表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/84

寺党(サダン)と体探人(チェタミン)と 【その3】

本日、一話の投稿です

「臨海君、何を望んでいる」

「何をと申されますと」

「地方のことを探らせて()()しようとしているのだ」


親父……宣祖ソンジョの目は訝しさに包まれている。

ここで口先で言い逃れをしてもロクな結果にならない。


「私は民の暮らしぶり、地方の産物などを知りたいのです」

「そのようなものであれば、書物を読めば書いてあろう」

「それは違います。私は()()()()()暮らしぶりを知りたいのです」


親父……宣祖ソンジョの目が剣呑さを濃くする。


「何よりも私の目的は民の安寧でございます」

「……民の生活を知る事が何故に民の安寧に繋がるのだ」

「民の暮らしぶりを知ることにより、何が必要かを見極めるためです」

「……見極める?」


俺は親父……宣祖ソンジョにこの国の課題を説いて聞かせた。

内容は農業と流通について。

地域によって気候の異なるこの国においては画一的な農業はリスクが高い。

地域毎の農法と作物を分けて営農するべきだと力説した。


「それでは、米を作り難い北部や山手などはどうするのだ」

「米以外の作物を作ります」

「では、税はどうするのだ」

「米以外でも収める事を認めれば良いのです」

「それでは国庫が賄えぬのではないか」

「農民以外にも税を納めさせれば良いのです」


親父……宣祖ソンジョは黙り込んでしまった。

貢税は朝鮮の農民を苦しめた重税法だ。税の負担と賦役の負担を農民にだけ押し付ける法だ。

俺は国の根幹をなす税法に真っ向からでは無いが異を唱えた。


俺の考え方は数十年先の大同法デドンボプの考え方を先取りしたものだ。

しかし、この考え方は親父……宣祖ソンジョも知っているはずだ。

1569年に弘文館クンムンガン校理キョリだったイ・イが代貢収米法を提案している。


「……イ・イと同じ事を言うのだな」

「……」

臨海君イメグンあまり無茶をして王妃ワンフに心配をかけるな、良いな」

「御意」


俺はこうべを垂れながら、キム・ゲシに視線を送った。

親父……宣祖ソンジョは俺の視線に気づいて表情を崩した。


「この者は余の特別尚宮トクピョルサングンだ……と言っても信じまいな」


親父……宣祖ソンジョのセリフにキム・ゲシの眉が僅かに動いた。

意訳するなら、『何言ってやがるこのオヤジは!!』と言うところだろうか。


「そちは体探人チェタミンを知っているか」


今度こそ、キム・ゲシの表情が動いた。『何ペラペラ機密を喋ってやがるんです、このタコ!!』と言うところか。


「……噂位は」


俺はここまで答えるのが精一杯だった。威圧が半端ないからだ、主にキム・ゲシからの。


「そうか、()()なら知っているか……王しか知らぬ事なのだがな」

「それは……」


やられた……誘導されたか。


「まあ良い。ならば体探人チェタミンの仕事も知っていよう。そちがやろうとしていた事そのままだ」

「……広く国内を見て回ると言うことですか」

「そうだ。体探人チェタミンは王の目であり耳である。目と耳は王宮内にもあると言うことだ」

「……私は王様の目と耳に助けられております」

「ふ……そう言うこともある」


親父……宣祖ソンジョは何を考えているんだ。

俺に体探人チェタミンの事をあかしたり、キム・ゲシの正体をバラしたり。

記憶に残る宣祖ソンジョは優秀ではあったが、優柔不断であった事も有名だ。

そのお陰で何度も決断を誤り苦境に陥ってもいる。


しかし、今の宣祖ソンジョはそんなそぶりは微塵も見せない。

それどころか、幾つもの判断を瞬時にして見せている。


「臨海君よ、そちの為そうとしている事は咎めん。しかし大きな事を見つけた暁には余に知らせよ、良いな」

「御意」


結局、俺は何を咎められる事も無く便殿ピョンジョンを後にした。


俺はアムボムの寺党サダンと約束を取り交わした。

情報を集めてくる事、その対価を支払うと言う内容だ。

前払いとして幾ばくかの資金を渡してやると、当座の生活が出来ると喜んでいた。


前払いを渡した事を少しばかりソン・ヨナから咎められたが、必要資金だと割り切った。

後はアムボムが帰ってくるのを待てば良い。その成果を検証して次を考えるのだ。


アムボムの噂を聞きつけて、いくつかの寺党サダンがやって来た。

俺はそれらの連中には前金を渡さず、今までの旅の話を聞く事で金を渡してやった。

そして、今後も新しい情報を持ってくれば金を支払うと約束した。


そんな事をしているうちに秋が近づいて来た。

この年、初めての大豊作の年に国が湧いた。

そして、王宮では一つの献策が大きな議論を呼ぶ事も無く親父……宣祖ソンジョによって採択された。


『十万養兵論』


前世では、強い反発にあって取り上げられなかったイ・イの最後の献策だ。

それが、今世では大豊作に沸く流れに乗って認められるに至った。

今回の大豊作はそれ程までに大きかったのだと言う事だ。


親父……宣祖ソンジョはあれから、時々俺を便殿ピョンジョンへ呼び出す様になった。

話しの内容は主に寺党サダンが集めて来た情報の開示だが、加えて情報への意見も問われた。


俺はいつの間にか、親父……宣祖ソンジョの情報分析官になっていた。

親父……宣祖ソンジョ、人を使うなら禄を出せよな。

まあ、養われているのだから文句は言わないが……











此処までお読み頂き、感謝致します。

皆さまから頂いた、ご感想、ご評価そしてブックマークが励みになっております。

今後ともよろしくお願いいたします。


※ 十万養兵論について

この献策は韓国の歴史学者の間では真贋の議論があると聞きます。

私は実録シルロクに記載がある事から真とさせて頂きました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ