対馬侵攻 【その4】
長い間、勝手を致しました。
少しづつ、書き進めて行きたいと思います。
今後ともお読みいただければ、幸いです。
出撃から数時間が過ぎた。
遠目に見えていた対馬が、今は目前に広がっている。
大浦は湊と言っても桟橋などがある訳では無い。
小さな湾内に集落が出来ているだけである。
先行して数隻の船が浜に乗り上げて行く。
斥候の確認を待って、次々と船が浜に到着する。
兵糧や兵士を乗せた船が次々に到着して、上陸が始まる。
自由を奪われた村上達が何とも言えない顔でその様を見つめている。
浜の奥に集落が見える。
集落と言うには、大きい。
奥の方にはそれなりの「館」と言うべき建物も見える。
しかし、浜の喧騒は聞こえているであろうが誰も姿を現さない。
予想通り、戦える戦力は残っていないのだろう。
俺は村上を側に呼んだ。
村上は朝鮮語を自由に操る。
「貴殿らを今から解放する」
「?」
「自らの行く末を検討する時間を貴殿らに与える」
「……自らの行く末……」
「余は海賊では無い。無下に扱う事はしない」
「……」
嫌味に聞こえただろうか。
しかし、間違い無く俺の本音だ。
集落の手前、500m程度の位置に陣を築くように指示をする。
改めて浜や集落を見渡すと、ある物が少ないことに今更ながら気付く。
船が少ないのだ。村の規模にしても小舟が数隻だけでしかない。
倭寇として出撃したにしても、生活の為の小舟は別だろう。
俺の様子に気付いたのか、村上が口を開いた。
「船はお館様の元に集められている」
「……成る程」
わずかな情報だが、確信のそして重い情報だ。
船はお館様……宗義智の元にあるという事は、
村上達の倭寇出撃も宗義智の指示という事になる。
単なる海賊行為では無い、封地の主による反乱だ。
実行犯を捕らえて終わりとは行かない、首謀者を捕らえる必要が生じる。
事が大袈裟になる。俺の望む結果とは行かない。
「領主を巻き込みたいのか」
俺は村上に向き直って問い掛けた。
「隠しても無駄だからだ。後から知られる方が分が悪い」
「巻き込みたくは無いという事か」
「それで済むとは思えん、ただ主家に禍をもたらしたい家臣はいない」
「そうか……」
村上は「領主」と問うた俺に敢えて「主家」と答えた。
御家大事という意味と共に宗義智本人に問題がありそうだ。
一刻の時が過ぎた頃、陣の構築が終わった。
実はもう一段階、やらなくてはいけない工程があるがそれは割愛した。
仮陣地には必要ないし、何より村上達に見られるのが良くない。
俺は兵達に命じて、村上達の拘束を解かせた。
流石に武器を返すわけには行かなかったが、全員をそのまま解放した。
慌てるでも無く、臆する事も無く村上は一度深々と頭を下げると集落へ戻って行った。
程なく、大きなざわめきが集落で上がるのが聞こえた。
そのざわめきも暫くして収束して行く。
徐々に陽が傾いて行く。
俺は陣に用意された天幕に入ると、パク・シルを呼んだ。
「シル、兵の中から夜目の利く者を集めてくれ」
「御意」
程なくして、10数人の兵が俺の前に集合した。
「お前たちには村の周りを見張ってもらう」
兵達は黙って俺の話を聞いている。
「村から抜けようとする者、村に立ち入ろうとする者すべて捕らえよ」
「「「御意!」」」
「女子供、関係なしにだ。なるべく傷は付けるな。ただし、激しく抵抗するならその限りにあらず」
「「「御意!」」」
そして、兵達は村の周りに散って行った。
俺の考えが間違っていなければ、何人かが村を抜けようとする。
特に夜陰に紛れて行動するのが、そういう連中の常だ。
宗義智に情報を与えるわけにはいかない。
ゆえに情報漏えいを事前につぶすのだ。
宗義智の指示で倭寇に及んだのであれば、
何らかの連絡員が村に滞在しているはずだ。
そいつに情報をもって帰られては、数に劣る朝鮮軍は窮地に陥る。
だからこそ、宗義智の耳、そして目を潰す。
今、勘付かれる訳にはいかない。
夜半過ぎ、一人の男が村を抜けだそうとして網にかかる。
捕らえた男は予想通り、宗義智の目付役だった。
朝鮮軍の上陸を知られる事を少なくとも遅らせることは出来た。
後は、村上達がどのように決断するかだ。
翌朝、日が昇る頃を過ぎた時分に村から一団が現れた。
一団は村上を筆頭として、全員が武装している。
俺の予想は悪い方に当たったようだ。
「行く末は決まったのか!」
俺の問いかけに、集団から村上が一歩前に出た。
袴をつけ、髪を整え髭を剃っている。
着物も上級武士が身につける物だ。
腰には太刀を帯びている。
「一騎打ちを所望する」
けして大声では無いが良く通る声だ。
パク・シルが前に出ようとする。
「余が行く」
「殿下!」
俺はパク・シルに顔を向けた。
何かを感じたパク・シルはそれ以上、何も言わない。
後ろに侍る両将軍もそれにならってくれた。
俺と村上が砂を踏みしめる音だけが聞こえてくる。
互いに後半歩余り踏み出せば、相手にぶつかる所で歩みを止めた。
浜風に乗って、香のかおりが漂ってくる。
そして、もう一つの匂いも感じた。
一瞬だったのか、一刻の時であったのか分からない。
周りの音が全て感じなくなり、視野の全てが村上で埋め尽くされた瞬間だった。
俺は小太刀を抜き、そのまま水平に走らせた。
目の前の村上は、上段に構えようとしたまま固まっていた。
首筋から血飛沫が一瞬飛び散ったが、それだけだった。
「……おみ……ごと」
村上が膝から崩れ落ちた。
合わせるように倭寇たち……大浦衆が頭を地面に擦りつける。
俺も自然に膝を折り、頭を下げた。
静寂が辺りを包みこんでいく。
村上は影腹を切っていた。
立っているのも辛いはずなのに、微塵もそれを感じさせなかった。
日本人の覚悟の程を改めて思い知らされる。
村上の館に俺宛の手紙と書きつけが残されていた。
手紙には、自身の首と引き換えに主家への詮議を控えて欲しい旨が書かれていた。
そして、綴じられた書付には攫われた朝鮮人達の名前と歳、出身地が記されている。
村上素十、立派な武士だった。
そして、そのような臣下を無碍に死なす、宗義智に改めて怒りを覚えた。
生存報告位しろ!の御叱責までいただき、正直情けないと共に
この様な私の事を気に掛けて下さる方がいらっしゃる事に望外の喜びを
感じております。諸般の事情により執筆が滞っておりましたが、
少しづつ進めて参ります。所謂、「エターナル」には致しません。
それだけは、お約束したいと思います。
今後共、よろしくお願い致します。




