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第48話 樹海への刺客



 ティアマトの出産などと言うとんでもないイベントがあったが、世界はそんなことに関係なく進んでいく。敵を倒せば未来はよくなると信じて、戦いの準備を進めるのだ。

 少なくとも、日本政府はそのようにしてきた。この滅びに瀕した時代にあたり、敵を倒し怠け者の尻を蹴とばしてかつての栄華を取り戻すのだと努力し続けた。


 ゆえにこそ、刺客を作り上げた。軍人などという補充の利かない高級品はもうそんなことに使えるほど余っていないゆえ0から。

 世界の支配者を打倒するための正義の剣を作り上げた。


 巨大樹を伐採してもティアマトが居る限り次のものを作られてしまう。そもそも、ティアマトを手中に収めることが最初から変わらない目的だった。

 ティアマトの言うことを政府が鵜呑みするような関係では断じてない。どころか、今は勢力まで築かれてしまった。ここで潰さなくてどうする。


「――歩きにくい……」


 ずずん、ずずんと地響きを立てながら歩く巨大テディベア。その腕に抱きかかえられている魔法少女が一人。

 そいつがテディベアを動かしている。


「この根、すっごく邪魔。焼き尽くしてしまえばいいのに」


 ぴるー、ぴるーとピロピロ笛を吹いている魔法少女が肩の上に立っている。胡乱な目で巨大樹を見る。


「そんなことできる訳ないって分からない? その笛みたいに頭が空っぽなのね」


 テディベアの足にしがみついている魔法少女が毒舌を飛ばす。どちらもテディベアの魔法少女を信用などしていない。

 クラックに当てる戦力として開発されたこの魔法少女たちに仲間意識はない。ただ政府からの命令を受けただけで、仲間意識は薄く、むしろライバル関係に近い。


「……うぅ」


 そして、四人目はテディベアの背中にしがみついている。胸だけを見るとお姉さんなのだけど、ぷるぷる震える表情には威厳がない。

 三人からの臆病者と侮る視線が向けられても、それを気にすることもなく震えていた。


「くまちゃんはアンタらが重いって言ってるんですけどぉ。ダイエットしたらどうです?」

「ずいぶんと非力な魔法ね。それで戦えんの?」


「当たり前でしょ。足手まといがいなけりゃ楽勝なのよ」

「こんなデカイもんが動いてるんだから、もう敵にバレてない? 囮にした方が良かったんじゃない?」

「じゃあ、アンタだけでも跳び下りて徒歩で向かったら?」


「まだ家とやら見えてないじゃん。ええと。倒さなきゃいけないのは誰だっけ?」

「『クリック・クラック』と『ナイトメア』、こいつらは絶対殺せって」

「関係ない。『ティアマト』以外を全員抹殺すればよいだけ」


 チームワークなど存在しないまま、敵の場所を目指す。1対1では敵わないから4人で送り出されてたはずだが、しかし手を組まれるのも困るからむしろ対立を煽る。それこそ、相討ちが一番良いし、2,3人は死んでくれないと困るというものだった。

 そんなことも知らずに、刺客は歩を進めていく。


「……あのぅ。ねえ、倒すなんて本当にしなきゃだめですか?」

「何言ってるのよ、あんた。やる気ないなら帰れば? 研究所で何されるか知らないけど」

「バラバラになって、誰かのごはんになるんじゃない?」

「気色の悪いこと言わないでよ、人間なんて口に入れたくないわ。ただでさえーー」


「でも、得体のしれない他人を自分の体に移植されるよりは食べる方がマシじゃない?」

「うっさいわね。どうせアンタもやられてるんでしょ? 麻酔で眠らされてるうちに勝手に。適当に手術するもんだから、身体に傷が残ってるから分かるわよ」

「お前はマシでしょ、コマのやつ。私は足丸ごとやられて動かなくなったわ」

「……ひどいね」


「テディベアの君も、血を取り換えられているよ」

「うえ。ホント? まあ笛のやつみたいに醜くなるよりマシかな」

「あいつらの前にお前から殺すわよ。まあ歩けなくなるよりマシか。一人でトイレもいけないんでしょ?」

「クソくらえ。私は一人でトイレに行けるし、足なんかなくてもお前らなんて殺せるんだよ」


「どうせこのままついてても何か入れられたりくっつけられたり、もしくは残りの手足を持ってかれるかするんだから。ね、むしろ敵側についちゃったりしない?」

「ヤなこと言わないでよ。そんなことにならないように手柄を上げるんじゃない」

「そーそー。テディベアを抱いてるようなガキと違って、私らには立派な社会性ってもんがあるのよ」

「私の悪口言った?」


「それにティアマトはなんか子供だし、クラックは不気味だし。最近つるむようになったイエローシグナルも何考えてるかわかんないやつだし?」

「あはは! 言えてる。あんな奴らについていってもイイことなんかないわよ」

「それに、いい子にしていないと。魔法少女になんかなっちゃった私たちは、あんな風に自由になんか……」


 薄氷を踏むようなギスギスした会話。からかうような明るい声への反論がはずんで会話になっている。ただ、それでもあくまで軽口の範囲だった。

 はずなのだが。


「あの……肩につかまってる子、だれ?」


 テディベアの背につかまっている魔法少女が気付いた。4人で即興のチームを組まされ、討伐任務を与えられて出発した。だが、肩に捕まっているのは5人目だ。

 そう、空間転移で音もなく現れたクラックだった。


「……貴様、クリック・クラックか! は、探す手間が省けたな」


 びしりと指差す子がいる。


「いや、僕達の家に一直線に向かってる途中じゃない。そりゃあ、家を壊されちゃうから来るよ」


 そして、クラックは悪戯に来た子供をどう追い返すか困ってる感じの顔だ。まったく本気で取り合っていない。


「――ひぃぃ」

「怖気づいたなら引っ込んでて! クリック・クラックは私が倒してやる!」


 そして、なおも怯える子とテディベアに掴まっている仲間を気にせずに肩に向かってぬいぐるみの拳を振り上げる。


「むーー。これ、硬……」


 クラックは両腕を交差させて受け止めたが、そのまま殴りぬいて近くの廃墟に叩き込まれる。完全にぬいぐるみそのままの質感なのに、いざ触れると鉄のように固い。


「あはは! クリック・クラックを仕留めてやったぞ!」


 高らかに笑うテディベアの魔法少女はぬいぐるみの上で胸を張っている。そして、他の者は腕を振り上げた時にはテディベアから降りていた。


「そんなわけがない。……ぴろー」


 ピロピロ笛を持った魔法少女が、その笛を吹く。気の抜けるような音がして、紙の袋が少しばかり伸びた。ただの玩具そのままだが、それは魔法少女の使う”魔法の道具”。そして討伐のために派遣されたということは。


「――わわっ」


 クラックが瓦礫から飛び出てくる。その瓦礫を何かがぶん殴った。ピロピロ笛の紙、以上の長さを持つ”何か”が伸びて殴りつけてくる。

 遠近両用、シンプルな分だけ逆に攻略が難しい魔法だ。それも仲間が戦っている間に横から殴りつければいいから付け焼刃の連携にはうってつけ。まあ、先ほど会話の中で出た通りに足が動かなくなっているのが付け入る隙になっている。


「くははっ! 馬鹿め、コイツらの魔法を正直に受けていたら私のコマを喰らうこともなかったろうに!」


 そして、出てきたクラックにはコマが投げつけられる。魔法であるが故か回転も狙いも申し分なし。姿だけは気が抜けてしまいそうな玩具がクラックに迫るが、それは戦車すら破壊してしまう兵器だ。


「あはっ。そう簡単にやられると思う? 【パイル・オブ・ユグドラシル】……!」


 真っ黒な十字架の剣を手の中に生み出し、コマを切り裂いた。魔法そのものを壊してしまえば威力も何もありはしない。


「なにっ!? 私のコマが。それはーーただの剣じゃないな!」

「ただの剣じゃなくても、倒せば関係ないでしょ!」


 テディベアが走り、上からクラックを殴る。

 特撮では巨大なロボットや怪獣の動きが鈍く見える視覚効果がある。あれは100倍の歩幅を10分の1の回転数で回すから。実際の距離ではなく歩数が目立つための効果だが、実際には足先はとてつもないスピードが出ている。

 このテディベアは、10倍の歩幅がありながらも1倍のままの回転数――ゆえに、車並みのスピードを誇る。


「げほっ。重い……けど」


 クラックはぬいぐるみの腕を切り裂いて脱出する。剣を盾にすることで、テディベアの拳を二つに割った。

 だが、多少衝撃が分散するだけで威力はそのまま喰らうのだ。そして、せっかく割った拳も持ち主が魔力を使えばすぐに回復してしまう。


「追い詰める。ぴろぴろぴろー」

「気が抜けるんだよ! その音を私の隣で響かせるんじゃねえ!」


 ピロピロ笛と、コマの攻撃が迫る。連携も何もない、ただ同じ相手を攻撃してるだけだがーー


「く……うっ!」


 やたらめったらに飛ばされる連続遠距離攻撃を、一本の剣だけでは受けきれない。どうしても喰らってしまう。それに、コマの方を重点的に対処しても。


「がはっ」


 一発勝負から数で勝負に切り替えたそれの一つを喰らってしまう。その効果を一言で言えば衝撃爆弾。触れれば衝撃が発動してコンクリートなど粉みじんにしてしまう。人体に使えば皮だけ残った”丸ごとトマトジュース”と化すだろう。

 吹き飛ばされて瓦礫に突っ込んだ。


「あはははは! 世界を支配する魔法少女って言ってもこんなもの! 私が倒してあげる」

「いいや、お前じゃ倒せねえよ」

「そうね。あれを殺すのは私だもの」


 3人の魔法少女は欲望に濡れた瞳で瓦礫の中のクラックを見下ろし、これで最後だと魔法を発動させる――




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