第19試合 初めてのキス/雨空に願いを込めて
『第19試合』
部屋を出て行ってから一時間以上が過ぎても岬は戻ってこなかった。
僕はじっとしていられず探しに出かけた。
飛び出していったので携帯も財布も持たずにジャージだけしか
着てないからそんなに遠くに行けるはずはない。
まず寮の中、そして周辺を探したがいないので外に出た。
近くのコンビニや店を回った後、学校は門が施錠してあるから当然
入れないのでサッカーの練習場に向かっていると雨がポツリポツリと
落ちてきた。
これはヤバいと思い、走りだすと徐々に雨が本格的に降ってきて
グラウンドに着いた時にはずぶ濡れになってしまっていた。
そして街灯の明かりで屋根のついているグラウンドの暗いベンチに
雨に濡れて小さくうずくまって座っている岬をようやく見つけた。
ベンチに向かって歩いていくと岬は僕に気づき、両膝をかかえて
頭を埋めた。
「こんなところで何してるの?」
僕は岬の隣に腰を下ろした。
「わ、私がどこで何しようと関係ないでしょ!ほっといて!」
岬は体勢を変えずに返事をしてきた。
「ほっとけないから探しにきたんだ、こんなに濡れて風邪ひいたら
どうするの?」
「自分だってびしょ濡れじゃないの!ああ、風邪ひいたら出来立ての
素敵な彼女に看病してもらえるものね、よかったじゃない」
「そのことだけど、ちゃんと話をするから聞いてくれる?」
「そんな話聴きたくない!私の事なんかほっといて帰って!
翼なんか大キラ・・んんん!!」
もうこれ以上しゃべらせないつもりで僕は衝動的に顔をあげた岬の唇を
塞ぎ、唇を重ねてキスをしていた。
雨に濡れて冷えた岬の唇は小さくてとても柔らかかった。
突然の出来事に目を見開いて両手で抵抗しようとしていた岬の手を
すりぬけ、僕は雨に濡れて冷えた身体を抱きしめると、岬はゆっくり目を
閉じて僕の身体に手を回してきた。
たぶんキスの時間は数秒だったかもしれないけど、それだけで
岬の心を一瞬で溶かすには十分だった。
「翼なんか・・・大キライ・・だよ」
唇が離れると岬はもう一度言いながら頬を赤らめ恋する乙女の表情に
なっていた。
「大嫌いでもいいよ、僕は岬が大好きだから」
「私なんか・・私なんか・・・女の子じゃないよ」
「それがなんなんだよ。それに岬は誰がどう言おうと僕には可愛い
女の子だよ」僕はもう一度軽くキスをした。
「私・・・さっきのがファーストキスでこれがセカンドキスなんだよ」
「僕もだよ」
「どんな味だった?レモン?」
「うーん、雨の味かな」
「全然ロマンティックじゃない!」
「岬はどんな味だったの?」
「雨の味」
「同じじゃないか」
「だって翼ずぶ濡れだもん」
「あちこち探し回ったんだぞ、どこに行くつもりだったの?」
「行くあてなんかあるわけないし・・・とにかく翼の顔見たら
悲しくなってくるし・・・話しかけられたらヒドイ言葉しか
出てこなくて絶対自己嫌悪に陥ってしまうから・・後先考えずに
部屋飛び出すしかなかったの」
何も考えずに出てきた証拠に岬は靴も履かずに寮の部屋履き用
スリッパを履いていた。
こんなに僕の事を想ってくれている岬を愛おしく感じ、僕は
もう一度抱きしめた。
「あのね、キスされた瞬間、雨粒がスローモーションのように
ゆっくり落ちていくのが見えて、頭の先から力が抜けて
フワフワした気分になったの」
「そうなんだ。でもこんなところでキスしたり抱き合ってたら
サッカーの神様に怒られるだろうな」
「大丈夫だよ、ピッチじゃないから。それにピッチではこの間
抱き合ってるし」
「そうだね」
岬を抱きしめたまま、雨が止むのを待ちながら僕は今日の
出来事、菜月先輩の事を話すと岬は大人しく静かに聞いてくれた。
「そうなんだ、あんな綺麗な人が女の子が好きだなんて意外だね。
人ってやっぱり話したり接してみないと解らないものだね」
「だからちゃんと説明しようとしてるのに誰かさんは全然聞く耳
持たないから」
「だ、だってさ、ちゃんと聞いていきなりあの人とつきあいます的な
宣言されたら私ショックで心臓止まってたかもしれないよ!」
「それはない、それに最初から断るつもりだったし・・」
「わ、私の・・・為」
「うん、菜月先輩にはサッカーの練習があるからって答えたら、
本音を言いなさいと言われ、やっぱり岬の事が好きだからって
その時はっきり思った。岬のそばにいたいと思った。
ちょ、ちょっと岬、泣いてるの?」
岬が僕の胸の中で大声で泣き出した。
「だ、だって・・やっど・・ぐす・・翼が・・私の事・・こんなに・
好きだっで・・言ってくれ・・たら・・嬉しくて・・うれしく」
ここまで言って岬はまた泣き出したが、そんな姿が可愛いくて
しかたなかった。
このまま雨が止まずに時が止まってしまえばいいのに・・と
僕は岬を抱きしめながら少し小雨になってきた雨空に願いを
込めて心の中で呟いていた。




