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大同契 【その3】

大変遅くなりました。

本日、一話の投稿です。

 俺は朝鮮通信使の復活、間違いなくそれで幾許かの危機は回避出来ると考えていた。

しかし、現実はそうも行かない。何より時期が悪かった。宣祖19年(1586年)は丁度、

九州成敗に着手した時で、仙石秀久の失策で豊臣勢が負けた時だ。


そんな時期に朝鮮から通信使が来ると言われても対応が出来るはずがなかった。

結果として通信使は延期となる。当然に対馬との関係は気まずい。

オマケに朝鮮側は対馬の偽使節を本物だと思い込んでいる節もある。

まあ、結論はその方が()()()()と言う大人の事情だろうが。


親父……宣祖ソンジョにしてみれば、腹立たしいの一言だろう。

この時代の対馬は、朝鮮に対しては()()だ。

それが通信使の受け入れを断って来たのだから当然だろう。


「対馬を懲らしめねばならぬ」


親父……宣祖ソンジョの目がかなりヤバイ。


「父上、お気持ちは分かりますがそれは下策かと」

「ホウ……下策か」


いや……マジでヤバい目をしてるよ。

どんだけフラストレーション溜めてんだよ。


「対馬を懲らしめた所で、何も変わらぬかと。むしろ、対馬が倭国へ近づく事になります」

「倭国に近づく??倭国に服属するとでも言うのか」

「その通りかと」

「……倭国へか」


この点、対馬が倭国……日本に帰属している事を知っているのは俺位だろう。

それ位に対馬は上手く()()している。


「……これでは、お前との約束を反故にする事になる」

「致し方無い事かと」

「替わりに何か望みはあるか」

「……倭国との取引を」

「……好きにするが良い」

「良し!」

「何か言ったか?」

「い……いえ、何も」


おっと、ヤバいヤバイ。

心の声が漏れ出ちまった。


本音は、牙符よりも日本との交易権の確保だ。

朝貢貿易の弊害で交易権はかなり管制の度合いが強い。

俺にすれば、結果オーライという所だろうか。



氷雨商団ヨナ・サンダンを通じて、倭国の商人と取引が始まった。

向こうからすれば、喉から手が出る程に欲しかった取引の様だ。

俺の元には交易品がかなり集まっている。


以前にキム一族からせしめた人参畑も取り入れの時期だし、

親父……宣祖ソンジョの配慮で官製品しか無い陶磁器も扱える。

加えて、米の対価として集まった綿製品もある。


俺とヨナは表に出ず、指示と報告を受けて取引をする。


王世子セジャ様、向こうの商人から硫黄も手に入るとの事です」

「そうか、まずは早々に見本を手に入れてくれ」

「御意」


氷雨商団ヨナ・サンダンの部屋で俺はユン・ミョンテと向かい合っていた。

倭国……日本からは主に鉱物が入って来る、銀だ。

俺はそれに加えて、銅と硫黄を交易品に加えたいと伝えた。

倭国……日本の精錬技術はまだ未熟なので、銀や銅からは金などが分離できる。

加えて、朝鮮半島では入手困難な硫黄が日本では簡単に入手出来る。

これで、準備が整って行く。


朝鮮王国では、黒色火薬の製法は知られていない。

当然に硫黄の精錬法も知る由は無いだろう。

しかし、俺は知識として硫黄の精錬法も知っている。


硫黄の精錬は然程、難しい訳でも特殊な器具が必要な訳でもなかった。

ただ、硫化水素が発生するため危険が伴うのである。

この点を如何にするかが、肝要でもある。


まあ、この辺は職人連中に丸投げするつもりだけどね。

王世子セジャの俺に作業と名の付くものをさせてもらえるはずが無い。

何でもかんでも自分でやろうとする事にも限界があるしね。


火薬はこれで何とかなったが、肝心の鳥銃……鉄砲はと言うと、

これが格安で入手出来た。

理由は簡単だ。ポルトガル人が叩き売りしているからだ。


日本が内戦状態で、多量の武器を欲していると知ったヨーロッパ人は、

挙って武器を持ってやって来た。

当初は売れたに違いないが、あっという間に国産が出回った。


通信技術の無いこの時代、情報の伝達は恐ろしく遅い。

当然に国産の重火器が日本で出回っている事を知らないポルトガル人は、

売れない重火器を多量に持ち込んだ。


結果、不良在庫を抱えるに至った、という訳。

それが、明国の商人を通じて朝鮮に売りつけようとした訳。

初めは、かなりの高額を吹っ掛けて来たが「日本製を買うぞ」

と脅してやったら、二束三文で売り渡して来た。


連中にすれば、鉄砲で損をしても硝石で儲ければ良いと考えていたのだろう。

どっこい、そうは行かない。

俺は既に数年前から、培養法で硝石の製造を密かに始めている。

連中が儲ける事は無い。


さて、鳥銃……鉄砲と黒色火薬が用意できた。

少しづつだが準備ができて来た。

次は実践あるのみか?と考えている所に

一つの急報が届けられた。


巽竹島ソンジュクトに大規模な倭寇が進行して来たと言うのだ。

後々に大同契テドンゲの乱に繋がる事件だ。

さて、この事件を上手く利用させてもらう事にしようか。


















ここまでお読み頂いた事、感謝いたします。

今後とも、よろしくお願いいたします。

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