氷雨商団(ヨナサンダン)始動
資産の内から空き家を改装して氷雨商団の本店とし、職人を呼んで改装を頼む。
大きな建物だったので改装後は部屋数も結構ある立派な本店になった。
改装を進めている間に人材を集める事にする。
闘銭房の行首に聞くとゴロツキはゴロツキでそれなりに仕事がある。結果として氷雨商団へはゴロツキ見習いと言う感じの不良少年が数人やって来た。当然、文字の読み書きや計算はできないので力仕事や雑用係として仕事を割り振る。行首や兄貴連中に相当脅されて来たのだろう、彼らの仕事振りは予想に反して何の問題もなく寧ろ庶民よりよく働くように感じる。
次は集金人と事務仕事を頼む妓生の確保だ。
ソン・ヨナもさすがに話しは知っていても知り合いはいないと言う事だ。
パク・シルに至っては言うまでもない。俺達は譲り受けた妓房の行首を個別に訪ねて行った。これが結果として正解だった。
「貴方様が新しい主人様ですね」
どの妓房へ行ってもこう声をかけられるのは決まってパク・シルだった。
「……いや、私ではない。このソン・ヨナが『氷雨商団』の行首だ」
「え?」
最初に行った妓房の行首は暫く惚けていた。口を開くとパク・シルが新しい商団の行首でソン・ヨナは妓生希望の新人だと思ったそうだ。ついでに俺は妓房の下働き候補の子供と思われたらしい。俺は一度着てから気に入って外出の時は生成りのチョゴリとパジを着ている。確かに見た目は行首の言う通りだ。
俺たちは妓房の執務室に通された。ちょっとした会議室になっている。
「では、このむす……」
「ソン・ヨナと申します。以後、お見知り置きを」
ソン・ヨナが無難な挨拶をする。行首の目は次にパク・シルに向く
「では、こちらの方は行首の護衛の方ですか」
「いえ、パク様はイメ……んん、お坊ちゃんの護衛です」
「お坊ちゃん!?」
行首の声が裏返る、それはそうだろう。護衛が付く様な「お坊ちゃん」はこんな格好はしていない。それこそ以前に着ていた両班のバカ息子風がまだ分かりやすい。
「行首、故あってこの様な身なりだが、私はイ氏に属する者だ」
嘘は言ってない。ただ、あまり王族と言うことを言いたくないだけだ。
「……イ様のご子息ですか……」
行首は頭の中でイ(李、伊、異)と言う姓の両班の顔をチェックしているだろう。
行き当たる事は無いと思うが……親父……宣祖もお忍びの外出くらいしているから絶対とは言えない……本名で遊ぶ様なバカな事もしていないとは思うが。
「私共の氷雨商団は、イ家のお坊ちゃんから出資を受けております」
「……お坊ちゃんから出資でございますか……!もしかしてキム様の資産をうばっ……預かられたと言う」
「行首そこまでにしてくれ。私はこれからもこうして行首と会いたいのでな」
この行首は俺の正体に気づいた様だ、さすがに妓房を任されているだけある。
「分かりました。ではこれからは何とお呼びすれば良いのでしょうか?失礼ながら、イ家のお坊ちゃんですと、何人か常連のお客様にもいらっしゃいますので……」
中々難しい事を聞いてくれる。さすがに妓房ではイ・ジンと言う名では気が付く者もいるだろう。特に読書堂で寝ているおっさん辺りとはいつか顔を合わせそうだ。
「……ソン・ジンではいけませんでしょうか。大変失礼なのはわかっていますが」
珍しくソン・ヨナが大人しい話し方で提案して着た。俺は別に構わない。
パク・シルの方を見ると小さく頷いている。
「ではそうしよう。行首、これからはここではソン・ジンと呼んでくれ」
「承知いたしました。ソン・ジンお坊ちゃんとお呼びさせて頂きます」
俺の呼称問題でいらない手間を食ったが本題に入る。行首は最初、怪訝な顔をしていたがソン・ヨナが一牌を上がった者の事を話し出すと納得してくれた、それ以上に好意を示してくれたのだ。
「それでは氷雨商団では妓生上がりの女人を「人」として使っていただけると言う訳ですね」
「そう考えて頂いて問題ありません、一牌の方は私以上に教養もお持ちと伺っております。お願いする仕事は沢山あります」
「分かりました。何人か心当たりがございます、まずはその者達に聞いてみましょう。その上で行首にお会いいただければと考えます」
「感謝いたします。行首」
数件回った妓房では大体同じ様なやりとりをして話がまとまった。
数日後に面接と言うか会って見る事になりそうだ。幾つか妓房を周り、そろそろ宮殿へ帰ろうかと言う道すがらパク・シルが何かを言いたそうにしている事に気づいた。
「パク・シル、何か気になることでもあるのか。遠慮なく言ってくれ」
俺が声を掛けたタイミングでパク・シルがソン・ヨナに訊ねた。
「……小間使いを一人、雇う事は可能か」
「小間使いですか?そうですね…闘銭房から来たのは男の子ばかりですし一人位なら小間使いの子が欲しいですね」
パク・シルの顔が明るくなる。俺は何となく誰の事か予想がついた。
「……パク・シル、ペク・セックの妹を雇うのか」
俺の質問にパク・シルは小さく頷いた。ペク・セックの家は母親と妹の二人暮らしだ。
どうしても女人だけの家族は生活が困窮する傾向にある。
最大の理由は継続的な仕事につけないためだ。
「パク従事官のお考え分かりました。まず本人の意思を確認しますがそれでよければ私には異論はありません」
「すまない、ソン・ヨナ……いや、ソン行首」
「何か水臭いですよ、パク従事官様。私も年上の方ばかりですので逆に小さな子が居てくれると助かります」
商団の形は大体出来上がった。後はソン・ヨナの手腕に任せるとしよう。
俺はそんな事を考えながら三人で宮殿への帰り道を歩いて行った。
当然、帰り道のソン・ヨナお気に入りの餅屋で土産を買って帰ることは忘れなかった。
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