118 夜明けは必ず訪れる
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閉ざされた町周辺の国の空を覆っていた暗黒の空が消え、大量に出現していた魔物達が消えた。
元に戻った空は夜明けの空で、次第に全てが朝日の光に包まれていった。
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「終わった……のか?」
「……そのようだな」
「さすがに駄目かと思ったぞ」
「私もだ……疲れたな」
雪の地面に寝転がるカミーユと、その隣に座り込んで夜明けの空を見上げるシャルル。
周囲でも騎士や魔導師達が、歓喜の声を上げながら次々と地面に寝転がっていった。
さすがに体力も魔力も空っぽなため、しばらくは誰も動けないだろう。
先程まで吹き荒れていた吹雪も止み、嘘みたいな静けさが辺りを包み込んでいた。
サンブリー周辺を守っていた体力自慢の王国第三騎士団も、さすがに体力は限界だったようで皆地面に寝転がっていた。
こうして、ペリグレット王国にようやく平穏が訪れた。
同じ頃、シャトロワ王国でも騎士達が夜明けの空を見上げながら、各地で大歓声を上げていた。
シャトロワ王国の中でも、最も激しい戦いが繰り広げられていた王宮の北側では、大歓声を上げるほどの余力も残っておらず、騎士達は殆どが寝転がりながら、ただ静かに夜明けの空を眺めていた。
エリアスやラウル達も同様だ。
そこに、ミオとショウを乗せた氷竜が戻って来て、エリアスとラウルが飛び起きた。
地面へと降り立った氷竜に駆け寄るエリアスとラウル。
「ミオちゃん!?」
「ミオ!」
2人の呼びかけにミオの返事はなく……氷竜が眠っているだけだと説明したけれど、もちろんその声がエリアスやラウルに届くはずもない。
氷竜の背中によじ登って、傷だらけのミオの姿を見て青ざめるエリアスとラウルに、氷竜は「言葉が届かないとは厄介なことだな」とため息をつきながら炎竜を呼んだ。
そして氷竜は、エリアスを背中から降ろさせ、ラウルと寝転がっているヴィクシスを炎竜の背中に乗せると、ペリグレット王国へと向かって飛び立った。
地上ではエリアスがミオの名を呼んでいたけれど、竜の言葉が通じないのだからどうすることも出来ない。
しばらく呆然と立ち尽くしていたエリアスだったけれど、唇を噛みしめて拳を握り締めると、大きく息を吐き出して周囲の騎士達に指示を出し始めた。
さすがは第一王子といったところだ。
魔王の封印が解かれたことにより影響を受けた王国は、各国でそれなりの被害が出ていた。
シャトロワ王国ほどではなかったけれど、残念ながら死者が出ている王国もあった。
ペリグレット王国では、負傷者は多かったものの、水竜と風竜が王国を守るために戦ってくれたので、死者は出ていない。
やはり、王国を守る竜の力は絶大なのだ。
こうして、魔王の復活による混沌の訪れは阻止され、この世界に平穏が戻った。
残念ながら魔王の核を消滅させることは出来なかったので、またいつか復活させようとする人間が現れるかもしれないけれど、きっとそれは何百年も先の話だろう。
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シャルルやカミーユ達が王宮へと戻って来たのは、普段であれば昼食を食べる時間になる頃だった。
スージーと王宮の料理人達が、手軽に食べれる昼食を用意してくれて、合間に皆に食事を摂らせてくれた。
こうして、動ける者達が怪我人を王宮の広間へと運び、回復魔法が使える魔導師の魔力回復を待つ間に、とりあえずの応急手当を行う。
次々と怪我人が運ばれて来る中、炎竜と氷竜が近づいて来るのを見つけた見張りの騎士が、王宮前の広場で指示を出しているシャルルに大声で知らせた。
シャルルが慌てて門の外に出ると、ちょうど門の前に2体の竜が降りて来たところだった。
炎竜が地面に降り立つと同時に飛び降りて来たラウルが、シャルルの姿を見つけて叫ぶ。
「氷竜の背中にミオちゃんが!凄い傷だらけで意識がない!」
「何!?」
慌てて氷竜に駆け寄って背中に登るシャルル。
ミオの隣にはショウの姿があり、見たところ無傷なショウに小さく息を吐き出しながらミオに目を向けて……目を見開いた。
「ミオ!」
今までになく酷い状態のミオに、血の気が引いて行くのを感じるシャルルだったけれど、とりあえずは息をしているミオに、自分を落ち着かせるように息を吐き出した。
ミオの体をずらし、氷竜の背中から降りてミオを抱き留めると、近くにいた騎士にショウとヴィクシスを広間に運ぶよう指示を出し、急いで王宮へと運んだ。
ラウルも後ろから追いかけて行く。
王宮内に入ると、シャルルは使用人に医者を呼んで来るよう声をかけて、ミオの部屋にミオを運んだ。
しばらくすると、宮廷医が部屋にやって来てミオの診察をし、切り傷や擦り傷に加えて肋骨や腕の骨折はあるけれど命には別条はないと伝え、シャルルやラウルは安堵のため息をついた。
意識がないのは、魔力を使い切ったことや酷い怪我によるものだろうとのことだった。
侍女のエレーヌに、ミオの体を綺麗にして着替えさせてもらい、傷の応急手当てをする。
「悪いね、俺も回復魔法を使うだけの魔力が残ってなくてさー」
「ここにいる魔導師は全員同じだ、仕方がない」
シャルルとラウルがミオが眠るベッドの傍に座っていると、父親である国王がやって来て号泣した。
しばらく見守っていた2人だったけれど……このままではミオの布団がビショビショになってしまうため、何とか国王を宥めて自室へと戻ってもらった。
まぁ、国王とはいえ親なのだから、号泣するのは仕方がない。
そう、仕方がないのだが……泣きすぎだ。
翌日、魔導師達の魔力もある程度回復し、カミーユやヴィクシスがミオの所にやって来て回復魔法でミオの傷を癒して、ヴィクシスが魔力回復をかけたけれど、ミオの意識は戻らなかった。
とりあえず、穏やかな顔で眠っているので心配はいらないだろうということで、ミオが目覚めるのを待つことにする。
回復魔法で傷が癒えた騎士達も動けるようになり、王都や周辺の町の復興作業へと出かけて行った。
シャルルは今日1日休むよう騎士達に言ったのだけれど、もう大丈夫だと出かけてしまったらしい。
今回ほとんど被害が出なかった港町の騎士達も復興作業を手伝いに来ていて、シャルルの兄であるジェラールが仕切ってくれているようだ。
一方、ミオと一緒に氷竜に運ばれて来たショウは、まだ意識が戻らずに広場から客室へと移されて、使用人が交代で看病をしていた。
特に外傷もなく、静かに眠っているという状態らしい。
「何でショウは閉ざされた町なんかにいたんだ?」
「さぁねー。闇抱えてたし、魔王の核に呼ばれたんじゃないの?」
「ショウが魔王になってたってことか?」
「それはわからないよ。俺、シャトロワの王子様達と一緒に魔物と戦ってたし」
「はぁ?ミオと一緒に行ったんじゃないのか?」
「だってさぁ、ミオちゃんの指示だったし……それに、俺とヴィクシスが残らなかったら、シャトロワ王国は終わってたかもしれないよ」
「……そんなに酷い状況だったのか?」
「全滅しかけてたからねー」
「シャトロワ王国がか?」
「そうだよ」
ラウルの話を聞いて愕然とするカミーユ。
もしも、それがペリグレット王国だったら滅んでいたかもしれないと思うと……ゾッとする。
こうして、魔王の封印から3日後、ようやくショウが意識を取り戻した。
カミーユがショウがいる客室を訪れると、姿を消す前と変わらない様子のショウを見て大きく息を吐き出し、ショウの頭を手で小突いた。
「ったく、突然消えてるんじゃない。何処に行ってたんだ?」
「それは……悪かったと思ってるさ。俺だってよくわからないっつーか……何か突然声が聞こえてきてよ、気がついたら暗闇の中に閉じ込められてたんだよ。そんで、俺が魔王になるとか何とか言いやがって……俺だってそこから出ようと必死だったんだぜ?でも、どうやって出ればいいかもわからないし、そのうちに意識が朦朧としてきて……光が見えたと思ったら、ここで目が覚めたってとこだ」
「なるほどな」
「そういや、魔王はどうなったんだ?」
「ミオが封印したよ」
「そうか。やっぱアイツはすげー魔導師だったんだな」
「あぁ、そうだな」
とりあえず、外傷もなく元気そうだったので、ショウは魔導師団の宿舎に連れて行き、そこで今日は休むようカミーユが指示を出したけれど、暇だと言いながら起きて来たショウは、結局執務室でダラダラと過ごしていた。
ミオと違ってカミーユの仕事を手伝うことも出来ないので、やることがなかったのだ。
目覚めたてで復興作業に出すわけにもいかないし……まぁ、復興作業が出来るくらいの元気はあったけれど。
その日も、その翌日も、ミオは目を覚まさずに静かに眠ったままだった。
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―――
魔王の封印から5日後の昼頃。
「…………ん……」
ゆっくりと目を開けたミオ。
ぼんやりとした視界が広がり、何度か瞬きをしていると次第に視界がクリアになっていって、見覚えのある天蓋にここが王宮の自分の部屋だと認識する。
ベッドの上で体を起き上がらせて辺りを見回してみると、壁に下げられたボロボロの服とローブを見つけた。
そうだ、魔王の封印に行ってたんだった。
ここまでどうやって戻って来たんだろう?
ミオがベッドから降りて窓の方に歩こうとすると、頭がクラクラとして床に座り込んでしまった。
そこに、部屋のドアがノックされて……ドアを開けて中に入って来たシャルルが、ミオの姿を見て慌てて駆け寄った。
「ミオ!」
「……シャルルさん……すみません、なんか眩暈がして……」
シャルルは泣きそうな顔でミオを見つめると、ミオを抱きしめて体を震わせた。
「良かった……もう、目を覚まさないのかと思ったよ」
「……ごめんなさい……また、ご心配をおかけしてしまいました」
「謝らなくていい。ミオが無事で、本当に良かった……お帰り、ミオ」
「ただいまです、シャルルさん」
しばらくの間シャルルに抱きしめられた後、ミオはシャルルに抱き上げられてベッドへと戻された。
自分で上がれましたけど!?お姫様抱っことか、めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど!?
「5日間も眠っていたんだ、急に立ち上がったら倒れてしまうのも無理はないよ」
「5日間……え、そんなに眠ってたんです?私」
「そうだよ」
「寝すぎちゃいました……あ、背が伸びたかな」
「ふふ、どうだろうな」
寝る子は育つというのは、あくまでも子供の話だ。
ミオにとっては望みゼロだろうけれど……多少の期待はしてもいいですか?
シャルルは、ミオが目覚めたことを知らせてエレーヌに食事の用意を指示すると、父親を呼びに行ってくれた。
すぐに廊下を走ってくる足音が近づいて来て、ドアをぶち破らんばかりに勢いよく開けた父親が飛び込んで来た。
「ミオ~~~~~~~~~!」
「おはようございます、お父さん」
「大丈夫なのか?何処か痛むところはないか?」
「どこも痛くないし私は元気なので、そんなに泣かないで下さいよ。布団がビショビショになってしまいますので……」
滝のような涙を流して号泣する父親に、ミオは苦笑いしながら背中を撫でた。
どんな状態で運ばれてきたのかはわからないけれど、魔王の封印をするにあたってかなりの傷を負っていたことは確かだし、回復する魔力も残っていなかったから、散々な状態でここに来たことは間違いないだろう。
もう二度と、魔王の封印はしたくないなと思う。
しばらく号泣し続けた父親が泣き止み、ビショビショになった布団を交換してもらうと、父親は執務室へと戻って行った。
こうして落ち着いたところに、エレーヌが食事を運んで来てくれて、ミオは5日ぶりの食事で空腹を満たした。
お腹から全身に何かが満たされていく感じがして、これが染み渡るって感覚かななどと思いながら、食事を完食する。
「そういえば、毎日クリスタルが光っていたよ」
「え?あ、エリアス様ですね」
シャルルが光っていたクリスタルをミオに手渡して、ミオが魔力を込めると眉間にシワを寄せたエリアスの顔が映し出された。
「ミオ!何故今まで出なかったんだ!?心配しただろうが!」
「す、すみません、エリアス様……さっき目が覚めたので……」
「は?さっきだと?……そうか、それはすまなかった。私の配慮が欠けていた」
「いえいえ、大丈夫っですよ。それよりも、シャトロワ王国は大丈夫です?すみません、なんか挨拶もしないで戻って来てしまって」
「意識がなかったんだ、挨拶など出来るわけがないだろう……元気そうで良かった。シャトロワ王国のことは、問題はないから心配しなくてもいい。お前が2人と炎竜を残してくれたおかげだ、感謝する」
「そうですか、それなら良かったです」
「怪我は、もう大丈夫なのか?」
「はい。師団長とかが魔法で治してくれたみたいで、起きたら綺麗に治ってました」
「そうか。それなら良かった……また、連絡する」
「はい」
エリアスとの通信を終えると、ミオは両手を天井に向けて大きく伸びをして背筋を伸ばした。
5日間も眠っていると、体中が凝り固まってしまうものだな。
「私も復旧作業のお手伝いに行きますね」
「ミオはまだ体を休めるのが仕事だよ」
「十分休みましたよ?」
「目覚めたばかりだろう?」
「たくさん寝ました!」
「ふふ、許可は出来ないよ」
「えー」
せめて宿舎でと言ったけれど、今日はここで休むようシャルルに言われてしまった。
休めと言われても……さすがにもう眠れないし、することがないので退屈極まりない。
何だろう……これって、何かの罰ゲームですか?
一方、ミオとの通信を切ったエリアスは……ミオの元気そうな姿に安堵の表情を浮かべて、小さく息を吐き出すと椅子から立ち上がった。
そして、部屋から出ると騎士達の所に向かった。
シャトロワ王国は、王宮の北側を守っていた騎士が一時的に壊滅状態に陥ってしまったため、王宮を突破されて王都やその南側にも魔物達が溢れてしまった。
そのために、王国全体での被害が想像以上に酷く、復興作業が難航している。
ミオ達が来たことで被害はこれだけで済んだのであって、そうでなければ王国は滅んでいただろう。
国王、エリアス、騎士団は、王国の復興のため、休む間もなく忙しい毎日を送っていた。
こうして、ペリグレット王国やシャトロワ王国だけではなく各国で、それまでの日常を取り戻すため、復興作業が行われた。
この世界では、幾度も魔王の封印が解かれて来たけれど、必ず魔王は封印されて来た。
どの世界にも、明けない夜はないのだ。
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