大同契 【その2】
本日、一話の更新となります。
親父……宣祖から呼び出しが無くなって、1ヶ月近くが過ぎた。
そんな中、俺の内殿付の宦官が朝議の噂を聞いて帰って来た。
「……明国から朝貢の目録が来ただと」
「はい、かなりの量が記されている様です」
「……内容は分かるか」
「暫く、時を頂ければ」
「任せる」
「御意」
この宦官、中々使える様だ。
数日して、本当に内容を聞き出して来てくれた。
「今までより、3割増しの量を申し付けられた様です」
「……3割増し」
「加えて、金銀を収めよとの事です」
「金銀?!」
金銀の朝貢は昔は求められていた。
しかし、半島では金銀が取れないとして、
第4代国王 世宗の時代に朝鮮人参に代わったはずだ。
それを再びという事は、明国が相当窮していると言う事か?
加えて、3割増しの朝貢となれば財政を相当圧迫する。
今のこの国の財政力では厳しい。
「……朝貢を如何にして賄うかで朝議が紛糾しているとの事です」
「どの様に紛糾していると言うのだ」
「それは……」
宦官が聞きつけて来た情報によると、親父……宣祖は増税を考えているらしい。
それに対して、廷臣達の意見は割れている様だ。
東人……仁嬪に近い連中は増税を主張している。
親父……宣祖に取り入ろうと言う魂胆だろう。
加えて収税に合わせて泡銭を掴むつもりだろう。
イ・イやチョン・チョルを始めとする西人は反対している。
飢饉を乗り切ったばかりで、民に負担が掛かると言うのだ。
考えに間違いは無い、しかし西人の考え方は現実的でも無い。
純然たる事実として、朝貢の為に金がいる事に変わりは無いからだ。
俺は何やらきな臭い匂いがして来たと感じた。
情報を得ている事に気付いた訳でもあるまいに、
1ヶ月ぶりに親父……宣祖から呼び出しがあった。
「明から勅書が来た、知っておるか」
「……噂位でしたら」
「フン、噂位は、か。まあ良い。これを見てみろ」
親父……宣祖が勅書を差し出してくる。
本来なら受け取って俺に引き継ぐ宦官が居ない。
俺は直接受け取って、勅書を広げた。
勅書はかなり厳しい内容になっている。
全体として品目が増え、当然に量も増えている。
そして、最大の難問の「金銀」についても記されている。
求められている量は世宗の時代の時、そのままだ。
今のこの国の財政状況を考えるとかなり厳しい。
先の飢饉の時に民生費として使った金は、
キム・ゴンニョン一族の資産で賄えた。
しかし、元々朝鮮王国は貧しい国だ。
これだけの朝貢に耐えるだけの財政は無いだろう。
「父上……これは可能なのでしょうか」
「……難しい」
やはりか……
キム一族から押収した財産は莫大な金額だった。
前回、俺に財産を押さえられた事もあって動産……金銀に絞って集めていたらしい。
加えて、俺に押さえられた財産を上回る物が欲しかったのか……
賄賂一つにしても桁が違った様だ。
逆に言えば、それだけの財産を押さえたのに、
海州飢饉で全て消えてしまった。
あの飢饉がどれほど酷かったが分かると言うものだ。
「お畏れながら……父上は増税をお考えですか」
「……お前も余に逆らうのか?」
親父……宣祖の顔が剣呑になってくる。
俺に相談するという事も含め、かなり追い詰められている。
このまま追い詰めてしまうと仁嬪派……東人が力をつけてしまう。
「私は増税が必ずしも悪いとは申しません」
「そうか!!賛成してくれるか」
親父……宣祖、どんだけ追い詰められているんだよ。
子供に見せる顔じゃ無いよ。もう少し威厳を持てよ。
まあ、口にはしないけど。
「ただし、今すぐ……今年は見送るべきかと」
「では、今年の朝貢は如何にするのだ」
「……私が用意致します」
「……」
俺は海州飢饉の時に氷雨商団を通じて米を用意した。
その代金は全て精算が終わっている、当然だ。
国家として、一商人に借りを作ったままでは面目が立たない。
キム・ゴンニョンの資産を押さえた中で一番に精算された。
俺とヨナの資産……氷雨商団の資産は国家予算に匹敵する程度はある。
「何が狙いだ……」
「……国家の緊急事態なれば、王世子としての務めでございます」
「……戯言を言うな、何を狙っている」
「さすれば……牙符を改めて頂きたく存じます」
「牙符?」
親父……宣祖は一瞬、分からなかった様だ。
当然かも知れない、放置されて時間がたっている。
実務的には重要だが、内政にはほとんど関係が無い。
牙符……日朝朝貢貿易に使われた割符だ。
室町幕府の時代に始まって10組つくられたはずだが時間と共に紛失され、
この時代では現存品を全て対馬が押さえていたはずだ。
対馬一国に朝鮮との国交を押さえられていた原因の一つでもある。
今のうちに改めておくに越した事は無い。
今のタイミングで牙符を改める事で対馬の独占は失われる。
当然に俺にも旨味がある。
牙符を通じて朝貢貿易に関われる。
貿易は経済的な旨味もあるが情報も手に入る。
「……まだ、商人の真似事を続けるつもりか」
「……備える為でございます、いかな事にも」
親父……宣祖の眉が動く。
あんまり煽るのも良く無いか。
「政務に関われぬ故の戯事とお許し下さい」
「……儒者から批判を受けるぞ」
「余り目立たぬ様に努めます」
「牙符を改めよう。良いな」
「父上、ありがとうございます」
牙符の更新は対馬にとっては寝耳に水だった様だ。
貿易の拡大を望んでいた癖にかなり慌てていたらしい。
当然だろう、牙符の更新を対馬で行う訳にはいかない。
当然に京まで行く事になる。
前世より数年早く、通信使が送られる事になった。
対馬宗氏の思惑を破る為の通信使だ。
さて……歴史がまた大きく変わった。
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