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稲作への挑戦 【その4】

本日、一話の投稿となります。

枯木にボロ布を巻き付けると丁度こんな感じになる……

俺がチョヌに最初に抱いた感想だ。


「お前が小作人のチョヌか」


男は黙って頷くだけだった。村長が何か言おうとしたが、俺はそれを手で制した。

チョヌの目つきが只の小作人のそれとは違ったからだ。


「村長、案内ご苦労様でした。」


俺の気持ちを察したのかソン・ヨナが村長を先に帰らせた。

やや、不服気味ではあったが村長は踵を返して帰って行った。

村長の姿が小さくなるのを確認して俺はチョヌに話し掛けた。


「もう一度聞く、お前は小作人の()()()か」

「……何が言いたい」


チョヌの目つきが剣呑さを孕ませて来た、面白い。

パク・シルも何かを感じた様だ。雰囲気が一変する。


「まあ、いいだろう。私はソン・ジンと言う、この土地の新たな地主だ」

「……」

「俺はこのタプで新しい稲作を始めたい。今日はその相談だ」

「……決まり通り税を納めれば、それで良いだろう」

「……俺は新しい稲作と言った。税の話は後回しだ」

「……」


中々、本性を表さないな。このチョヌという男、ただの農民では無いな。

何より、目付きが違う。言うなれば、知性のある目付きだ。

ただ、言われたままに()()()()()()()では無い。

そして、パク・シルも感じた通り、荒事にも長けているのだろう。

隙が無い、今も自然に庇う様に家の入り口を塞いでいる。

まあ、コイツが何者でもいいか。今は農業の事だ。


「今までより仕事の量も増える、その分は報酬を支払う。」

「……詳しく教え……いや、詳しく教えて貰えますか」


チョヌも切り替えたのか話に乗って来た。俺は計画している事の概要を話して聞かせた。


「先ずはタプを掘り返せばいいのか」

「そうだ、六寸から一尺程で良いので、掘り返して土を砕いて欲しい」

「時間が掛かるが構わないか??」

「十日程度で終わって欲しいな。ああ……道具はこちらから貸し出す」

「道具??」


俺の説明には怪訝さを隠さなかったが、収量は保証すると言うと納得した。

作業手順の説明は求めなかったが、作業工程にはやや不満がある様だ。

まあ、理由は分かる。俺の求める耕起作業をするのはかなりの時間が掛かる。

但し、今使っているだろう()()で作業を進めた場合だ。


「そうだ、こちらから道具を貸し出す。それで作業をやればいい」

「……分かった」


まあ、納得はしていないわな。しかも耕起作業は重労働だ。

それを短期間でやれと言われれば、普通は納得はしない。

ただし、普通の鋤で耕起作業をした場合の話だ。


俺は記憶の中から、ある道具を作る事にしている。

「はねくり備中」と呼ばれる、大正時代に考案された農具だ。

考案されてから機械化の波が押し寄せるまで広く利用されていた。

牛など飼う事も出来ない小作人には便利な農具のはずだ。


「それと労賃は先に払う、それでいいか」

「本当か」


チョヌの顔色が変わった。まあ、そうだろうな。

小作人に作業が増えたからと言って労賃を払う地主などいない。

おまけに先払いだ。信じられないだろう。


数日後に道具を届けると約束してチョヌと別れた。

俺に提案には乗って来たが、最後まで警戒を解かなかった。

中々に面白いヤツだ。


馬を待たせている場所まで戻ると、村長が待っていた。

何を言いたいのかと思ったが、要は税をキッチリとして欲しいと言う事だけだった。

その点は間違い無いと言うと納得して解放された。

馬に跨ってしばらくして、村から離れるとパク・シルが話し掛けて来た。


「……あの小作の者、ただの百姓ではありません」

「お前もそう感じたか」

「はい、武人と言うわけではないのでしょうが……」

「……両班(ヤンバン)崩れ……か」

「……御意」


俺達の感じた違和感、それは農民が持ち得ない雰囲気をあのチョヌが醸し出していたからだ。

ただし、普通は両班がいきなり小作人になる事は無い。

逆に転落コースなら奴婢ノビまで行く場合だ。


「逃亡奴婢……」


ポツリとソン・ヨナが言葉を漏らした。


「こんな漢陽ハニョンに近い場所に逃亡奴婢が」

「……灯台元暗しと申します。あり得ぬとは言えないかと」


なるほど……元両班の逃亡奴婢か……面倒な匂いはするが、まあいい。

俺は農業ができればそれでいい。


「……推奴チュノが嗅ぎつけると、少々面倒にはなりますが」


パク・シルも懸念はある様だ。

推奴チュノは俺も記憶にある。この時代の賞金稼ぎの様な連中だ。

逃亡奴婢の追跡を請け負って生業にしている連中だ。

ただ、悪どい連中もいて、逃亡奴婢を捕まえて転売したりがあって後々に禁止されたはずだ。


「まあ、それもこれも、あのチョヌと言う()()()の働き次第だ」


俺はそうして、チュノの疑惑については切り上げた。

確かに厄介ごとの匂いはプンプンするのだが、まずは農業だ。


氷雨商団ヨナ・サンダンの店舗に帰り着くと早速、農具の図面を描いた。

先にしておく事も出来たが、まずは小作人に会って見てからとも考えていたからだ。

基本は畜力に頼らない農具のみだ、ただしコストはケチらずに近代農具の性能を持たせる。


この時代に農具に金属を使う事はまだ普及していなかったはずだが関係無い。

鍬、鋤などに加えて「はねくり備中」も当然に作成する。


あと、俺を悩ませているのは「温度計」を以下にするかだ。

稲作の大敵として知られているイモチ病には温湯消毒が有効だが、温度管理が必要になる。

加えて苗を育てるためにも温度計は必要だ。

俺が思考に落ちていると、ソン・ヨナが小さく声を出した。


「あ……」


油皿に油を加えようとして、零した様だ。

相変わらず、そそっかしい所は残っている。


臨海君(イメグン)樣、申し訳ありません」

「大事無い、気にするな」


俺はこぼれた油が床を流れる様を、何気なく見ていた。

この季節、温突オンドルで温められた床は暖かい。

温められた油は水の様に流れている。


「そうか!!これだ」


俺の頭に一つのアイデアが浮かんだ。


「ソン・ヨナ!よくやった!!」

「え??え??何がでこざいますか??」

「よく、油をこぼしてくれた」


ソン・ヨナの顔には一面にクエスチョンマークが張り付いている。

俺は温度測定方法に光明を見出せた。

さて、これでまた一歩進んだな。


ここまでお読みいただき感謝致します。

頂きました、ご評価、ご感想そしてブックマークが励みになっております。

今後ともよろしくお願い致します。



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