表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
17/17

九月に触れる恋 後


「早瀬君……先生。」


目を上げると、小楠さんが手帳を取り出して、俺を見ている。


「次の質問会の日程だけど、十一月の第一週はどう?」


「十一月?」


急に季節が飛んだ気がして面食らう。


「うん、ほら、これから二次試験の過去問を回していくって、

早瀬君言ってたでしょ。」


小楠さんが、手帳をペンで指して話し出す。


「……そしたら、大体、十一月の第一週とか第二週の頭くらいが良さそうだよね?」


「おー……確かに。」


俺が頷くと、小楠さんが急に胸を張る。


「じゃあ、そのときまで、私、マック行かない。」


「なんで?」


「それを励みに頑張りたいんだ!

頑張って、質問会して、当たりのフライドポテトを食べるぞって!」


「俺に会えるとかじゃねェの?」


二人で吹き出してしまう。


「早瀬先生がいないと、この計画は成り立たないから、

励みっていうか、もう根幹!土壌!ね!」


俺は、その小楠さんの言葉を聞きながら、

何かがこみ上げてくるのを感じた。


そろそろ出る時間だ。

俺は、氷水になったジュースをストローで吸い上げてから言った。


「すげェ、いいと思う。この計画。

――俺が言うから、間違いねェって。」


「ワァ!早瀬君が言うなら、ご神託だ!」


小楠さんは、一度両手をピンと伸ばし、

嬉しそうに、手帳を片付ける。


(ピッ)


俺の頭に、会計レジの音が鳴る。


――そうだ。


小楠さんは、

触れ合うほど近くに俺がいることを感じて、

俺を支えにして、試合のリングに上がろうとしている。


触れ合うほどそばにいると思っているのは、

俺の独りよがりじゃないんだ。


(ピッ)


今、俺がそばにいる意味は、

欲求でも欲望でもなくて……

小楠さんに、前を向く勇気を与えること。


それなら、

俺は、ただ――そばにいるよ。


(ピッ)


俺が小楠さんを好きっていうことを、

天にも、

小楠さんにも、

見せてやる。


――レジの音はもう聞こえない。


小楠さんと俺が、

試験までに会えるのは、

もう、数えるほどもないだろう。


でも、小楠さん。

大丈夫。


――俺はいつも、


――触れ合うほどそばにいるから。


***


リュックを肩に、立ち上がる俺を見て、

慌ててかばんを持つ小楠さん。


俺は少し周りを見回した。


「あ、ごめん……」


そう言いながら、小楠さんがトレイを持って席を立とうとする。

次の瞬間、



――俺は身をかがめて、


小楠さんの唇に、

掠めるような、


キスをした。



――




***


二月の終わり、

俺は、大学の北門の脇に立っている。


腕時計を見る――試験の終了時刻だ。


じりじりと構内からざわめきが漏れてくる。

圧迫から解放された受験生たちのため息のようだ。


一人、二人と学生が出てくるようになると、

俺は北門から構内を伸びあがるようにして見渡す。


段々と黒いアリの集団のように人が増えてきて、

俺は外に追いやられる。


なかなか出てこない。

一度、連絡した方がいいのか?

いや、連絡をくれているのかも。


俺は慌てて携帯をポケットから取り出した。

そのとき、


「早瀬君。」


――青ざめた、笑顔の小楠さんが、

俺を見上げていた。



※次回、月曜日更新分で完結予定です。

最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ