110 王宮への侵入者
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「奴隷が殺害される件ってどうなりました?」
「農業が盛んな隣国が、かなりの被害を受けたらしいが……現状の報告はまだ入っていない」
「そうなんですね……」
隣国の奴隷……確か、漁業と農業が盛んな国で、広大な農地を管理するために奴隷を雇っていると、ルグミアン王国に行く際にシャルルに説明された王国が隣接していたなと思い出す。
おそらくあの王国が被害にあったのだろう。
大勢の奴隷が殺害されたということに、とても心が痛んだけれど、今更どうすることも出来ない。
この世界ではテレビやネット環境もないので、こうした情報のやり取りには時間がかかってしまう。
この事件が起こっていた時期も、だいぶ前なのかもしれない。
もしも奴隷が殺害される事件が既に終息しているのであれば、黒ローブ達は目的を達成して次の段階へと進んでいるだろう。
「閉ざされた町に行くのって、王宮の北側にある城壁を抜けて行くんですよね?」
「そうだ。この王宮を通らない限り、向こう側へは行けない」
「誰かが行くことってあるんです?」
「閉ざされた町に行くことはないが、城壁の向こう側の森や草原では薬草が取れるから、薬師や薬草屋などが行くことはある」
「え、だったら、黒ローブ達が薬師とか薬草屋を装って行ったかもしれないじゃないですか」
「いや、それはない。国王に申請を出した場合、まず宰相がその者の店を訪れて薬草採取が必要かを見定める。その後国王と協議した結果、許可証が発行される。薬草採取の際には、必ず騎士団が同行するんだ、偽装は難しいだろう」
「確かに、偽装は難しそうですけど……」
「ペリグレット王国の黒ローブは、そこまで賢くはなさそうだったけどねー」
「そうなんだ?」
王宮を通って城壁をくぐるのは難しそうだ。
でも、だったらエリアスの婚姻の儀で、城壁の向こう側に魔法陣を描いた10人の魔導師達は、いったいどうやって向こう側に行ったのだろう?
例え、騎士団の中に黒ローブが潜り込んでいたとしても、10人を手引きするってかなりのリスクを伴うのでは?
それとも、かなりの人数が潜り込んでるのだろうか?
「それより、魔王の封印を解こうとしているのは、本当に黒ローブなのか?別の目的で動いているという可能性はないのか?」
「うーん……私は黒ローブが魔王の封印を解こうとしていると思ってますけど。それを裏付ける証拠なんかはないですよ」
「俺もミオちゃんと同じように、黒ローブが魔王の封印に関わってると思うけどねー」
「そうか……とにかく、引き続き騎士団の中で不審な動きをする者には注意を払って行く」
「何かお手伝いが出来ればいいんですけどね。私には見抜く自信はないので……」
「お前は騙されやすそうだしな」
「そ、そんなことはないですよ!」
ミオ達が話しているところに、夕食の用意が整ったと使用人が知らせに来たので、部屋を移動することにした。
夕食にはシャトロワ国王と王妃も同席するようで、ヴィクシスが緊張しすぎて変な汗を流しまくっているけれど……大丈夫だろうか?
てゆーか、王女としてではなく魔導師として来ているのに、何故食堂ではなく王宮で食事なんだ?
などと思っていたら、魔導師として来ようが王女は王女だし、ルシヨット国王も来ているのに食堂でなんか食べさせられるかと言われてしまった。
そういうものなのだろうか?
―――――――
―――――
―――
「今夜、王宮の部屋の灯りが消えたら他の門番達を眠らせます。その後、結界を張って王宮からは見えないようにして移動します」
「わかった。全て整ったら連絡をしろ」
「了解です」
王宮の一角で、周囲に誰もいないことを確認しながらクリスタルで会話をする、騎士団の騎士。
クリスタルの上に浮かび上がっているのは、黒いローブを羽織った男の姿だ。
騎士と話をしている黒ローブの男は、王都にある宿の部屋でクリスタルを通じて会話をしていた。
「それとですね」
「何だ?」
「今、ペリグレット王国の王女がここに来てるんですけど、見つかったらヤバいと思いますよ。第一王子の婚姻の儀でもの凄い魔法使ってたし、あの10人と戦って仕留めたのは彼女らしいですから」
「何だと?何故、シャトロワ王国に来ているんだ?」
「それは分かりませんけど……どうします?日を改めます?」
「その王女は何時まで滞在するのだ?」
「さぁ、それは聞いていませんよ」
「……対策を立てて、予定通り今夜城壁の向こうに入る」
「了解です。それから」
「まだ何かあるのか?」
「彼女、結界すり抜けられるので」
「結界をすり抜ける?どういうことだ?」
「どういうことかは俺にもわかりませんけど、そういうことなので覚えておいてください」
「……わかった」
通信を終えた黒ローブの男は、しばらく考え込むと、部屋に集まっている9人の黒ローブ達に向かって言った。
「予定通り、今夜決行する。だが、お前達も聞いていただろうが、厄介そうな王女が王宮に滞在しているようだ。今から対策を考えて、夕方には移動を開始する」
「はい」
「全員がここに残る必要もないでしょう。我々は先に行って時間まで身を潜める場所を確保しておきます」
「わかった」
3人の黒ローブ達が部屋から出て行き、残った者達で厄介そうな王女……ミオに対する対策を話し合いを始めた。
―――――――
―――――
―――
「雪が積もっていると、外が少し明るく見える気がするなぁ」
そう思いながら部屋の窓から庭園を眺めていたミオ。
部屋の灯りを消してベッドに横になっていたものの、何だか眠れずに起き上がってベッドから降りた。
花壇には雪が積もっているため、花達も雪に埋もれて見えなくなっている。
雪が積もった垣根には、小さな花が咲いているように見えるけれど、何て言う花だろう?
部屋からだと良く見えないし、明るくなったら見に行ってみようかな、そう思いながら視線を動かした時、突然視界がぼやけたような気がして目をこすった。
「ん?なんだろう……コンタクトなんかつけてないのにな」
元の世界にいた頃、目の色を隠すためにコンタクトをつけていたけれど、元々視力は良かったのでコンタクトによって遠くが少しだけ見えにくくなることはあった。
でも、こっちに来てからはコンタクトなどつけたこともない。
え、疲れてるの?私……
辺りを見回すと、とくにぼやけて見えることもなく、気のせいかなと思いながら庭園の向こう側に目を向けると……やっぱり何か見え方に違和感を覚えた。
何なんだ?
違和感の正体がよくわからず、ジーッと見つめていると……ぼやけた視線の先で複数の人物が移動しているのが見えた。
「え……黒ローブ!?」
白い雪の中では、黒いローブは夜でも目立つ。
部屋からだと少し遠くてはっきりとは見えないけれど、あれは間違いなく黒ローブだ。
何故、王宮の中を黒ローブ達が移動しているんだ?
ミオは慌てて着替えると、カバンを肩から斜め掛けにして、箒を手に取り部屋から飛び出した。
廊下を走っていると、ミオの部屋から物音が聞こえて目を覚ましたラウルが、ドアを開けて顔を出した。
「どうしたの?ミオちゃん……」
「ラウルさん!たぶん、黒ローブが入って来てる!庭園の向こう側に!」
「何だって!?」
「念のためヴィクシスさんも起こして連れて来て!」
「わかった!」
ミオは廊下を走り、階段を駆け下りると、庭園へと出る扉を開けた。
外から冷たい空気が入り込んで来て身震いする。
冬の深夜はとても冷え込む、外なんかに出るものではない……などと言っている場合ではない。
ミオは扉から出て、黒ローブ達に気づかれないように庭園の中を進んで行き、身を隠せそうな垣根の前でかがむと様子を伺った。
そこに、ラウルとヴィクシスもやって来てミオの隣に身をかがめた。
「何処にいるの?黒ローブ」
「すぐそこだよ。北側の門に向かってるみたい」
「すぐそこって……誰もいないよ?」
「え?……いやいや、いるじゃん。なんか、ぼんやりして見えるけど」
誰の姿も見えないラウルとヴィクシスは、ミオの言っていることが全くわからずに顔を見合わせた。
ミオは、そんな2人を見ながら眉間にシワを寄せて首を傾げた。
どういうことだ?
「……とりあえず、私は黒ローブ達を止めて来るよ」
「待ってよミオちゃん、俺も一緒に行くから」
「俺は騎士団の皆さんを呼んで来るっす!確か、北の門の方に詰所があるんすよね?」
「お願いするよ、ヴィクシスさん。じゃあ……行こうか、ラウルさん」
「うん、ミオちゃんについて行くから」
ミオが黒ローブ達が移動している場所に向かって走って行き、ラウルが後ろから追いかけて行く。
ヴィクシスは北門にある騎士団の詰所へと向かって走った。
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