第70話 ミズホと闇の力の行く末
グレープ学園長の視線は、試すようでもあり、どこか確かめるようでもあった。
あの水晶に触れた時みたいに、私の中身を見透かされている気がして、喉の奥がきゅっと鳴る。
「おっと、君が闇の力を持っていたところで、別にどうこうするつもりはない。ただ、聞きたいのは、その闇の力をどうしたいのか」
――どうしたいのか。
その問いが、胸の奥に置き去りにしてきた“答えの形にならない答え”を、ぐっと引っ張り出してくる。
正直、格好いい言葉ならいくらでも並べられる。
でも、それって私の本音じゃない。私は、まだ旅の途中だ。迷いもある。怖さもある。だからこそ――嘘だけは言いたくなかった。
私は、息を一つ吸って、真正面から言った。
「正直、どうしたいかは分かりません。ただ、今言えるのは……私はこの闇の力を、他の属性と同等に扱いたい。闇だって属性の一つ。欠けていいものではない。そう思います」
口にした瞬間、胸が少しだけ軽くなった。
“分からない”と認めたのに、逃げた感じがしなかったから。
むしろ、今の私が立てる一番まっすぐな旗は、これなんだって確信できた。
けれど学園長は、そこで優しくも厳しい言葉を重ねてくる。
「君たちが行こうとしている道は、決して楽な道のりではないかもしれないのだぞ?途中で壁にぶつかるかもしれない。それに、闇の力を安全に扱っても、結局は人の心が優先される。偏見の中で生きていくことになるかもしれない。君たちはどうする?」
分かってる。痛いほど分かってる。
私がどれだけ丁寧に扱っても、“闇”って文字があるだけで顔をしかめる人はいる。
私が何かを守るために力を使っても、“闇を使った”ってだけで疑う人はいる。
――でも、それでも。
私は背中越しに、仲間の気配を感じた。
エリーの落ち着いた呼吸。ルアナのぶっきらぼうな熱。フライヤの真面目な芯。
そして、どこかでクロが「見せてやれニャ」と言っている気がした。
私は答える。今度は、少しだけ強く。
「それでも、自分自身で見たもの、感じたものを真実として、私たちは進みます」
言い切った瞬間、室内の空気がふっと変わった。
学園長の口元が、柔らかく上がる。試験官の顔じゃない。教育者の顔だ。
「分かった。そこまでの覚悟があるのね。だったら進むがいいさ。立場が立場だけに、闇の力に関することはあまり協力はできないが……ミズホ君と仲間のみんなは信じるわ」
その言葉が、胸の奥に静かに落ちた。
信じる――その一言が、どれだけ救いになるか。旅を始めた時の私なら、きっと想像できなかった。
最初は孤立すると思ってた。
闇を使うってだけで、世界全部が敵に見える日も来るんじゃないかって。
でも今は違う。たった一人でも「信じる」と言ってくれる人が増えるたびに、私は前へ進める。
「……ありがとうございます!」
声が少しだけ裏返りそうになるのを、飲み込む。
学園長は頷いて、続けた。
「そうだな。学園としては、何を信じるのかは個人の自由だとしても、他の考えを押し付けることの危険性、様々な考えを受け入れる考え方は改めて伝えていくべきなのだろう」
胸の奥が、じんと温かくなる。
私の言葉が正しかったかは分からない。上手く言えた自信もない。
それでも――伝わった。少なくとも、届いた。
私は、こっそり拳を握る。
怖さが消えたわけじゃない。偏見がなくなるわけでもない。
でも、進める。
闇の力を“欠けていいもの”にしないために。
私が見た真実を、私の言葉で、私の足で、積み重ねていくために。




