対馬侵攻 【その3】
永らくお待たせ致しました、本日一話の更新です。
李舜臣、元均の両将軍は到着したものの兵が集らない。
この時代の軍制を考えれば当然の事なのだが、3000の兵など夢のまた夢状態でもある。
いや……正直、この時代の王命のある意味の軽さに呆れてしまった。
それぞれの責任者がなんやかんやと言い訳をするばかり。
時間はどんどん過ぎて行くが兵は集まらない。
集まった500足らずの兵を半分に分けて、それぞれの将軍に訓練させているだけ。
正直、兵糧だけがどんどん減って行く状態だ。
そんな中で漢陽からある意味で待ち侘びていた物が到着した。
氷雨商団に造らせていた船が届いたのだ。
当時の韓船を改良して、安全性と強度を高めた船だ。
加えて、追加となる兵糧も到着する。
国内の米の生産は安定している。
安価な米価を背景にして、兵糧を集めたのだ。
そしてもう一つ、兵器も運んできてくれた。
「木砲」がその兵器だ。
鋳造製の大砲の製造はすでに可能になっている。
しかし、海を渡る攻勢に大重量の大砲はリスクが大きい。
加えて、森林が深い対馬では大重量の兵器は邪魔になる。
そこで、「木砲」だ。
木製の大砲など、役に立つのか?と思われるだろう。
しかし、前世でも幕末まで木砲は利用された。
ただし、撃てても10発くらいだが……
しかし、加工の容易さで言えば金属より木だ。
前装式のため、ライフリングを刻む事は出来ないが、
十分に破壊力のある武器になる。
武器、兵糧、そして運送手段が揃った。
後は兵力だけだがこれ以上は待てない。
俺は出撃命令を出す事を決断した。
俺の補佐となる二人の将軍を呼ぶ。
「余は対馬への進軍を命ずる事とした」
「……」
二人は何も言わない、黙って俺の言う事を聞いている。
歴戦の将軍として言いたい事は山ほどあるだろう。
王世子とは言え、
こんな若造の言葉に耳を傾けてくれている。
この信頼に応えなければならない。
「まず、大浦を攻めこれを占領する」
「……大浦?」
「そうだ、捕らえている倭寇どもの本拠地になる」
「あの者達が白状したのですか?」
元均の疑問ももっともだ。
当然に連中は白状などしていない。
侵攻時間などを考慮して、前世の知識を元に弾き出した結論だ。
「大浦には対馬の港がある、そこを抑える」
「倭寇どもの手足を抑えると言う事ですか?」
次は李舜臣が尋ねて来た。
「そのつもりだが、それだけでも無い」
「と、仰られますと」
「後々には我が国の拠点ともなる」
「拠点……」
前世では、大浦は壬辰倭乱の時に日本軍の出撃拠点になっている。
その大浦を先に抑える。
俺が侵攻を急いだ理由もそこにある。
倭寇が大浦から来たと推測が立った時に、
大浦を抑える事を考えた。
これだけの数の男を倭寇として送り込んでいるなら、殆ど戦力は残っていない。
大浦を抑える事は後々の戦略に大きく影響してくる。
例え、後から取り返されたとしてもメリットは計り知れない。
国同士が緊張している時でも、商人は互いを行き来している。
朝日貿易の旨みを見逃す手は無いからだ。
俺もその旨みを頂戴する事にした。
親父……宣祖の許可も得ている。
資金力が無ければ、王世子としても、
後に国王となっても苦しむ事に他ならない。
その意味でも、この対馬侵攻は重要となる。
村上を始めとする倭寇も連れて行く。
ここに残しても意味は無いからだ。
「……大浦」
この事を告げた時、村上は一言もらしただけで黙り込んだ。
他の連中も複雑な顔をしていた。
何らかの形で自分達の村に朝鮮軍が侵攻するであろうとは思っていただろう。
しかし、いきなり「大浦を攻める」と言われて複雑なのであろう。
倭寇の連中は誰一人として、大浦からやって来たとは答えていない。
それがなぜ、大浦を攻めるとなったのか?と言う顔だ。
即ち、捕らえた倭寇が大浦からやって来たと白状しているようなものだ。
単純に対馬へ侵攻するなら、大浦ではなくもう少し西側の佐須浦へ上陸する。
または、ひと思いに浅芽湾から金田城を伺うかだ。
それが何故に大浦なのか、と言うところだろう。
しかし、これで目標も決まった。
俺は全軍に出撃準備を命じた。
出撃は三日後の早朝。
兵士達の間に緊張が走るのが分かる。
朝鮮王国にとって、数百年ぶりの外寇だ。
緊張するなと言う方が難しいだろう。
あっという間に三日が過ぎ、出撃の日を迎えた。
訓練された兵達は次々と船に乗り込んで行く。
俺の指示により、黙々と出撃準備を進めて行く。
この時代の進軍は派手に進むと相場が決まっている。
しかし、それは俺の教義とは相容れない。
わざわざ敵に侵攻を教えてやる必要は無い。
待ち構える敵に力押しをして、多大な犠牲を出して勝利しても意味は無い。
勝利条件は最低の損耗率で勝つ事だ。
そんな想いに浸っている内に俺の乗る船もゆっくりと動き出した。
模擬でも無く、小競り合いでも無い本当の「戦争」が始まる。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。
今後ともよろしくお願い致します。




