恋に恋した子供の恋。
わたくしにその手紙が届いた時。
わたくしは本当に偶然、レイングラード領に滞在していた。
もちろんお仕事のために、だけど。
隣国マキアーナで見つけたアートなアクセサリー。
それを国内でも製造できないか?
そう思った時にこのレイングラード領に思い至った。
特に特産品もなく農産品頼りの領地。
このままでは領地の経営にも差し支えるし住民たちの生活もなかなか楽にならない。
冬の手仕事も、せいぜい日用品を作る程度で自分たちで消費しているだけだ。
わたくしはいずれ外に出ていく身、だけれど、せめてその前にこの現状をなんとかできたら。
そんな思いでやってきてた。
お義父さまと何度か訪れた事があるせいか顔見知りの方も多かったけれど、わたくしは今回は商会のお仕事で来ていますから王都の本宅には知らせないでとお願いして。
なんとなく、わたくしが家を出ていることは察して頂けているようで、家臣の方々も領地の有力者さまたちも、わりと好意的に接してくれていたのは本当に嬉しかった。
そんな中だった。お父様経由でベローニカさまからのお手紙が届いたのは。
「で、どんな内容だったんです?」
「ジュリウスさまが領地経営で悩んでらしているらしくって、助けてあげて貰えないかっていう内容でした、わ……」
「お嬢はそれでどうされるおつもりで? まさか言われるまま戻って差し上げるわけじゃないでしょうね?」
「まあ、ジンったら。もう、戻ることなんかできないわ。わたくし、離婚するんですもの」
「お嬢はお優しいですからね。どうせそれでも助け船は出そうかとか思っていらっしゃるんでしょう?」
「そう、ね。もともと、わたくしがお義父さまから教えて頂いた細々とした内容は、きっとジュリウスさまには伝わっていないのでしょうしね。その引き継ぎくらいなら、求められればしても構わないっておもっているわ」
ジュリウスさまが好きだった。
そんな気持ちをこの半年の間忘れたことは一度も無かった。けれど。
考える時間はいっぱいあって、ありすぎて。
いいことも悪いことも、いっぱい考えたあげく。
わたくしの恋は、まだほんの子供の恋だったんじゃないかって思い至った。
恋に恋した子供の恋心。
憧れと、恋心の区別もつかないうちに結婚したわたくし。あの、綺麗な髪の、綺麗なお顔のジュリウスさまに憧れた。
自分にないものを持っている、貴族らしい美しさに惹かれた。
きっとそれがいびつだったのだ。
そう思い至ったら、なんだか心が軽くなった。
そもそもわたくしたちは最初からダメだったんだから。
わたくしの恋は、ほんとうの恋じゃなかったんだから。
ジュリウスさまの言った、「一年後には離婚をして、第二の人生をちゃんと歩んでいくべきだと思うんだよ。お互いにね」という言葉はある意味正しかったのだ、って。
そうこうするうち、家臣の方がジュリウスさまとベローニカさまが領地を訪れることになったと教えてくださった。
まだジュリウスさまにお会いする気にはなれなかったわたくしは、ベローニカさまとだけこっそりお話しできる機会をもってもらおうと、ジェファーソンさまにお願いしたのだった。
「ふふ。ありがとうマリエルちゃん。わたくしのお願い、届いたのね」
「ああ、いえ、わたくしなんかが手助けできる事があるのかは分かりませんが……」
「あなたにはほんとうに申し訳ないことをしたと思っているわ」
「あの……ベローニカさま?」
「あの子はほんとわがままな子供だった。うちの旦那がもう少し長生きしてくれてたら、ちゃんと鍛え直して貰えたかもしれないんだけどほんとごめんなさい」
「いえ、そんな……」
「ほんとガイウスったら、マリエルちゃんだけじゃなくってジュリウスもお仕事させてくれていれば良かったんだけど。あ、わたくしがお手伝いしていればっていうのは、なしね? わたくしほんと数字に弱くって。今回もジュリウスがにらめっこしている書類、どこが問題なのかもわからないのよ」
「その書類、見せていただいても?」
「ええ、こちらよ。あんまりらちがあかないから、明日昼食会を開催する事にしたわ。家臣だって美味しいもの食べながら言いたい事言ってもらった方が、良いと思うのよね」
「そう、なのですね……。もしよろしければ、ですが、わたくしもその会合に出席させていただいてもよろしいでしょうか?」
「ふふ。よろしかったら、じゃないわよ。こちらからお願いしているんだもの。ありがとうマリエルちゃん」
「いえ、問題点がわかりましたので」
「さすがねー。ほんとあなたは優秀だわ。あ、そうだわ。これはあなたに伝えるのがフェアかどうかちょっと悩んだんだけど。ねえ、マリエルちゃん。ジュリウスの初恋は子供の頃のあなただったのよ。あの子が幼い頃直接聞いたの。ほんとうよ?」
「幼い頃の、わたくし……」
「そう、かわいらしい子だったって、わたくしに話してくださいましたもの」




