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審判の行方

本日、一話の投降をさせて頂きます。

 俺たちが審判場に着く頃には関係者は殆ど揃っていた。

被告側には縄を打たれた元妓生と少年達、原告側には見た事のない男が二人座っていた。

前世で言う所の検事役は普通、従事官チャンジグンが行うが今日はなぜだかチェ部将プジャンが座っている。

まあ、人員不足を理由に出張って来たんだろう。後は左捕盗大将サポドテジャンとチョン・チョルの登場を待つだけだ。実は俺は、左捕盗大将サポドテジャンの顔も名前も知らない。


 情報をもらっていた左捕盗大将サポドテジャンは最近になって配置換えになったと言う事だ。

新しい左捕盗大将サポドテジャンは地方から昇格したらしいが……

そんな事を考えていると件の左捕盗大将サポドテジャンとチョン・チョルが入って来た。


尋問所と違って拷問道具はないが雰囲気は『お白州』だ。俺は今回、見上げる側にいる。

チョン・チョルより一段下に座った左捕盗大将サポドテジャンは3年前の「なんちゃって科挙」の時には違う役職でもいなかったので地方に長くいたのだろう。

地方官によっては実入りが『美味しい』から移動をしたがらない奴もいると聴く。それが都へ栄転して来たと言う事は『何か』あると言う事だ。警戒するに越した事はない。

そうこうしている内に左捕盗大将が話しだした、まだ若い声だ。


「本日は承政院スンジョンオンよりチョン大監テガン様の御臨席を頂いている、皆の者は心して審判を受ける様に。ではチェ部将プジャン始めてくれ」

「はは!左捕盗大将サポドテジャン様。そこの縄を打たれている者達は『氷雨商団ヨナ・サンダン』を名乗っておりますが国法に背いたので捕らえました」


左捕盗大将サポドテジャンは黙って聞いている。


「罪状は妓生でありながら商団サンダンの仕事をした事。また貸した金を集金と称して証文以上にだまし取った事であります」


ファニが代表して反論した。


左捕盗大将サポドテジャン様、妓生が商団サンダンの仕事、商売をしてはいけなと決まっているのですか」

ファニの問いに左捕盗大将サポドテジャンではなくチェ部将プジャンが答えた。


「妓生は芸を売るのが仕事、賎民が一人前の事を言うな」


俺の頭の中で何かが切れた音がした。


「反論をしたいのですが、宜しいですか」


左捕盗大将サポドテジャンが俺を見て黙って頷こうとした時にまたチェ部将プジャンが口を開いた。


外知部ウェジブが何の反論だ。第一、ここは子供の遊び場ではない。外知部ウェジブの者よ、反論が有るなら言ってみろ」


チェ部将プジャンは俺以外の大人に言ったのだろうが俺は構わず半歩前へ出た。


「私が代訴人テソンインです、反論を始めても宜しいですね」


チェ部将プジャンは嘲笑う様な顔をして俺を見た。


「お前の様な子供が代訴人テソンインだと、面白い。ならば反論をしてみよ」


チェ部将プジャンは周りの取り巻きの様な連中と笑い声を上げている。

左捕盗大将サポドテジャン、訴訟指揮をしろよ。お前の仕事だろ。


「では、反論を始めます。まず、經國大典キョングクテジョンによると妓生は「芸」を生業とする事を認められては居ますが「芸」以外を売ってはならぬとは書いてありません。以上より部将の訴えは意味のないものです」

「ガキが何を偉っそうに言っている。第一、お前は經國大典キョングクテジョンを読めるのか」


チェ部将プジャンが反論に成らない反論をして来た。俺は左捕盗大将サポドテジャンの方を見て何か言えと言葉に成らない言葉で催促した。左捕盗大将サポドテジャンはチョン・チョルの方をちらっと見てから重そうに口を開いた。


「チェ部将プジャン代訴人テソンインの言う通りだ。妓生が商売をしてはいけないと言う法はない」


チェ部将プジャンの顔色が変わった、恥と言うより怒りに近い変わり様だ。

どうも奴のシナリオ通りに進んでいないな。


「……左捕盗大将サポドテジャン様。私には意味がわかりかねるのですが、どう言う意味でしょうか」


ヲイヲイ……自分の上司を脅かしてどうすんのよ。チョン・チョルまで苦笑いしているぞ。

左捕盗大将サポドテジャンよ、何とか言え。お前はここの最高責任者だろうが。

助け舟を出してやるか、早く終わりたい。


左捕盗大将サポドテジャン様、仰りたいのは被告とされた者達は全員無罪と言う事で宜しいですね」


左捕盗大将サポドテジャンは小さく頷いている。何が有るんだ、この左捕盗庁サポドチョンには。


「……そう言うこ」

「まだ、ありますぞ。証人もおります。」


何か凄いな……身分差の激しい朝鮮王国で上司の発言を遮るなんて。この部将プジャンに一体何が有ると言うんだ。その点の興味が湧いて来た。その時に闘銭房トウジョンバン行首ヘンスが耳元に小声で話しかけて来た。


「……坊ちゃん、お気をつけて下さい。何か企んでいる様子がございます。あの二人をご存知ですか」


俺は首を振った。全く知らない顔だ。ソン・ヨナの方を見ても首を振る。

何者なんだあいつらは。行首ヘンスがまた耳元で囁いてくる。


捕盗庁ポドチョンには偽の被害者や証人を立てる者がおります。十二分に警戒して下さい」


偽の被害者や証人とは……何でもありだな。

しかし、行首ヘンスよく知っているな。なんならお前が代訴人テソンインやるか?


「この者達は氷雨商団ヨナ・サンダンに金を借りたものの、借用書以上の利子を取られたと訴えた者達でございます。左捕盗大将サポドテジャン様、この者達の訴えをどうぞお聞き下さい」


左捕盗大将サポドテジャンは小さく頷いた、聞くと言う意味だ。行首ヘンスがさらにアドバイスをくれる。


「……お坊ちゃん、帳簿と例の集金帳はお持ちですか」

「ソン・ヨナが持って来ている」

「それならば大丈夫ですな……あやつらの証言の後にまず、あやつら自身に『誰が』集金人か答えさせて見て下さい。さすれば奴等の嘘が判るかと」

行首ヘンス、分かった。やってみよう」


行首ヘンスとの打ち合わせの内に証人とやらの証言が終わったらしい。全然聞いてなかったわ。


左捕盗大将サポドテジャン様、証人達の訴えの様に氷雨商団ヨナ・サンダンはややこしい利子と集金人を毎日行かせる事で民を欺いたのでございます」


チェ部将プジャンよくそこまでセリフ覚えたよな。では俺は行首ヘンスのアドバイスに従うとするか。


左捕盗大将サポドテジャン様、証人に聞きたい事が有りますがよろしいでしょうか」

「何を聞いた所で事実は変わらんぞ」


チェ部将プジャン、お前はいつから左捕盗大将サポドテジャンになったんだ?俺が話してるのは左捕盗大将サポドテジャンだ。

左捕盗大将サポドテジャンはチェ部将プジャンの方をちらっと見ると俺の方を向いて頷いた。


俺はそれを了解の合図と捉えて証人の内で落ち着きのない方を選んで質問した。

落ち着きがないのは疚しい事が有る時と相場が決まっている。

こう言う時には下手に出るに限る、プレッシャーが掛るからな。


「あなた、そちらの貴方にお聞きします。貴方の元へ毎日伺った集金人はどの者でしょうか。毎日顔を合わせていたのですから、分からぬはずはございませんよね」


案の定、男は目を彷徨わせていたが、チェ部将プジャンにせっつかれて一人の女人を指差した。

それはこともあろうにファニだった。チェ部将プジャンの顔つきが歪んだ。ファニは集金人ではない。


「その女人は元妓生ですが、集金人では有りませんよ。さて、そう言えば貴方のお名前をまだ伺っておりませんでしたね」


男は慌てて、キョロキョロしだした。


「もう一度、お伺いします。貴方のお名前は!」


俺は最後に少し声を荒げて相手を問いただした。


「キョル、キョルと申します」


子供相手に敬語を使ってやがる、雰囲気に飲まれてきたな。


「キョルさんですね、判りました。ソン大行首デヘンス、帳簿を確認してくれ」


ソン・ヨナは俺の真意を正確に汲み取って、帳簿から『キョル』への貸付額、返済状況と集金人を確認してくれた。


「キョルさん、もう少しお付き合い下さい。この帳簿によるとあなたの集金人はあのファニではなく、右端にいるジリが集金に行っている事になっています。見間違えましたか?」

「あ……あ……」


キョルは何も言えなかった。いや、何も言えないのだ。ファニもジリも共に美しい女人だがタイプが全然違う。俺はここでジリに少し話をさせる事にした。


左捕盗大将サポドテジャン様、どうも話しがおかしな方向へ行っております。集金人のジリに証言をさせても宜しいでしょうか」


またチェ部将プジャンが何か言おうとしたが、今回は左捕盗大将サポドテジャンが目でチェ部将プジャンを制した。

左捕盗大将サポドテジャンの顔つきも先ほど迄とは打って変わって厳しいモノに変わっている。


「証言を許す、但し手短に」

「感謝します左捕盗大将サポドテジャン様。ジリ、キョルさんの集金の状況を簡単に話してくれ」


 ジリは黙って頷くとある事実を話し出した。


「キョルさんの御宅へは私が集金に行っています。しかし、キョルさんは私が行く頃になると姿を消して何時も奥さんから集金させて頂いています。何度か集金額に足らなかった日があったのですがその時は簪を預けて下さり、翌日には必ず用意して下さいました。その事は集金帳に全て書いてあります」


皆の視線がキョルに集まり、キョルは下を向いたままになっていた。


左捕盗大将サポドテジャン様、帳簿と集金帳をご確認下さい」


 俺はソン・ヨナから帳簿と集金帳を受け取ると左捕盗大将サポドテジャンの元へ持って行った。

その時チョン・チョルが吹き出しそうになるのを堪えている顔が見えた。

中々の「出し物」だろ?あとでお捻りをはずめよ。俺は知らなかったのだが、おっさんは俺のシナリオにさらに修正が入っているのを知ってやがった。


「そんな物は証拠にはならん、そうでございましょう左捕盗大将サポドテジャン様」


チェ部将プジャンが噛み付かんばかりの勢いで吠えている。

その時だった。壇上にもう一人の登場人物が現れたのだ。



ここまでお読み頂き感謝いたします。

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