審判の結果
本日、一話の投稿になります
チェ部将が噛み付かんばかりの勢いで吠えている。
その時だった。壇上にもう一人の登場人物が現れたのだ。
「この審判、暫く待ってもらう。先に国王様より捕らえて参れと命じられた大罪人を捕らえさせてもらう。良いな、左捕盗大将」
入って来たのはイ・イだった。イ・イは官服を来ている。左捕盗大将は黙ってゆっくりと頷いた。イ・イの登場と共に義禁府の兵が雪崩混んで来て周りを取り囲んだ。
何だ、義禁府が出張る様な事件かこんな審判が。
「証人を連れて参れ!」
普段のイ・イからは想像もできない厳しい声が響いた。
すると、建物の向こうからユン・テス達が何人かの男達を連れてきた。
官服は着ていないが、只の犯罪者とは違う雰囲気がある。
ユン・テス達が捕えた、左捕盗庁の従事官達だろうか。
「証人に命じる。一昨夜、誰から何を命ぜられたかもう一度ここで申せ」
イ・イの厳しい物言いに誰も声を発する事ができない。
チェ部将が真っ青な顔をして俯いている。
やがて縄を打たれた男達の内の一人が話し出した。男は足に怪我をしているのは手当の跡がある。
「……チェより、氷雨商団を襲い中身を全て奪って来いと命ぜられました」
部将が従事官に命じる?そんな事があるのか……何かもっと大きなモノが蠢いている。
この事件は何かがある。
「……罪人に縄を打て。詮議は義禁府にて行う」
チェ部将を始め左捕盗庁の役人はほぼ全員、それこそ先程の参奉や茶母に至るまで縄を打たれて連れて行かれた。一体何があったんだ。残されたのは「被告」と俺達外知部、それになぜか左捕盗大将が残っていた。
そんな左捕盗大将にイ・イが語り掛ける。
「ご苦労だったな。都に帰って早々に大役だった」
「いえ、大監のお役に立てて光栄です」
左捕盗大将はイ・イに立礼をした後、俺達に話しかけて来た。
「大罪人を捕らえる為とは言え、無実の者達を捕えた事を私から詫びよう。また氷雨商団が被った損失があれば補填せよと命を受けている。遠慮せずに申し出るが良い。ただ、今日は見ての通りだ。一旦引き上げてくれ」
俺はソン・ヨナに目配せした、代表者はソン・ヨナだ。
「承知いたしました。左捕盗大将様にお言葉を頂き皆も気が晴れたと存じます。失礼ではありますが女人や家族がいる者もおりますのでこの場で失礼いたします」
打たれていた縄は義禁府の兵達が解いて行ってくれた。ここにいても仕方ないので俺達は引き上げる事にした。その時、チョンチョルが近づいて来て俺ではなく闘銭房の行首に声を掛けた。
「ユン・ミョンテ(尹明秦)ではないか……やっと表舞台に帰って来る気になったのか」
「……どちら様で?と言う芝居は通用せぬな。チョンチョル……いや今はチョン大監様か」
チョンチョルが嫌そうな顔をした。何気に行首の言葉遣いも変わっている。
オマケにいつものチンピラ然とした雰囲気が消し飛んでいた。何なんだ、これは。
「……その物の言い方は変わらぬな、ユン・ミョンテ。チョンチョルで良い。お前に『大監』などと呼ばれると背中が痒くなる」
二人は知り合いだったようだ、それも唯の知り合いではなさそうだ。
何より行首が『姓』を持っていたとは知らなかった。よく考えて見れば名前も知らなかったけどな。まあここは二人を置いて先に帰るべきだろう。
「行首、先に帰る事にする。チョン『大監』様、失礼いたします」
俺が『大監』様と言うとチョンチョルは何とも言えない顔をしていた。
シナリオの変更を教えなかった仕返しだ。
左捕盗大将がこちらに来たそうな雰囲気を醸し抱いていたが、目で制した。
今日はお互い知らぬ振りの方がいい。
俺たちはぞろぞろと歩いて氷雨商団の店舗へ帰り着いた。店舗には家族や二組の集金人が待っていてくれた。ソン・ヨナは全員に「迷惑料」だと言って1両ずつ配ると「ゆっくりと体を休めるように」と言葉を添えて帰宅させた。
普段は少年達が四人組になって夜番をするのだが、その日は全員を帰宅させた。
「……臨海君様、実はお願いが……」
「言わなくても分かっている。パク・シル、疲れているところを済まぬが今夜もう一晩、見張りをつけてやってくれ」
パク・シルは疲れた顔も見せずただ一言答えてくれた。
「御意」
パク・シルは護衛の手配をする為に先に内殿へ帰った。氷雨商団の店舗の中には俺とソン・ヨナの二人だけが残っている。外は数人の護衛が見張っていてくれるが、
俺たちは念の為、パク・シルが帰ってくるのを待つ事にした。
その時だった、ソン・ヨナが俺に抱きついて来た。
「!」
俺は咄嗟に言葉が出なかった。抱きついたソン・ヨナは小さく震えている。
「臨海君様、無礼をお許し下さい。少しの間だけこうさせて下さい」
「構わん、好きなだけそうしていろ。ソン・ヨナ、お前が頑張った褒美だ」
俺の小さな体に抱きついたソン・ヨナが小さく頷くのが分かった。
失念していた。
ソン・ヨナもまだ十代の少女だ。
前世の日本では親の庇護の元、不安無く生活しているのが殆どだ。
それが夢だったとは言え商団を幾つも束ねる大行首になり、昨日から幾人もの命を掛けた審判を受けたのだ。この小さな身体が押し潰される位の不安と責任を感じていたのだろう。俺は自然とソン・ヨナを抱きしめる体制になっていた。
前世の最後位の体格があれば画になっていたが、他人が見たら姉に抱きつく弟だ。
だが今の俺達にはこれが自然な姿だ。ソン・ヨナの体温がゆっくりと伝わってくる。
そう言えば他人の温もりを感じたのはいつ以来だろう。
俺達はしばらくの間、互いの温もりを感じあっていた。
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