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第59話 薫陶を受けた魔法少女



 廃墟と化した東京に侵入した男と幼女。二人の魔法少女に捕まり明日を知れぬ虜囚となるが、悲鳴を聞いたラミエルが助けに来た。


「「お前なんてぶっ潰してやる!」」


 二人、思い切り魔法を使う。クラックを相手に実力以上の魔法を発揮した記憶は色あせていない。だからこそ、今もそれを使える。


「成長してないわね。研究所のちょっとした進歩、そしてクラックを相手に無茶をした。――その成果がそれだけなの!」


 巨大コマ、そしてピロピロ笛の紙袋を破るオーバーロードの一撃を、光の羽で弾き返す。返された魔法は明後日の方向に飛んで大爆発を撒き散らす。


「な……嘘!」

「硬い。――なら、隙を狙うだけ」


 ピロピロ笛の魔法少女が斜め前に飛び込んで狙いを悟らせないように動く。もともとピロピロ笛は動き出しが速くて小回りの利く武器だ。

 羽の隙間を通して本人を狙えばいいだけと、しゃがみこむ。吹き壊すのではなく、コンパクトな打撃を打ち込めば羽では守り切れないとせせら笑う。


「……居ない!」


 だが、羽の元にそいつはいない。ただ羽だけが浮かんでいる。相手の動きが速かった。この二人では絶望的に実戦経験が足りていない。


「ええ。こういうこともできるようになったわ……!」


 ラミエルは同じように相手の隙を狙って特攻を仕掛けていたのだ。光の剣を握るラミエルと鉢合わせるが、始めからそれを予想して動いていたラミエルが負けるはずがない。


「簡単には負けない……!」

「ちっ……! やらせるかよ!」


 ピロピロ笛でかろうじて光の剣を防御してつばぜりあう。そこに大量のコマをばらまかれた。


「さすがに、簡単に抑え込めないか」


 光の剣を爆発させてその場から逃れた。互いに一息吐く。


「……木乃実は大丈夫ね」


 ちらりとそちらを確認する。光の羽を結界代わりに残してきた。その中心で男が大切な妹をお姫様抱っこしている。

 こんな状況でなければ一言いってやりたいが、そちらの方が安全なのだから仕方ない。


「くそ! くそぉ! なんで、なんでテメエがそんな力を持ってるんだ! 私たちと同じ程度の魔法で……クズだったじゃねえか! 一体テメエに何が起きたって言うんだ⁉」

「……もしかして、クリック・クラックかティアマトから魔力でももらった? それなら、その馬鹿げた魔法も納得できる。あなたの魔法で、そんな羽を作り出すことなんてできなかったはず」


 二人は見るからに悔しげに地団太を踏んでいる。

 こんな勝負がしたかった訳ではない。油断を突いてかっこよく勝利するような。もしくは2対1の数の力で叩き潰すような。そんな気持ちの良い勝利が欲しかった。

 一瞬の油断が命取りで、精神を削るような細い糸を手繰り寄せる薄氷の勝負など御免だった。


「違うわ。あの二人には妙な事なんてされてない。ただ、少し教えてもらっただけ」

「教えてもらっただけだと――何を!」

「そんな教えてもらうなんて、くだらないことで魔法が変わるなんて」


「……そう? あれは最強の魔法少女、私たちとは格の違う異次元の魔法を扱う存在よ。なら、少し手ほどきを受けるだけで様変わりするのは当然のことでしょう」


 ラミエルが厳かに言う。ティアマトは子供で、クラックはいけ好かないけれど――それでも、世界を滅ぼしかけた魔法少女だ。

 レベル1とレベル100などで比べられるような魔法少女ではない。そして、今のラミエルは確実に二人よりもレベルが上だ。


「ふざけるなっ! ふざけるなよ、私たちは自由なんだ。あんな屈辱を、もう……!」

「そうだ、お前の魔法なんかに。負けるものかっ! 研究所で味わったあんな想いなんて――二度と!」


 退けば失う。従えば尊厳を奪われる。魔法少女となってから待ち受けた人生はそんなものだった。負け犬である自覚はある。

 だから、ただ力の限り抗うのだ。戦術を考えるような小賢しさなど持っていない。そんなことは誰にも教えてもらってないから。ただ”がんばる”。


「それでも、あなたたちでは私に勝てない」


 光の玉から閃光が走る。力を籠めた魔法は姿を結ばず掻き消え、光に撃たれた場所が燃えるように傷んだ。


「ああああああっ!」

「あぐっ! 痛い。お前、私たちを殺す気で……ッ⁉」


「いいえ。でも、少しは痛い目を見て貰わなきゃいけないでしょう?」


 うずくまって痛みに震える二人をラミエルが見下ろす。ラミエルの表情にふと影が差す。こんなことをしたいわけではない。彼女は苛立ちを他人にぶつけるような性格はしていない。


「冷静な話し合いは無理でしょう。行きなさい。二人に手出ししなければ、これ以上なにかすることはないわ」


 妹を守る、そのために戦いたくもないのに魔法を使っているのだ。正直、ラミエルも滅茶苦茶困っていた。

 追い返すだけでいい。が、傷つけないのは大変だ。……妹だけなら抱えて逃げられるけど、さすがに男を抱えるほどの度胸はない。


「くそっ! 私たちを見下しやがって……! させるものか。やらせるものか、思い通りになど――絶対に!」

「ええ。私たちは、お前なんて怖くないのよ……!」


 だが、二人は退かない。傷みに悲鳴をあげる身体を無理やり動かし、支え合って立ち上がる。

 研究所の生活はその精神に酷く闇を落としていた。感情はぐちゃぐちゃで、けれど慈悲にすがったところで利用されるだけだと学んでいる。

 戦わなかった、だから廃墟で這いずり回って生きている。だからこそ、今度は戦う。どうせ、負けて盗られるなどもうないのだ。


「――その程度の魔法じゃ、私には勝てないのに」


 ピロピロ笛の魔法を光の壁で防ぎ、乱れ撃たれるコマを叩き落とす。妹の方は羽で守っているから万が一もない。

 それでも、この二人は諦めない。激情のままに、ただただ魔法を繰り出し続ける。


「なんで、なんで全部叩き落とされるの……!」

「私の魔法も。笛の先しか狙えないって言っても、そんな簡単に見切れるはずがないのに!」


「戦闘経験の話? ええ。2、3日では経験を積むなんてことはないわね。けれど、あなた達の魔力はとても素直で読みやすいのだもの」


「魔力? 何を言っている?」

「あいつらに身体をいじられたのか? 頭がおかしくなったんじゃないか」


「……ああ、そう。魔法の扱いを覚えて、そこも分かるようになったということ。確かに前は、こんなふうに見えてなかった」


「どこまでもふざけた奴……!」

「いい加減に、当たれよ!」


「だから、無駄だと……!」


 いい加減に焦れたラミエルは光線で二人を撃つ。避ける術もなく、悲鳴を上げて崩れ落ちる二人。

 殺すのなら簡単だ。だが殺したくなんてない……困り果ててしまった。


「……ぐぐ。こんな、こんなことがあるなんて」

「勝てない、なんて。インパクトを起こした魔法少女どころか、お前なんかに……」


 立ち上がる力もなくなった二人は恨みがましく睨み上げる。とはいえ、ラミエルにもどうしようもない。

 というか、研究所のことはラミエルも被害者でこんな目で見られる筋合いはない。この戦いにしても、引き分けでもいいから早く終わってほしいくらいなのに。


「もう戦う気力もないでしょ。私たちを行かせてくれる?」


「くそ……!」

「ふん、行かせるものですか。それが嫌なら、殺してみなさいよ」


「……」


 二人を連れて行く以上、戦いは終わらせなくてはならない。背後から狙われたら、かばうのが間に合わない可能性もある。彼女たちの魔法の射程距離なんて知らないし。


「ねえ、あなたたち――」


 とにかく、脅すしかない。安全の確保のために。力のない、妹のために。


「「……」」


 ぎらぎらと鈍く輝く憎しみの視線はとどまることを知らない。頼るものもなく、廃墟で糊口をしのぐ日々が彼女たちから妥協を奪い去った。

 ただ獣のように目の前の敵と戦うだけ。死なない限り、止まらない。


「――やめなさい!」


 そこに鋭い声がかけられた。第三者の介入だ。


「いじめは許さないわ。この秘密結社【ブラックロータス】のボス、『シンデレラ』がね!」


 ババーンと現れたのは魔法少女、女子高生くらいに見えるきらびやかな少女だった。


「あははー。そんなに元気ならアタシが相手したげよっかー♡」

「ふん、実際に強力な力を持ってるようだけど」


 そして、二人の仲間が続いた。


「え!? いや、私は虐めてなんて……」


 これは、彼女によると虐めの現場であるらしい。ただ妹を守りたいだけのラミエルは慌てて手を振って弁解しようとする。




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