでたのか? 気配がなさすぎるだろ。


「……おい。何だよ、あれ」

アタイの声が自分でも間抜けに聞こえた。


ミズホは振り向いて、何でもないことみたいに言う。

「彼らも私と同じZクラスだよ」


同じZクラス。

いや、同じっていうか……完全に部隊。組織。軍。

ミズホを中心にした“部下”の並び。敬礼の角度まで揃ってるの、どういう教育をしたらそうなるんだよ。


(なんか、クラスを制圧してないか?)


アタイは状況が飲み込めなかった。

だって、さっきまでのミズホは「体育祭は裏でサポートする〜」とか言ってたんだぞ? そのくせ背後に数十人従えてるって、どういうギャップだよ。

猫探し依頼の時のミズホは、普通に「ねえねえ、そっち見た?」って走り回ってたのに。


――お前、どっちなんだよ。

ムードメーカーか、組織のトップか。


ミズホはそんなアタイの顔を見て、悪びれもせずに笑った。

ああ、これだ。こういう顔をする時のミズホは、だいたい自覚がない。

自覚がないまま、周りを巻き込んで、中心に立ってしまうタイプだ。


(……やれやれ。ほんとに、とんでもないところに来ちまったな)


でも、胸の奥が少しだけ熱くなるのも事実だった。

あの“数十人”が、ミズホについていくって決めてるなら――Zクラスは、ただの落ちこぼれ集団じゃない。

そして、体育祭は、思ってた以上に面白くなりそうだ。

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