第18試合 菜月先輩との会話/嫉妬(ジェラシー)
『第18試合』
7月に入るとサッカー部は新たなポジションを試すために練習試合を
何試合かこなした。
当然ながら岬は出場せずマネージャーとして帯同していた。
試合では上手く連携が機能して勝利することもあれば、全く機能せず
チグハグなプレイの連続でミスを連発し負けることもあった。
個人的にもキックの精度がメチャクチャで得点チャンスを逃す事もあり
こんな状態でコーナーキックやフリーキックを任されていていいのか
僕は落ち込むばかりだった。
そんなある日、机の中に手紙が入っているのに気がついた。
封筒には名前は書いてないが、明らかに女の子からと思わせる可愛い
封筒だった。
僕は後ろに座っている岬に気づかれないようにその手紙をズボンの
ポケットに押し込み「トイレ行ってくる」と言い、トイレで手紙を
こっそり読んだ。
差出人は2年のテニス部に所属している女子で、男子の中では学校内で
ベスト10に入るくらい人気のある人なのだが、サッカーの練習を
幾度か観ているうちに僕のことが気になる存在になってくれたようで、
よかったら一度お話がしたいと書いてあった。
橋本菜月さん・・・サッカーの練習してる時に2年の先輩が「あいつ
可愛いんだよな」と言っていて、テニスコートを見ると確かに可愛いと
いうより綺麗な人だという印象が残っていたのだが、そんな人が
僕のことを好きになったりするのか?
それに僕には・・・岬が・・・。
放課後、僕は授業が終わると部活に行く前に呼び出された場所へ行くと
少し遅れて彼女もやってきた。
スラリとした身長で制服を着てても胸が大きいのが解るくらいスタイルも
良く、テニスをやっているわりに色も白く、近くで見るとますます美人だ
と確信した。
「ごめんなさい、待った?」
「いえ、僕も今来たところです」
声は思ったよりハスキーだった。
「突然手紙なんか迷惑だったかしら?」
「いえ、そんな事ないです」
「そんなに恐縮しないでくれる?」
「は、はい」
と言われても初対面でまして先輩となると恐縮してしまう。
「あの・・いきなり本題に入るけど、赤井君?翼君?どっちが?」
「好きなほうで」
「じゃあ翼君って呼ぶね。山本さんとはつきあってるの?」
「え?」
「二人はつきあってるの?って訊いたの?」
「い、いえ、そ、そんなことないです」
「でも好きなんでしょ?」
「そ、それは・・」
「好きなんだね、そんなに顔を赤らめてたらバレバレだよ」
僕は思わず顔を触っていた。
「要らぬお節介かもしれないけど、おたがい好きなら
同性なんて関係ないと思うけどな。
あ、翼君とつきあうつもりは私にはないから」
「え?そうなんですか」
「何?期待してたの?」
「いえ、そんなつもりは・・・」
「どうせ、断るつもりだったんでしょ?」
「はい、サッカーの練習もあるし」
「それは言い訳でしょ、ほんとは山本さんが好きだからでしょ」
「あの、どうして橋本先輩は僕と山、岬をつきあわせたいんですか?」
「橋本先輩は堅苦しいから菜月さんと呼んでくれる」
「はい、菜月さん」
「よろしい。何でってお似合いだからに決まってるでしょ」
「そ、そうですか?」
「山本さん・・みんなが呼んでるから岬ちゃんのほうがいいか。
岬ちゃん、学校内では有名人だけどいつもそばに居るのが翼君
だった。部屋も相部屋なんだよね」
「確かに居ました、最初は連れまわされていたんですけど」
「そのうち、それが嫌じゃなくなって来たって訳ね」
「あの・・それでなんで僕達をつきあわせたい・」
「私ね、違う高校につきあっている人がいるの」
「そうなんですか」
「女の子だけどね」
「へ?女の子?」
「そう、女の子。いけない?」
「いえ、そんな事はないです」
「だから翼君とは全くつきあうつもりはないの。
ただ同じ同性を好きになったものとしてどうしても応援したく
なって、一度お話がしてみたくなったんだ」
「そうなんですね」
「何?がっかりした?テニス部の美人の先輩とつきあえると思って
た?」
「いえ、思ってません」
「どっちかといえば岬ちゃんがほんとの女の子だったらつきあい
たいけどな。女子から見ても可愛いからね」
岬が男女問わずに人気があるのは知っていたけど。
「それで岬ちゃんとつきあわないの?好きなんでしょ?」
「す、好きです。でもやはり今の関係でもう少しいてもいいかな
って思うんです」
「まあ、相思相愛なんだし、好きにしてください」
「岬が僕の事好きだって解るんですか?」
「一度、テニスの練習の休憩の時にベンチにいる岬ちゃん見てたら
目で追っているのがずっと翼君だった。
この娘、やっぱり翼君が好きだって確信した瞬間ね。
まあ、何かあったら相談に乗るから。
それと好きになってしまえば、性別なんて関係ないから」
「はい」
僕は菜月先輩と別れて部活に向かった。
意外なところで人に見られてるんだなぁ・・・
練習用のジャージに着替え、少し遅れて練習に参加したのだが
監督の近くにいる岬と目が合うとなぜかそっぽを向かれた。
ん?
その時は特に何も考えず練習に入ったけど、休憩の時もいつもなら
笑顔で話しかけてくるはずなのに僕のそばに来ない。
部活が終わり、普通なら一緒に寮まで帰るのに一人で帰ってしまって
いた。
部員のみんなも「なんか今日岬ちゃん変じゃなかった?」と訊いて
きた。
授業終わるまでは普通だったけど・・・まさか?
部員の一人がこっそり教えてくれたのだが、先に部活に行ったはずの
僕がいなかったので岬が探しに行ったらしい。
ただ戻ってきてから表情が暗かったみたいだ。
岬は僕が菜月先輩と話してるのを見てしまったんだろう。
寮へ戻り、部屋に入ると岬が着替えをしていた。
「岬」と声をかけると
「ちょっと人が着替えてるんだから出てってよ!」
と明らかに怒っている。
「ごめん。岬、何怒ってるの?」
僕は後ろを向いて問いかけたが岬は返事もしてくれず、
ジャージに着替え終わると部屋から出て行った。
ちゃんと話しないといけないな・・・。
僕が食堂へ行くと先に来ていた岬は入れ違いに部屋へ
戻っていく、食事を終えて部屋に戻るとすでに自分の
ベッドで毛布を頭から被り寝たふりをしている。
声をかけてもやはり返事をしてくれない。
「岬・・・そのままでいいから僕の話を聞いて」
すると突然ベッドから起き上がった。
「ちょっと出てくる」
「どこに行くの?」
「どこでもいいでしょ!翼には関係ない!他の女の子と
仲良くしていたらいいじゃない!」
岬は部屋を出て行った。
やっぱりか・・・・。




