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二十六歳無職がJKに助けられる話  作者: 灰音


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四話目

今、俺は昔使っていたノートパソコンを立ち上げていた。


 懐かしいなぁ……なんて少し思い出に浸っている間に、皐月は手際よく洗い物を済ませてくれている。


 ……良い子すぎて笑えてくるよな。


 そんな子に、俺からできるささやかなお返しといえば――やっぱり全人類共通の娯楽だろう。


 というわけで、こうして動作確認中である。


 正直に言うと、スペックはそこまで高くない。


 そもそもゲーム用はデスクトップPCだし、これは持ち運び用とか、ちょっとした作業ができれば便利かなって理由で持っていたものだ。


 悩む。


 一応ゲームはできなくはない。やるタイトル次第だ。


 ただ、最新のグラフィック重視なゲームとかになると厳しい。


 一旦これを渡すにしても、それだけでいいものなのか。


 かといって、急に「高スペックPC買いました!どうぞ!」なんてされたら向こうも困るよな。


 ……考えても仕方ない。


 とりあえずデータ初期化だけしておくか。


 動くことは動くし、多分大丈夫だろ。


 


「洗い物終わりましたよー」


「ありがとー。ほんと、ごめんね?」


「これぐらい気にしないでください。一々謝らなくていいです。感謝だけで十分ですよ」


「つい癖で……。気をつけるよ」


「はい。そうしてくれると、こっちとしても嬉しいので」


 ……良い考え方だな。


 多分俺は謝り続けるけど。


 癖だから。


 


「ノーパソだけど、一応ちゃんと動きそうだから使っていいよ。もし動作おかしいとか、急に電源つかなくなったとかあったらすぐ言って。多分大丈夫だと思うけど」


「ええ? 貰うのはちょっと……。貸してもらえるだけでもありがたいですし」


「まあ、どっちでもいいんだけど」


「適当すぎ……」


「ま、何か問題あったら言ってね」


「……は、はい」


 


 ……後は何だろうな。


 やっぱり部屋で快適に暮らせるかって絶対大事だよな。


 皐月の部屋、一応一通り揃ってるはずだけど。


 特に不自由はなさそうか……?


 本当はこういうのって来る前に考えておくものなんだろうな。




 そもそも俺は最初、自分はほとんど関わらないものだと思ってた。


 家族が準備してたっぽかったし、正直かなり他人事だったな。


 


 ……ふむ。


 部屋が完全に整ってから見せてもらうより、今のうちに一回確認しておく方が気持ち悪くないよな……?


「部屋にノーパソと電源とか持ってっとくね?」


 間違ってはいない。


 ……ただ、本当の理由を知ってる俺からすると、いつも以上に自分が気持ち悪い。


「え、いや、私今手空いてるんで、自分で持っていきますよ。ありがとうございます」


「あ、じゃあ電源とかマウスとか俺の部屋にあるし、それ持っていくね?」


「お願いしても大丈夫ですか?」


「流石にそれぐらいはね!」


 


 ……ふう。


 絶対普通に理由言った方がよかったな。


 不審者感がすごい。


 うーん……マウスこれでいいか?


 マウスパッドも余ってたよな……。


 


「千歳さーん。電源とかありましたー?」


「電源は大丈夫ー。マウスこれでいい? そんな汚れてないと思うけど」


「全然平気ですっ。気にしないでください」


「そっか。なら大丈夫かな」


「ありがとうございます。部屋に持っていっときますね」


「りょーかいー」


 


 ……ん?


 あれ、おかしいな。


 怪盗に全部盗まれたか、俺?


 持っていく理由が全部なくなったぞ。


 今すぐ新しいアイテムを探すか?


 いや、でも不自然だしな……。


 そもそも持っていく物が思いつかない。


 


「千歳さーん、ちょっといいですかー?」


「どしたー?」


「ちょっと来てもらっていいですか?」


「はいよー」


 


 向こうからチャンスが来てくれた。


 助かった。


 これで不審者にならずに済む……。


 


「開けるよー」


「どうぞ」


「なんか……普通に部屋だね?」


「貴方の家ですよ」


「確かに」


 


 なんかもう、普通に誰か住んでそうな部屋だった。


 多分元からあった家具と、今回買った物が合わさってるんだろうな。


 久々に入ったけど、こんな感じだったんだってちょっと驚いた。


 


「で、どうかしました?」


「段ボールで荷物送ってたのはいいんですけど、この段ボールってどうしたらいいですかね?」


「うーん……」


 


 普通なら捨てるのかな。


 でも皐月が帰る時にも必要になるなら置いておいてもいいか?


 家のスペースはあるし。


 後で家族に聞いた方がいいかな。


 まあ段ボールぐらいなら後から買っても大した額じゃないだろうけど。


 


「やっぱり千歳さんに聞いても意味なかったですか?」


「おい! やっぱりって! 自分でも薄々分かってるけどさ!」


「薄々なんですね」


「……」


「じょ、冗談ですよっ。いやだなー、ほんと冗談ですから!」


 


 二十六歳。


 あまりのダメージに絶句する。


 


「だよねー……。いや俺が思ったのは、再利用のために残すか捨てるか迷ってたんだけど……一旦分けて置いとこっか」


「分かりましたー」


 


「部屋どう?」


「ど、どうとは?」


「住めそう?」


「そりゃ……はい」


 


 ごめん。


 俺って質問下手すぎ?


 


「ならよかったー」


「贅沢すぎるぐらいですよ」


「まあ、親には言いづらいこととかあるだろうしさ。頼りない俺ぐらいに相談するのが丁度いいと思うし、何かあったら言ってくれていいから」


「確かに丁度よさそうですね」


「でしょでしょ」


「今のはちょっとバカにしたつもりだったんですけど、普通に納得されても……」


「それぐらいで丁度いいからさ、俺も」


「ならいいですけど。実際、頼りないぐらいの方が気楽でいいかもしれませんね」


 


 ……ふう。


 意外と良い関係築けてるんじゃないか?


 我ながら。


 


「結構荷物あるね」


「そうですねー。かなり絞ったつもりなんですけど、できるだけ元々ある物で済ませたかったですし」


「なるほど」


 


 お金に余裕があるなら新しい場所で全部揃えるって選択肢もあるんだろうけど。


 学生だしな。


 ……普通に住みやすそうな部屋だ。


 


「段ボール、一旦こっち持っていこう」


「了解でーす」


 


 一旦これで大丈夫だろ。


 


「こんなもんかな」


「はい! 助かりました! ありがとうございます」


「こんな感じでいつでも呼んでくれていいし。暇だから。寝てても起こしてくれていいからね?」


「わっかりましたー」


 


 急に起こされて横に立たれてたら普通に飛び跳ねるかもしれない。


 


「あ、忘れてたんだけど、お風呂とかどうする?」


「合わせますけど……」


「今日は違うけど、普段は家族もいる生活になるしな。うちのタイムスケジュールに合わせた方がいいのか」


「ですかね?」


「うちは大体夕飯食べた後、空いてる人から入るよ」


「大体どこもそうじゃないですか?」


「そうかも。今日は今から溜めるから、先入っていいよ」


「え、いやいや。私は後でいいですよ」


「俺いつも遅いんだよね」


「ほんとですか? 譲ってません?」


「ほんとほんと」


「……それなら、先に頂きますけど」


「じゃ、それで。溜まったら呼びに行くよ」


「ありがとうございます」


 


 二十分ぐらいで溜まるかな。


 実はいつも呼ばれたタイミングで行くだけだから、先も後もないんだけど。


 ……俺が入った後の風呂に入らせるの、流石にちょっと嫌だろ。


 普段そうなるなら仕方ないけど。


 ……今日ぐらいはな。


 



 


「……なんで俺の部屋にいる?」


「迷惑ですか?」


「そういう訳じゃないけど……」


「なら、いいじゃないですか!」


「そ、そうだね……」


 


 ベッドの上でごろごろしながら、皐月は当然みたいな顔をしていた。


 ……いやいや。


 距離感バグってない?


 


「今んとこパソコン大丈夫そう?」


「はい! なんにも問題ないですよー」


「今更だけど、お風呂のシャンプーとか大丈夫だった?」


「大丈夫とは?」


「相性とか? こだわりあるなら言ってくれたら買うよ?」


「なくはないんですけど……別に買ってもらうほどでもないですかね」


「そう……?」


「気を遣ってるなら本当に大丈夫だからね? こういうのって最初に言っといた方が楽だし」


 


「……欲を言えばヘアオイル欲しいです。ないと髪まとまりにくいんですよね」


「ほー? いいよ。それぐらいなら買ってあげる」


「でも申し訳ないんですけど……」


「新生活応援キャンペーンみたいなもんだよ! よくあるでしょ! 知らんけど!」


「お言葉に甘えていいですか?」


「いいよいいよ。今時すぐ届くだろうし、今買えば明日には来るでしょ」


「すいません、お金は払うので」


「いやいや。お祝いなのに自分で払ったら意味ないでしょ。気にしないで」


「うー……すいません」


「おーい。こういう時は“ありがとう”なんでしょ?」


「……そうですね。ありがとうございます」


「確かにこっちの方が気持ちいいよね。まあ自分が言える自信はないんだけど」


「気持ちは分かります」


「だよねー」


 


 自分を多少犠牲にしてでも、正しいことをしたい。


 そういう気持ちがあるんだろうな。


 俺も人にするのは平気だけど、される側になると妙に気まずい時あるし。


 


「どれがいい?」


「えっと……自分で見てみていいですか?」


「うん」


「えーっと……あ、これです」


「りょーかい。とりあえず二個買っとこうか。切れそうになったらまた言って」


「……ありがとうございます」


「良い子だ」


「なんかムカつく……」


「えー……?!」


「素直に喜べません」


「そんな……」


 


 ……年頃の女の子って難しい。




「あ、そういえばさ。俺、皐月ちゃんのこと全然知らないんだよね。普通に色々聞いてもいい?」


「ご勝手にどうぞ。答えたくない質問には答えないので」


 ……あれ?


 距離感縮んできたと思ってたけど、実はそうでもなかったのか……?


「あー……えっと。どこの高校行ってるの?」


「高峰高校ですよ」


「んー、あそこか。確かにここからならそんな遠くないよね」


「実家から通うより近いぐらいです」


「実家ってどの辺なの?」


「水津ですね」


「あー、その辺なんだ」


「ですです」


 なるほど。


 いざとなれば普通に家に戻れる距離感なんだな。


 こういう、一時的に住む場所だけ変わるパターンって、案外そういう距離感の方が多いんだろうか。


 ……いや、事情によってはもっと遠くなることだってあるか。


 そう考えると、皐月ちゃんはまだかなり恵まれてる方なのかもしれないな。


「私も気になるんで聞きたいんですけど」


「ん?」


「私について、どういう説明受けてます?」


「んー……知り合いの人の娘さんがしばらく来るって聞いてた」


「……ほんとにそれだけなんですね」


「うん」


 ……なんだろう。


 若干、憐れまれてる気がする。


 普通そこそこ事情ぐらい聞いてるでしょ、みたいな。


 いや、本当のこと言うと実は聞いてた可能性もなくはない。


 俺がその時適当に流してたか、普通に忘れてるか。


 ……否定できないのが悲しいところだ。


「私も詳しく知ってるかって言われると微妙なんですけど……親が仕事の都合で、しばらく家にいられなくなったんですよね」


「うんうん」


「父が仕事でそうなったんですけど、うちの父親って生活面かなりダメダメで。母親も結局ついていってサポートすることになったんです」


「なるほどね」


 大変そうだな。


 仕事絡みって色々あるんだろうし。


「それで元々は一人暮らしする予定だったんですけど、母が相談して今みたいな形になった感じですね」


「なるほど。まあ……皐月ちゃんしっかりしてそうだし、一人でもいけそうって思っちゃうけどな」


「……まあ、その判断もあったかもしれないですね」


 でも親としては心配なんだろうな。


 どれだけしっかりしてても高校生だし。


 なんか両方の気持ち分かるわ。


「実家で一人でも十分だったし、余計なことしないでくれよって思わなかった?」


「……まあ、正直思いましたね」


「だよね」


「それで多少揉めましたけど……色々あって、しょうがないなって感じでした」


「そりゃ大変だったね。急な環境変化だし、調子狂わないといいけど」


「狂ったら千歳さんのせいでしょうね」


「うっ……」


 いや。


 それは違うって言い切れる自信が……ないな。


「冗談でそんなダメージ受けないでくださいよ」


 冗談でもさ。


 実際そうなる可能性がゼロじゃないから、割り切れなくてダメージ受けるんだよ……。


「……出来るだけ邪魔にならないようにするし、もし邪魔だったら普通に無視してくれていいから」


「どんだけ卑屈なんですか……」


「せめて邪魔ぐらいにはならないようにしたくて……。未来ある若者なんだしさ」


「そういうのやめてくださいって」


 少しだけ皐月の声が柔らかくなる。


「あんまり言いたくないんですけど……私、既にかなり感謝してるんですよ?」


「え?」


「初日から全然居心地悪くないですし。普通に助かってますから」


「……だといいんだけどなぁ」


「本当ですって」


 皐月は少し呆れたように肩をすくめた。


「私自身、少しでも信用できてなかったら……こうやって部屋に入ってきたりしませんよ」


 ……うーん。


 最初は仲良くなるため、とかも言ってたしな。


 でも確かに。


 全く信用してない相手の部屋にこんな自然に来たりはしないか。


 ……なんか少しだけ、ポジティブになってきた気がする。


「まあ……俺としても邪険にされるより全然いいんだけどさ」


「そうならないように頑張ってくださいね」


「気を付けます……」


「ま、そういうの半分冗談なんで」


 皐月はくすっと笑った。


「私は千歳さん達と楽しく暮らすことが目標ですし」


「……おお」


「逆に何かあったらちゃんと言ってくださいね?」


「俺が?」


「はい」


「……そうかな」


「まだ分かりませんけど、たぶんそういうものじゃないですか?」


「どういうこと?」


「やっぱり歳が近い方が言いやすいことってあるじゃないですか」


「……まあ、親よりは近いけどさ」


 いや。


 近いって言ってもかなり離れてるんだけどな……。


「じゃあいいじゃないですか」


 皐月はあっさり言う。


「何かあれば、でいいんで」


「……分かった」


 いやぁ……。


 そういうのは本来、親に任せたいんだけどな。


 ……明日からどうなるんだよ、本当に。

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